第11話
「美味しい…本当に、美味しい!」
そりゃよかったね。
しかし、その量は女性にしては少し多すぎない?しかも組み合わせとしてもどうかと思うんだけど…?いや、別に悪い訳じゃないよ?俺だってその時食べたい物を食べる。例え多少変な組み合わせだったとしても食べたりする。でも、その時は少量ずつで、普通に一人前を複数は食べない。と言うか食べれない。
まぁ、人を辞めた今の俺は軽く食べれるけど。
パエリアに天津飯に蕎麦、って…どうなん?
見事に和・洋・中を揃えたその組み合わせだと一つ一つの味が混ざって変になったりしない?大丈夫?
そんな心配をしつつの普通に一人前の食事を終えたが、相も変わらず空腹も満腹も感じない。この体どうなってんだ?排せつもしないし…。食べた分は何処に行ってるのか不思議でならない。
「ふぅ~~~~~~~~~。……食べた」
おぉ〜······いやスゴッ。人間だった頃の俺じゃ絶対に食べきれない量が、細身の、しかも女性によってきれいさっぱり食べ尽くされている。俺もそうだが、貴女も食べた物がいったい何処に行っているのか…?
「えっと、すまない。
見た事のない料理ばかりで、つい…。世話になっているのに図々しかったな…」
「いや、別に良いよ。食料に困っている訳でも無いし、腹が減っていたんだろうし、珍しさもあって…まぁ、仕方なかったんじゃないかな?」
「すまない…うっぷ」
え?ちょ、吐くのだけはやめてね?
「す、少し、休ませて、もらい、たい…。話は、後、で―――」
「―――どうぞごゆっくり」
少し呆れ、と言うかなんと言うか······いやもうハッキリ言って呆れだな。正直食べる前から分かっていたでしょうに。あんなバカみたいな量は無理だよ。普通に考えてさ。
と、呆れは多分にある訳だが少し時間を空けるのは俺としても助かる。正直聞きたい事が多すぎて困ている状況だからな。予め聞きたい事を考えていても、話している内に脱線して他の事が気になってしまい、そのまま路線を修正する事なく話を続けてしまう。マナとか活術が良い例だ。本当なら彼女たちの容態を聞き、弟くんの話をしてから何故ここに来たのかを聞きたかったはずなんだが…。しかも、瀕死と言って良いくらいの弟を背負ってまで来た理由がかなり気掛かりであるはずなのに…しっかりしろよ俺。
普通に考えて病気の者を抱えて登山なんかしない。加えてここは島だ。わざわざ海を渡ってきたことになるのだから尚更そんな事は普通やらない。
病気に苦しむ弟くんがここに連れられて来ている理由、いの一番に聞く事のはずのそれを華麗にスルーしている現状。俺は自制心0か?
反省はここまでとして、取り合えずメルトレイさんの容態。弟であるレギメルドくんの容態の話は終わった。その先のレギメルドくんの治療の話もなんとか出来た。
話せた内容はこれだけ…いや、100俺が悪い訳じゃないけどね。確かに俺もマナとか活術で話をあらぬ方向に進めてしまったけれど、メルトレイさんも知識欲に負けて話が違う方向に行ってたし…よくよく考えたら両成敗じゃん!
