汚部屋の彼女
花
第1話 食事
「ふぅー。これで完成」
私、福富 聖(ひじり)は、売れない小説家だ。
もう10年も前にもなるが、1度だけ『ザ!book大賞ノミネート』を取ったことがある。【今最も注目する本!】という見出しが帯に着き、そのお陰で増刷もされた。
あれから10年…。何度書いても出版社からはボツにされている。
私は今どき珍しく手書きで原稿用紙に向かう。それはとても機械オンチで、パソコンが苦手だからだ。
今回もラブストーリーの小説を書き終えた。
「ふぁぁー。眠くなったな…」
大きなあくびをするとそのまま横になり、隣に無造作に置いてある毛布を引き寄せ、体をくるませた。
「今回は傑作だと思うから、ボツにされなければいいな…」
と、考えているうちに眠りについた。
目が覚めると日差しは眩しく、ちょうど空の真ん中辺りの高さに、太陽は登っていた。
「ん〜!」
聖は背伸びをしながら時計を見る。時計の針はもうすぐ午後の1時になるところだった。
「さすがにお腹空いたな…。」
聖は原稿を書き終える為に、昨日の朝から何も食べていなかった。
「冷蔵庫に何かあったっけ?」
足の踏み場の無い物だらけの上をガタガタと歩き、冷蔵庫を開けて見ようとした。
が、冷蔵庫の前も物だらけで、扉を開けれる状況では無い。
「えーい!邪魔だな!」
聖はそう言うと冷蔵庫の前の物を両手で掻き分けた。
ザッザー!
「よっこらしょ」
ようやく冷蔵庫の扉を開けると、オレンジジュースと、少しカビの生えた食パンが1枚と、イチゴジャムがあった。
「ラッキー!」
オレンジジュースの日付けを確認すると、1週間程賞味期限が切れている。クンクンと匂いを嗅いでみたら、臭くは無かった。
「まだいけるな」
次は食器棚からコップを取り出そうとした。が、コップは全部使ってしまい、流しの上に転がってあった。
仕方なくラッパ飲みすることにした。
カビの生えた食パンはカビの部分を手で少し取り、オープントースターで焼くことにした。
「焼けばカビ生えててもOKでしょ」
しかしオーブントースターが見当たらない。どこだ?ガサガサと物をよけるとオーブントースターの頭が出てきた。
「みっけ」
今度はコンセントを探す。確かこの辺りにコンセントの差し込みがあったはず…。オーブントースターを持ち上げコンセントの近くに置いた。
「このまま焼けば火事になるか…」
オーブントースターを置く場所を確保する為に、物だらけの上に更に物を置き、ようやくオーブントースターを床に置いた。
「床見たの久しぶりだな」
ぶつぶつ言いながら、オーブントースターに食パンを入れ5分程タイマーを回す。
その間にイチゴジャムを取り出し、一旦テーブルに置き、今度はスプーンを探した。食器棚の中には1つも無い。
「あー面倒くさい!」
探している間に
チン!
パンが焼けた。
テーブルの上からジャムをまた持って来て物の上に置き、オレンジジュースを箱ごと持ちオーブントースターの前に座った。
「いただきます」
一応挨拶はする。
焼きたてホヤホヤの食パンを適当に引きちぎり、ジャムの中に直接入れ、ジャムをすくいながら食べた。
「全然カビ臭くないじゃん。うんうん。いける」
次はオレンジジュースをラッパ飲みした。
「味も変わってないし、こっちもいける、いける」
物たちの上に座りながら朝昼兼用の食事を取った。
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