035 体育の野球と辛酸

 3年生になってから何度目かの体育の時間。

 ティーボールから野球に変わったことで、チーム編成にも少し変化があった。

 この2年の間に学外野球チームに加わった子も考慮に入れて、戦力が均衡するように再分配されたのだ。

 しかし、双子という例外を除き、俺のチームに学外野球チームの子はいない。

 ティーボールで無双し過ぎたせいかもしれない。

 いや、クラブ活動での試合を見据えて、というのが最たる理由か。


 ともあれ、今日もまた試合形式の授業が始まる。

 相手はチームK。

 先攻はあちらでマウンドには俺。

 キャッチャーはあーちゃん。

 ファーストは変わらず美海ちゃんが入っている。

 双子はレフトとライト。

 ピッチャーが必要になったので守備位置には大分手を入れた。


『プレイボールッ!!』


 あーちゃんの後ろの辺りから機械音声が聞こえてきて試合開始。

 毎度おなじみ、審判アプリの音声だ。

 今回は完全な野球仕様。

 キャッチャーのマスクに設置された小型カメラによって、ストライクとボールの判定も完璧に行ってくれる。

 各ベースの近くにカメラを置いてリンクさせれば、アウトとセーフまでしっかりジャッジしてくれる。

 アマチュア練習試合の強い味方だ。

 尚、正式な大会では人間の審判がいないと無効試合になってしまう。

 それが公認野球規則ルールだ。


『ストライク、ワンッ!!』


 相変わらず1番バッターに居座っている清原孝則に対し、初球アウトコース低めにストレートを投げる。

 ストライクゾーンギリギリいっぱいに決まってノーボール1ストライク。


「ちっ」


 手が出ずに清原孝則は苛立ったように舌打ちする。

 うむ。幼いな。


 されはさて置き、2球目は……。

 うん。そこだ。


 インコース低めに構えるあーちゃんを確認してから、大きく振りかぶる。

 彼女が生まれ持っている【生得スキル】【以心伝心】と【直感】の効果で、俺達の間にサインは基本的に不要だ。

【以心伝心】は好感度が一定以上だと双方向で考えがほんのり読めるというもの。

 更に【直感】で微妙なコントロールのズレも察知してカバーできる。

 あーちゃんの捕手適性はまだ上げていないが、体育レベルなら2つの【生得スキル】とステータスのゴリ押しで十分対応できる。


「ふっ!」


 投げた球は正確にミットに向かい……。

 清原孝則が振ったバットの根っこに当たって打球はドン詰まり。

 軽く捕球してファーストへ送球。


『ヒズアウトッ!!』


 美海ちゃんが捕って、審判アプリが国際標準通りにコールする。

 ピッチャーゴロで1アウトだ。

 彼は割と単純なのでストライクを見逃すと、過剰に同じコースを意識する。

 なので、インコースに投げれば逆を突けば打ち取るのは容易だ。

 まあ、相手の子供っぽさを利用した配球なので褒められたものでもないけど。


「だーっ! 何で俺の時だけいいところに来るんだよ!! いつもいつも!」


 地団太を踏みながらファーストベースの手前から戻っていく清原孝則。

 何故も何も意図的な投球だ。

 学外野球チームに所属している子には厳しくコースを突き、それ以外の子達には少し甘くしている。

 それぐらいのコントロールはこの2年で得た。


☆成長タイプ:マニュアル

☆体格補正値 -40%

☆年齢補正値 -20%

残り経験ポイント21

【Bat Control】▼△

   800(A+)

【Swing Power】▼△

   800(A+)

【Total Agility】▼△

   800(A+)

【Throwing Accurate】▼△

   800(A+)

【Grabbing Technique】▼△

   800(A+)

【Pitching Speed】▼△

   150     

【Total Vitality】

  1000(SS+)

【Pitching Accurate】▼△

   800(A+)

ポジション適性へ⇒

変化球取得画面へ⇒

スキル取得画面へ⇒

その他⇒


 数値だけを見ると既に3部リーグ級。

 だが、【体格補正】と【年齢補正】が重なるとそこまででもない。

 球速も表記は150だが、補正がかかって最高72km/h程度。

 この世界の小学3年生としては、ガチで野球をやっている子の中で並ぐらいだ。

 それでも戦績から得意不得意のコースを見極め、コントロール重視でコースを突けば相手は打てない。


 ちなみに、球速は補正のかかりが大きいためか、【成長タイプ:マニュアル】以外だと妙に高い数値となりやすいようだ。

 他のステータスに比べて上がりやすくなっている。

 それを補正で調整しているのだろう。


「あんま速くないのに!!」


 清原孝則の文句は続く。

 球速に反して打てない。

 その疑問を胸に刻みつけて深堀してくれれば彼のステップアップにもなりそうなものだが、中々学びは得られないようだ。


 まあ、皆脳筋だからね。

 仕方がないね。


 と簡単に諦めてしまうのもどうかと思うので、彼らには体育の授業で辛酸をなめ続けて貰うとしよう。

 もしかするとそれが将来の糧となり、彼が日本代表に至る未来が来ることもあるかもしれないしな。

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