次に話すべきはここに来た理由。
そして、情報だな。この島の外はどうなっているのかって言うのと、この世界の話を色々と聞きたい。そして今までもぽろぽろと口にしたり、明らかに変な言動をしているけど、俺たちが違う世界から来た事をちゃんと話して理解して貰うべきだろうな。
こんな山の中に住んでいました。
これじゃ納得できんだろう。何せ未知の科学技術があるんだし、何よりも俺たちにはマナが無いって事だから、この世界の常識的に考えても信じて貰えない気がする。それなら異世界からやって来ました、の方が信じれる気がする。多分。
まぁ、時間にはかなり余裕がある。
普通【回復薬】を飲んだら既に弟くんはもう治っているはず。それだけゲームの時と変わらない性能を持っているはずの【回復薬】は、素晴らしいものなんだけど。それが治っていないってのは少し異常。世界が違うし、想定されている病気じゃないから治らなくても仕方ないとも考えられるから、異常と言うのは少し言い過ぎかもしれんが、まぁ、それだけ厄介な病気だという事だろう。
厄介であるのは確かだけど、治療自体は問題ないはず。
早期解決を目指すのなら手術をして、調査した結果出て来た【マナストーン】とか言うやつを切除して、適切なサイズだけ残してやればいいはず。ただ場所が心臓と同じ位置にあるから、癒着具合とかその他気を付ける事にはなるだろうけど、医療ポットなら特別問題にはならない。
しかし、メルトレイさんが望んだのは長期的な治療。
確実なのは手術だと思うし、このままの状態を維持してレギメルドくんの自己治癒?適応?を待って居る間、本人はそれ相応に苦しむ事になる。確実性と言う面でも、患者であるレギメルドくんを苦しませない為にも手術の方が良い気がする。
確実性って意味では、彼女からしてみれば信用できないのも頷ける。それに体を切る事にも忌避感があるのも同じく頷ける。しかし、苦しむ時間が長くなる事は彼女も理解しているはず。それでも長期間での治療を望んだ。
その理由も聞きたいところだな。
ってな訳で俺が先に聞きたい事、聞いておくべき事は。
1・ここに来た理由。
2・何故病気であるレギメルドくんを連れて来たのか?
3・早期的な治療ではなく、長期的な治療を望んだ理由。
これらを先ず聞く。
もう一つ。
家名を名乗れない、などと漏らしていた事については、まあ、別に良いかな…。聞きたくない、って訳ではないし、少しばかり気にはなるけど、おいそれと聞ける内容でも無いだろう。話してくれるのなら聞くし、口を閉ざすのならそれはそれでいい。
って感じで。
そうしてからこちらの事情を話し、この世界についての話をあれこれと聞かせてもらいたいところだな。
そうして情報をある程度収集して、方針を決定しないといけないだろう。
ここに留まるのか。逆に外に飛び出すのか。
今の気持ちとしては拠点としてここは残しつつも、この世界を見て回りたいとは思う。スローライフも良いが、正直やる事が無さ過ぎて暇だ。
このままここに引き籠ってたら…エルメリアに手を出しそうで困る。
人外となった今、俺から『性欲』が恐らく抜け落ちている。
『性欲』とはつまり『子孫繁栄』の為の本能が大本であるから、分裂をして自分を増やせる様になってしまった俺は性欲なぞ不要なものである。しかし、元々の性格や人間として暮らしていた記憶の所為か、好みドストライクのエルメリアに対して邪な想像をしてしまう事が最近増えていた。
それもこれも『暇』なのが悪い。
エルメリアが望めばそうなっても構わないけれど······いやむしろ大歓迎。なんだけど、流石に感情面での成長がまだまだなのと、俺やレコンロコン以外を知らない状況では例え望まれたとしても、悪い気がする。
これから数年、数十年かけてでも色々体験した上で俺を選んでくれた場合は望むところです。
だから、余程の理由がない限りは外へと出て、『旅』をして、『冒険』する。
これで俺が変な気を起こす事を無くせるだろう。
以上すべてのここまでの質問と情報収集、そして今後のプランを立ててからじっくりと【マナ】と【活術】について研究する。
主に、俺が、魔法を、使用する為に!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「精霊…?ここに?」
「ああ。
天空を司る大精霊【アヅガ】。
この島の中央にそびえる山の頂に住まうと伝わる伝説上の存在だ。空を駆け、天候を操り、大地に恵み与え、時に天罰を下す。そんな大精霊である【アヅガ】には様々な力の伝承があるのだが、その中の一つにどんな病も癒す力があると言われている」
「つまり、その大精霊の力で弟君であるレギメルド殿を連れ、この地に足を運んだ、と?」
「その通りだ」
ふむ…。確かに筋は通ってはいる、か。
