第2話
『今後の方針』。
正直、惑星・周辺の調査の結果が出ていない今。考えても方向転換する事になる可能性が高い事ではあるけれど。ある程度の方向性とか何通りかのパターンを考えておいても完全には無駄にはならないだろう。
たぶん。
最良なのは惑星、あるいは周辺が完全に安全地帯であった場合だ。
この場合は生活基盤を整えて、死ぬまで自由に暮らしていければいい。もう働きたくないから、『遊んで暮らす』が目的となるかな?
逆に最悪なのは惑星どころかこの周辺ですら安全ではなかった場合だ。
この場合は取り合えずの第一目標は『安全確保』だな。それと並行して第二目標である『生活基盤の構築』も一緒に目指していく必要がある。危険であるのだから当然どちらも苦労するだろう。その苦労を乗り越えて最終的には……やっぱ『遊んで暮らす』になるな…。
あ~うん。どう転んだとしても最終目標は『遊んで暮らす』。だな。
要は『目指せ!スローライフ!』だな。よし。
次!
今考えたものに必要なもの。
あ~、そっか。
自然と【データ化収納庫】にあるものが使える前提で考えてたわ。なんの不安もなく安心してたけど、これ本当に使えるのか分からないじゃん。ってか、そもそもゲームで倉庫に入れてた物が本当にあるのかもわからないじゃん。
早速確認だ。
ブリッジでは…確認できない。いや、正確にはゲームの時と同様に収納されている物の名前だけは確認出来る。だけど取り出せない。結局この不便さは仕様変更されなかったなぁ。結構みんなこの仕様には文句が多かったと思うんだけど…?
嘆いてもこれはもう変わる事はない。ここが現実だとしたら多分永遠に…。
やりたい確認は直接この手に持てる、触れれるように取り出す必要がある。それが可能なのは、自室にある端末か、外との出入口であるハッチの近くに設置した更衣室。それから倉庫に直接備わっている端末。一番近くなのは更衣室だな。レッツゴー。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「艦長」
「ん?もう終わったの?」
記憶にある限りの品物が全部収納されているのを確認。実際に手ごろな武器となる
「いえ、そもそも検査自体ができませんでした」
「なぬ?」
出来なかった?
「もしかしてメンテナンス機に問題でもあった?」
取り合えず【データ化収納庫】は問題なく使えているし、稼働している。同じく収納されていたレーザーガンも実際には撃ててはいないけれど、問題はない様に感じる。そんな中でメンテナンス機だけ稼働できない?ちょっと腑に落ちませんな。
「いえ、恐らく正常に稼働しています。
メンテナンス機を稼働させ、私自身をスキャンしたところ、私の躯体は『想定外』だそうです」
はい?
想定外って…なんでやねん。
ん?――――――想定外?
「………あ~、もしかして…?」
「何かわかりますか?」
「たぶん、ね。ちょっと待って――――――」
折角出した事だし、銃は護身用に持っておこう。何も装備してない状態じゃ今は危ないだろうし。いや、まあ、恐らく身体能力もゲームの時のままだろうからちょっとやそっとじゃ危険とはならないだろうし、何よりも艦内に侵入される事はほぼあり得ない。常時バリアが展開されてるから、俺らの誰かが許可しない限りバリアの倍部には普通は入れないし。でも、備えは必要だよな。
エルたちにも持ってもらうか…って、お?もしかしてシステム上装備不可だったものも装備できるようになってんじゃね!?って、これはまた今度調べるとして。
「取り合えず、これを護身用に携帯しててくれ」
「サー」
俺が所有する中で最強の威力を誇る小型のレーザーガンを4丁取り出して、同じだけ携帯用のホルスターを取り出す。二つはここにはいないレコンとロコン用に。そして俺用。エルメリア用は今渡して・・・エルメリアには更に着替えてもらおう。
服は……これでいっか。装飾が少なく、クールな美人さんであるエルメリアにはスーツ系の服装が似合うと思う。秘書とか教師とかそんな感じを意識しての【宇宙連邦の軍服】!
ってか、女性用のが少なすぎる。…当たり前か。俺男だし。仕様上アンドロイドたちは着替える事が出来なかったしね。
「エル。これに着替えてくれ」
「サー」
「って!?ちょ!?」
いきなり、しかもここで、目の前で、脱ぐな!!
