056 野球部(?)への入部

「失礼しまーす」


 特にもの怖じすることなく職員室へ突入。

 あーちゃんも無表情のまま続く。

 彼女は自然体と言うよりは無頓着という感じだ。

 逆に、美海ちゃんと昇二は若干気後れ気味。


 まあ、俺も前世で現役中学生だった頃は、ちょっと入りにくさがあった。

 とは言え、これでも一応は社会人を経験した身だからな。

 そんな感覚はもうなくなった。


 教師とは言っても同じ人間であることに変わりはない。

 無駄に怖がる必要はないし、無意味に敵視する必要もないのだ。

 勿論、クソみたいな教師もいるだろう。

 けれど、社会に出れば気づく。

 どこにだって変な奴はいるし、どこにだって歪んだ奴はいる。

 それ以上でも以下でもないのだ。


「虻川先生はいらっしゃいますか?」

「ん? 虻川先生?」


 近くにいた男の先生に尋ねると、彼は職員室の中を見回した。


「多分、グラウンド前にある運動部用の部室棟のどこかにいるんじゃないかな。虻川先生は野球部の顧問だからね」

「部室棟、ですか……」


 くっ。二度手間になってしまったか。

 同好会が乱雑に活動しているだけだから、顧問とは言っても職員室にいるだろうと思ってここに来てしまったが……。

 先に陸玖ちゃん先輩に居場所の心当たりを聞いておくべきだったな。

 ……まあ、いい。一旦戻るか。


「ありがとうございます。失礼しました」


 職員室を出て、来た道を戻る。

 美海ちゃんからの視線がちょっと痛かったが、一先ずスルー。

 運動部用の部室棟に戻り、再び陸玖ちゃん先輩のところを目指す。

 また二度手間にならないように、虻川先生がいそうな場所を聞くために。

 そうして部屋の前まで戻ってきたところ、中から会話が聞こえてきた。


「津田。さっきの奇声は何だ。他から苦情が来たぞ」

「す、すみません……その、入部希望者が来て思わず……」

「……一体どこにいるんだ。その入部希望者は」

「さっき先生に入部届を出しに行くって、出ていきました……」

「……お前、夢でも見てたんじゃないか?」


 陸玖ちゃん先輩、全く信用されていないな。

 まあ、それはともかくとして。

 会話の相手は大人の男性。

 それが誰かは想像がつく。

 どうやら非常にタイミングがよかったようだ。


「失礼します!」


 ドアをノックして元気よく部屋の中に入る。


「うおっ」


 その勢いに、虻川先生は驚いたように振り返った。

 部活動紹介で最後に登壇していた時にも思ったが、見た目ちょっと小汚いな。

 清潔感の乏しい無精髭のおっさんだ。

 格好もジャージで、着こなしはラフ。

 偏見だが、独身だろう。

 それも一人暮らし。間違いない。

 前世の俺を思わせる姿だから分かる。


「虻川先生ですよね?」

「お、おお。そうだ」

「プロ野球珍プレー愛好会に入りたいのですが」

「……津田の妄想の産物じゃなかったのか」

「先生、酷いです……」


 陸玖ちゃん先輩は傷ついたように肩を落とす。

 しかし、あのハイテンション状態を思い返してしまうと、彼女の日頃の行いが悪いのだろうと思ってしまう。

 いや、悪い、と言うとちょっと語弊があるかもしれない。

 変、と言った方がよさそうだ。

 正に奇行だったからな。


「あー、多分津田は説明してないと思うから言っておくが、プロ野球珍プレー愛好会は現在津田1人しかいない。それでも大丈夫か?」

「……ええ、まあ」


 陸玖ちゃん先輩……。

 部活動紹介の時は私達とか複数形の一人称を使っていたのに。

 ちょっと呆れるが、どっちにしても大差はない。


「問題ありません」


 言いながら、3人から預かった分を含めて入部届を4枚差し出す。


「……そうか。ならいい。まあ、適当に楽しんでやってくれ。若い時間を無駄にしないようにな」


 今一やる気はなさそうな様子の虻川先生。

 だが、逆に邪魔をしてくる程の情熱もなさそうだ。

 かえって好都合だろう。


「あの、ところで、野球の道具とかってどこにあります」

「……は? お前、この学校でわざわざ野球やる気か?」

「あー、えっと、まあ、その。俺、このプロ野球珍プレー愛好会で色んな珍プレーの再現とかしてみたいんで」

「何言ってんだ、お前」

「さ、再現!? お、面白そう……」


 変なものを見るような目を向けてくる虻川先生。

 対照的に、テンションが急上昇する陸玖ちゃん先輩。

 虻川先生は微妙な顔を彼女にも向け、そのまま交互に俺と見比べる。


「……まあ、いい。一応、野球部だからな。野球をしちゃ駄目ってことはない」


 それから彼は嘆息気味に続けた。


「野球道具を使うなら、一応俺に言ってから使え。ただし、俺は監督でもコーチでも何でもないから、指導なんてしないからな」

「はい。大丈夫です」


 面倒臭そうな虻川先生に飛び切りの笑顔で返す。

 礼儀正しく。信用を得るために。

 だが、彼は「類は友を呼ぶ、か……」と呟きながら去っていった。

 失礼な。

 ……と思う俺が陸玖ちゃん先輩に失礼か。


 しかし、虻川先生。

 意外とステータスが高かったな。


状態/戦績/関係者/▽プレイヤースコープ

・虻川喜彰(成長タイプ:パワー) 〇能力詳細 〇戦績

 BC:777 SP:851 TAG:741 TAC:762 GT:784

 PS:151 TV:698 PA:688

 好感度:3/100


 もしかすると、結構ガッツリ野球をやっていた過去があるのかもしれない。

 後で【戦績】を覗いてみようかな。


 まあ、それはさておき。

 こうして俺達は、プロ野球珍プレー愛好会に所属することになったのだった。

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