何もしない。何もできない状態であるレギメルドくんを治すためにここまでやって来た。病に侵され苦しむ弟を無理させてでもこの地にやって来たのは、現段階で判明している情報ではメルトレイさんの自己満足でしかない。
とか、反論が出てくるぐらい俺は、大層ひねくれているだよね。
普通の人ならば当然ながら「死にたくない」と思うし、口にするだろう。しかし、世の中には例え助かる方法があったとしても、そんな道があったとしても、死を選ぶ人間は一定数存在する。
死を選ぶ理由は様々だろうが、今回のレギメルドくんに関しては単純明快。
もし、レギメルドくんが「死にたい」と「生きたくない」と言う事があったのなら、それは「これ以上苦しみたくない」だろう。究極的に人間性が『善』だったら、もしかすれば「これ以上迷惑をかけたくない」なんて意見を口にするかもしれないが…。
まあ、そんな俺の妄想はさておき。
この地に来た理由も、何故病気であるレギメルドくんを連れて来たのかもわかった。残るは一つ。
「わかった。
こちらから聞きたい事はあと一つ。何故手術ではなく経過観察を主にした長期的な治療を望んだのか、だ。勿論、貴女が初めて聞く治療方法である手術に信用が無い事と、レギメルドくんを安全とは言え、切る事を躊躇う気持ちは理解しているつもりだ。
俺としてはそれだけでも断る理由としては十分。だとは思うけど、それ以外の理由を話そうとしていたよね?あれの続きを聞かせて貰えるかな?」
「そうだな。
ハルキ殿が言う様に手術と言う方法に信用が置けない事。それに加えて、弟を斬る事は許容できない事。真っ先に出て来た私の意見はこの2つだ。
その後に頭をかすめたのは、弟が今体に存在している膨大なマナに適応できる可能性がある事だ」
そう、確かにそんな事を言っていた。
適応できるかもしれない、だ。あくまでも『かも』だ。そのどのくらいの可能性かは分からない適応と言う方法に傾いた理由が知りたい。
「マナを一時的に自身の許容量を超えて取り込んだ場合、あまり知られてはいない事だが、【マナ酔い】と呼ばれる現象が起きる。これは【マナ飽和病】の軽めなものと言って良い。【マナ飽和病】との違いは単純に治る事。極力マナを取り込まない様にし、時間経過によって治る。そして、治ったその後、自身のマナ許容量が増える」
なるほどね。
つまり、最大MPを増やすためにレギンメルドくんの治療方法を選択した。そいう事か。
「マナ許容量が増えたとして、それにどれだけの意味が?」
「マナ許容量は活術の使用回数。または強力な活術の使用可否に繋がる。これは貴族としてはとても重要な事なんだ」
貴族として、ね。
「俺が貴女たちから聞いた限りでは、貴女たちは貴族ではないはず。いや、元貴族だったはず。必要ないんじゃないの?」
「…そう、だな。
確かに私たちは今現在家名を名乗る事は許されていない。しかし、それを取り戻せるのなら?奪われたものを、壊れたものを、直せるなら、私は弟に、そうしてもらいたい」
「それは自分の為、という事か?」
「いや、違う。
ハルキ殿が言う通り、私も元は貴族だ。しかし、私は女だ。私たちが所属していた国では女は一度外れた家に戻ることは、例えどの様な理由があろうと認められていない。更に新たな家に入る事も、同じく認められていない。精々が家には入れない妾が良いところだ。
私が望むのは、弟に本来得るはずだったものを取り戻してほしい。そうしてやりたい。と、言うだけだ」
ふむ…。
聞けたら聞けたでいいや、って事まで結局聞けてしまったな。やっぱり重い話だった。
二人は元貴族。
何があったかまでは話してはいないので知らないが、何かがあって、と言うか、多分何かをされて貴族ではいられなくなった。
レギメルドくんは多分世継ぎ的な存在だったのだろう。その未来を奪われてしまい、その未来を取り戻すために、自分自身には利が無いメルトレイさんが奮闘している。って感じか。
正直まだまだレギメルドくん本人から何も聞けれていないので、メルトレイさんの勝手な押し付けの疑惑はある。が、これも普通に考えて、富裕層がその下に落ちるのは不幸と言える。それも自身が望んだ訳ではなく、誰かの策謀であったのなら猶更に。
家族としては何とかしてあげたくもなるだろう。それは想像できる。
「失礼。その取り戻すものと、今回の治療方法の選択。これはどう関係するのだ?」
「私が渇望している弟の未来とはつまるところ『貴族の位を賜る』事だ。
これを叶える方法は細かく言えば色々とあるが、今の、と言うよりも私が想像している未来の弟にとって一番手っ取り早く、そして実現可能なのが、『広域防衛活術の使用』だ」
広域防衛活術。
言葉からどんなものかは想像できるな。
「これは簡単に言えば人が暮らす地に結界を展開できるかどうかが重要になってくる。
最低でも村を守護できる範囲での活術の行使が出来なくてはならない。更に有効時間も最低2時間は必要だ」
おろ?
