STORY CAFE・魔法の路地裏店

亜里沙

1


 薄暗い路地ろじの中、煌々こうこうと光るランプ。そして香り高い珈琲コーヒーのにおい。周りの店は潰れてしまったのか、はたまた早々に店じまいをしてしまったのか、シャッターが降りている。

 あかりがついているのはこの店だけだ。

 レンガ調のレトロな雰囲気ふんいきで、他の店とは何かが違う気がした。いつか読んだヨーロッパの本にこういう小屋が出てきたな。


綺麗きれい……」


 見るからに分厚ぶあつそうなドアには、本をかたどったステンドグラスがはめ込まれている。

 何屋さんなんだろう。珈琲の香りがするからカフェかなと思ったけれど、本のマークが看板にもドアにも付いている。


 「す、すとぉりぃ…か、かふぇー」


 まだ習いたての英語力で読んだ看板には、にじんだようなかすれたような文字でそう書いてあった。



──おもしろそう。


 そう思ったけど、あわてて頭の中で考えを打ち消す。

 中1になったばっかりのしたが、寄り道なんてしたら怒られるにきまってるじゃないか。

 学ランに学校指定のリュックなんて格好かっこうじゃ確実にバレる。


──あ、本屋さんなら寄り道してもいいんだっけ。


 たしか生徒手帳にそう書いてあった。本好きな僕は小躍こおどりしたけど、上級生の目が怖くてまだ寄り道デビューはしていない。


 

──でも、誰も見ていない今なら。




 どうしよう、ここは本屋さんなんだろうか。カフェって書いてあるし、喫茶店なのかな。入ってみたいけど……見つかって怒られるかもしれないと思うと、ちょっと尻込みしてしまう。




 誰もいない路地裏ろじうらで、ひとり右往左往うおうさおうする僕。


「あのう、すみません、入ります??」


 ふと顔を上げると、そこにいたのは。


「うわあああ!!」


──カラフルな色をしたミミズクだった。

 

 

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