022 無残な結果は普通の結果
WBW決勝戦の翌日。
ニュースは朝から晩までその話題一色だった。
『第27回WBWはアメリカの優勝という結果で幕を閉じました。やはりアメリカは強いですね』
『はい。さすがとしか言いようがありません。しかし、準優勝のドミニカも健闘しました。決勝戦は素晴らしい試合だったと思います』
……俺が見た限り、ドミニカは力負けの完敗だったけどな。
いや、まあ。
決勝トーナメント初戦の日本対アメリカに比べれば、遥かにまともな試合だったのは間違いない。
残念ながら日本はフルボッコにされてしまったからな。
WBW開幕前に注目選手として挙げられていた永原和之22歳。
彼は日本代表のエースピッチャーとしてアメリカ戦に登板したのだが……。
結果は1回と2/3を投げて7失点の大炎上。
1回裏にソロホームランで1失点。
2回裏2アウトからヒット、ヒット、3ランホームラン。
そこから四球、四球、四球でノックアウト。交代。
代わったピッチャーが満塁ホームランを打たれてしまった。
これでもう日本代表は戦意喪失。
アメリカはアメリカで後半省エネモードに入ったおかげで歴史的大敗とまではいかなかったが、最終スコアは14ー3で終わった。
前世だったら永原投手は戦犯として叩かれまくっていたに違いない。
とは言え、彼を責めるような空気はない。
少なくともテレビの論調としては。
主な要因は、相手がアメリカだったからだろう。
それに加え、この世界では決勝トーナメントに進出できれば及第点となる。
前世で言うなら、ベスト4が国連の常任理事国。
決勝トーナメント進出で非常任理事国ぐらいのイメージだからだ。
そして優勝すれば正に覇権国家。
政治に経済に、あらゆる面で優位に立つことができるが……。
その座をアメリカから奪い取ることに成功した国はいない。
だから――。
『次回、第28回WBWでこそ、日本には決勝戦まで進んで欲しいものですね』
日本代表に求められているのは精々そこまでだ。
それが現在の現実。
とは言いながら、これも中々に困難なのだけども。
サッカーとかバレーとか、他の競技のリソースがほぼ野球に来ているからな。
前世では世界大会で名前を聞かなかった国が強豪になっていたりもするのだ。
勿論、その逆もある。が、前者の方が多い。
だから、決勝戦進出は難易度で言えば前世よりも遥かに困難な目標ではある。
『そのためにもアメリカ代表に学ぶ必要があります』
『はい。データから課題もハッキリしていますからね』
……その課題がまず無理難題なんだよなあ。
やれ平均球速やスイングスピードが遅いだの。
やれ捕球から送球までの時間がどうの、肩の強さがどうの。
数字で示してちゃんと分析してる感を出してるけど、どこまでも「感」だけだ。
正直、現実的な話じゃない。
日本代表という日本人のトップアスリート集団。
何より、この世界はトレーニング理論だけは前世以上なのでフィジカル面に関しては極まっていると言っていい。
体ができてない中学生とか高校生とかがスケールアップを狙うのならともかくとして、WBWの結果を受けての課題として挙げるのはどうかと思う。
レベルをカンストさせている相手に、もうちょっとレベルを上げましょうなどと言うのはアドバイスではない。
しかし、その分析はどのメディアも変わらない。
閲覧する設備がないので、ネットの住人達がどうかは分からないけれども。
目につく範囲だと、誰も彼も脳筋としか言いようがない。
『大久保監督とエースピッチャーの永原投手はインタビューで次回大会への決意を語っています』
『――今回はくじ運に恵まれず、決勝トーナメント初戦敗退という結末になってしまいました。しかし、課題は明白ですので、その改善に取り組むのみです』
『私としても納得のいく投球はできませんでした。まだ足りない部分が多々あることを実感させられました。
4年後には必ず、一回り大きくなった姿を皆さんに見せたいと思います』
……ステータスが見えるというのも考えものだな。
何だか切なくなってきた。
永原投手が4年後を語る姿は、目も当てられない。
残念なことに彼の能力は、後はもう下降線を辿るだけなのだ。
と言うのも、彼は【生得スキル】【早熟】の所持者だからだ。
【生得スキル】【早熟】は15歳までの【経験ポイント】取得量を1.5倍にし、早い段階で体格補正や年齢補正も全盛期並みになる。
故に永原投手は、22歳という若さで日本のエースピッチャーとなった訳だ。
だが、20歳を過ぎると逆に【経験ポイント】の取得量が0.75倍となり、体格補正や年齢補正を含む能力の衰えが通常の1.5倍で進行する。
もし彼が次回大会まで現在の能力を維持できていれば、凄まじい努力をしてきたと称賛できるぐらいだ。
せめて【成長タイプ:マニュアル】だったら、デメリットを軽減できる【通常スキル】や【極みスキル】を取得させられたんだけどな……。
いや、【成長タイプ:マニュアル】だったら、そもそもプロ野球選手になんてなれてなかったか。
うーん。もどかしいな。
相手が【成長タイプ:マニュアル】でなくても、ステータスを見られるなら何かしらアドバイスできることもあるかもしれない。
けど、今の俺は単なる4歳児でしかない。
発言力は皆無だ。
結局、今は力を貯えながら世の動向を見守るしかできないな。
俺はそう再認識し、テレビの画面から視線を外した。
まだまだ小さな波紋に過ぎないその存在。
世界が変化に気づくのは数年先のこと。
本格的に野球を始動することができる小学校、極東の田舎にある学び舎から。
しかし、今は。
嵐の前の静けさであるかのように、世界は変わらぬ結果を生み続けていた。
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