長さの単位は無いのに、時間の単位はあるのか?誰がどうそれを作ったのか?何故時間だけなのか?気にはなるが…特に困る事はない。だから、スルー案件ですね!
「それはどの程度の難易度なのだろうか?」
ぐいぐい行くね?ロコン。いや、悪い事じゃないな。少なくとも俺にとっては、だけど。
「多くの者にとっては不可能と言えるくらいには難しいものだな。私も使用すること自体は出来るが、精々が村程度の範囲で1時間が限界だ。これはマナの保有量、若しくはマナの使用効率が関係してくることになる。
行使できる者は都市に一人程度。街では居たり居なかったり、と言う具合だ。村となってくると居ないと断言できる程度には希少な人材であり、高難易度だな」
「なるほど。
レギメルド殿の場合、現在彼の体を蝕んでいる量のマナが体の害とならず保有量と言えるモノになった場合…」
「私の想定では軽く都市を覆える範囲で、且つ数時間は問題なく展開できる防衛活術が行使できるだろうな」
それをもって貴族に返り咲く。いや、新しく貴族になる、か。
「よくわかった。
レギメルドくんの未来の為に必要だと言うなら俺たちも協力は惜しまないし、意見を尊重しよう。だが…」
「見返り、か…」
―――え?いや、違うが?
「いやそうじゃ「今すぐに払えるものは残念ながら、無い。
拠点としていたところにまで戻ればある程度の金銭は支払う事は可能ではあるが、ここにある道具類を見る限り、私の全財産を渡したところで大したうま味とはならないだろう」…」
「いやだか「そう考えると私が差しだせるものは一つだ」らぁ…」
旨い予感―――もとい、嫌な予感!
「待っ「報酬は私自身、という事で」てい!」
実力行使!!
必殺、ノビノビのチョーーーーップ!!
「んな!?!?」
「話を勝手に進めるな」
「な、な、ななな」
「悪いね。騙してた訳じゃないんだけど…俺は人間じゃない」
カミングアウトとしては多分悪い。相当に悪い。
そうは思うが視野搾取状態だと思われるメルトレイさんを正気に素早く戻すには手っ取り早かったので、後悔はない。………いや、少しある。
「見ての通り人間とは言えないが、敵じゃない」
「……」
あらまあ。
警戒心爆上がり。
初めましての時の方がまだ警戒が緩かった気がするくらいに目が怖い。武器も持ってない状況なのにすんごい度胸。ま、武器とはいっても彼女が持っていたのは長剣一つ。そんな原始的な武器じゃ俺たちはどうにもならんけどね。
あ、一応彼女も活術って抵抗手段があるんだった。それがこの度胸の源かな?
「人以外の異形が敵ではなかった事はない」
「交渉決裂。
艦長。排除しますか?」
「ちょっと全員落ち着け」
いかん。
かなり後悔して来た…。
もっと穏便な方法で明かすべきだった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます