第2章 雄飛の青少年期編

052 中学生活スタート

052 中学生活スタート


 山形県立向上冠中学高等学校。

 県内有数の進学校だが、スポーツの実績は乏しい。

 と言うか、皆無に等しい。

 大学進学を目指して勉学に励む。

 それがこの学校の一般的な生徒像だ。


 だから、ここに入学するのは大体小学校の段階で運動に見切りをつけた者。

 そのため、スポーツ系の部活はまともなものがない。

 それでも野球に狂った世界故か。

 野球部だけは存在している。

 一種の義務でもあるし、大会に出場すれば補助金が出るからだ。

 どんな形であれ。どれだけ大差で負けようと。


 つまるところ。

 この学校にあるのは野球部という名の箱。

 実態は名ばかりの部活動なのだが……。

 まあ、その辺りは実際に入部してから話すとしよう。


「全員同じクラスでよかったわね」

「本当にな」


 入学式の後、ホッとした様子の美海ちゃんに同意する。

 偶然にも俺とあーちゃん、美海ちゃんと昇二は同じ1年1組になれた。

 美海ちゃんは出席番号順でまた俺の後ろの席だ。


 面接で全国小学6年生硬式野球選手権大会優勝の実績をちらつかせつつ、4人一緒の方が学校にとって有益だと主張しておいたり。

 明彦氏が個人的によろしくお願いしたり。

 そういったことは特に影響していないだろう。多分。


「それにしても……」


 教室を見回して微妙な顔をする美海ちゃん。


「何だか、ひょろい子ばっかりね」

「いや、まあ、男子は成長期が少し遅いから……」


 俺は俺でそこまで成長できてないので、震え声でフォローを入れる。

 とは言うものの。

 実際、小学校の頃に何人かはいたガタイがいい子はほぼ見当たらない。

 当然と言えば当然のことだ。

 そういう子はまだ運動に見切りをつけていないケースが多い。

 中学受験をするにしても、文武両道の学校を目指すのが一般的だ。

 この学校に比較的小柄な子が集まるのは必然と言える。


「…………本当にここで大丈夫なのよね?」


 実際の様子を見て改めて不安になったのか、確認するように問う美海ちゃん。

 だが、これがこの学校の実態の全てではない。

 不安になるのはまだ早い。悪い意味で。

 それが明らかになるのは明日の部活動紹介だろう。


「しゅー君が言うなら間違いない」


 と、出席番号順で少し離れた席になったあーちゃんが傍に来て言う。

 心配し過ぎるのも困るが、無条件で受け入れ過ぎるのもまずい。


「秀治郎君が白と言ったら黒も白になりそうね」

「みなみー、しゅー君はそもそもそんなことしない」

「たとえ話よ!!」


 諭すようにマジレスされ、美海ちゃんの声が大きくなる。

 教室全体に響いて視線が集まり、彼女は恥ずかしそうに小さくなった。


「まあまあ。とりあえず辛抱強く見ててくれ」

「……うん」

「けど、あーちゃんも、俺が間違ってると思ったらちゃんと言ってくれな」

「ん。たまに言ってる」

「えっ!?」


 あーちゃんの返しに滅茶苦茶驚く美海ちゃん。

 また声が大きくなり、彼女は慌てて口を手で押さえた。

 客観的に見てあり得ない。

 そう思われるぐらい盲目的に感じるようだ。

 いや、実際盲目的だと俺も思うけど。


「しゅー君は時々わたしがしゅー君のことがどれだけ好きか、過小評価する時がある。そういう時はちゃんと正してる」


 あーちゃんの真顔の主張に、美海ちゃんは開いた口が塞がらなくなったようだ。

 しばらくして呆れたように深く深く溜息をつく。


「はいはい。ごちそうさま」

「ん。おそまつさまでした」


 お辞儀をするあーちゃんに、尚のこと頭を抱えてしまう美海ちゃん。

 うむ。仲がよくていいことだ。

 これから6年。

 いや、もっと先までこうしていられるといいな。


 ちなみに蚊帳の外になっていた昇二。

 彼は四方を見知らぬ女子に囲まれ、席を立てずにいた。

 動いたが最後、誰かのパーソナルスペースを侵害してしまう。

 そんな恐れを抱いているかのように体を強張らせて座り、プルプル震えている。

【超晩成】のせいで一層小柄な昇二。

 成長期が早く、結構体格のいい周りの女の子達。

 まるで狼に囲まれた子羊のようだった。

 ……頑張れ、昇二。

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