「――――――出来たか?」
後ろを向いて衣擦れの音だけを聞いていた状況にドッキンドッキン。僅かに音が聞こえなくなった途端に我慢できずに問い掛けの言葉が勝手に漏れた。
「はい。これでいいかと思われます」
「―――うん、OKだな」
よ、よし。これで準備OK。
「それじゃあ行こうか」
「サー。
何処に向かわれるのですか?」
そりゃあ勿論。
「医務室」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やっぱり…と言いたいけれど、驚きの結果だわな」
「そうですね。驚きです」
あの、真面目な話中ではあるのですが…エルメリアさん?ちょっと近付かないでいただきたい。先程まで着ていたピチッとスーツよりもだいぶんマシだけども・・・心なしかいい匂いがががが。
そんな俺の煩悩はさておき。医務室。この部屋に設置してある【医療ポッド】。
寝台と透明のガラス出来た開閉可能なカプセル型の医療機器。あれやこれやが一体化したこれがあれば、どんな状態だろうが完璧に診断・治療を行う事が出来る優れもの。唯一の欠点が対象が『生命体』である事。当然ながら死者は生命体とは言えないので治療不可となる。ってのが確かこのポッドの説明だったはず。いやー、べらぼうに高級だったよなぁ~。
さて、そんなこんなの【医療ポット】ちゃんによる診断では『健康体』。である。
はい。おかしいね。
一応検査結果の全てをモニターに映し出して一つ一つ確認していく。
「分類としては各所に機械化手術を受けた『人間』になるのですね」
「みたいだね」
普通に考えたら「無理でしょ」ってところが機械化されているのだけど、そこはゲームの名残だろうか?ご都合がよろしいようで。
「骨格は全部金属に変えられてて、約半分の筋肉が人工筋肉に変更。更に皮膚の構成物質も変更。脳も半電子化されてる感じか…なんじゃそりゃ」
マジで。
出鱈目にもほどがあるってもんですよ?
現代医学では当然無理。ゲームの中に存在した人間を機械化する【機械化手術】でだってここまで酷くはならん。しかもエルメリアの場合は機械を人間化?したものだから・・・あん?頭がこんがらがって来た。まいいや、良い意味で酷いってだけだから。
「ある程度機械のままであったのが原因で駆動していても違和感がなかったのですね」
「だろうね。全力で動いた場合がまたどうなるのかは分からないけれども…」
こりゃ完全に『人間』と定義していいでしょうな。だからこそ言動に違いが生まれていて、感情が芽生えている。と。それに驚きの内臓も全部存在する。当たり前と言えば当たり前の事ではあるんだけど、やっぱ驚きだ。アンドロイドの時は当然ながらそんなものは無かったはずだし―――あまり見ない様にしているが、女性特有の臓器もちゃんとあって……って事は子供も作れるって事なの…か?
それはそれとして、代表としてエルメリアを調べた訳だけど、この様子じゃレコンとロコンも変わらない感じかな?もしかしたら個体差があるかもだけど。
一応エルメリアは強化を重ねて最高級の【万能型アンドロイド】で、レコンは【戦闘特化型アンドロイド】。ロコンは【思考能力特化型アンドロイド】だから違いがあったとしても驚きは薄いけど。
さて、今できる事はこれであらかた片付いたかな。
そしたらば…ん~ちょっと散歩でもしてこようかな?その前にレコンロコンにも着替えを渡して、次会うまでには着替えておいてもらわないとな!
「外で少し体を動かそうと思うんだけど?」
「一度レコンとロコンに連絡して、今現在判明している周辺の危険度を聞く事を推奨します。それに加えて準備と装備は万全にした状態でお願いします」
「了解っと、ぴっ――ぴっ――ぴっ――っと。あーロコンか」
医務室にある操作パネルを操作。
検査結果を保存し、画面を通信へと切り替えて呼び出せば先程とは違いロコンが画面に映し出された。
レコンは何してるん?
「『こちらロコン。どうかなされましたか?』」
甘いマスクで常に微笑んでいる様に見える糸目色男。執事然とした今となってはたぶん元アンドロイドの人間。相変わらずイケメンしてるわ~。
「取り合えず今優先してやれることは終わったはずだから、軽く外を見て回ろうかと思ってな?周辺の危険度を暫定でもいいからわかっていたら教えて欲しいと思って連絡した」
「『なるほ「『そとぉ~!!』」姉さん。静かに』」
「『行きたい行きたい行きたぁ~い!!ハルキ様!ウチも連れってて~!』」
おうふ。
レコンはなんか完全に感情が定着?してるっぽい。まぁ、見た目と俺が設定した性格通りの言動だから全く違和感ないけども。
「まぁ、あ~エル。レコンの代わりを頼んでもいいか?」
「サー。
私は構いませんが、現在のレコンが冷静に的確に行動できるとは思えないのですが?…不安?と言うのでしょうか?もしかしてこれが感情ですか?」
初めて感じる感情が『不安』って・・・なんと不憫な。
「あ~じゃあ、この際全員で行ってみる…とか?」
「調査映像は自動で記録されるので大きく問題とはならないでしょうが、少なからず調査の進捗に影響は出ます。それでもよろしいのですか?」
いやよろしくはないんだけど…。正直今のレコンだけをお供に連れて行くのは俺だって不安である。ないとは思うけれど勝手に行動して単独行動になったりとかは勘弁してほしいし。単独行動した際に俺もレコンも無事に帰ってこれるか分からんし。
それにどっちみち折角取り出した装備を二人にも早めに渡しておきたいし…。それに加えてエルメリアと同じくピチッとスーツを着替えていただきたいし?それにそれにどうせ全員体を動かす事はしてもらいたいし?
多少遅れるのは仕方なし。と割り切る感じで行こうかね。
「いいや。全員で行って、調査を並行で進めつつ、各々の身体能力なんかが変わりないか確かめてみよう」
「サー」「『畏まりました』」「『やったぁー!!』」
「じゃあ、レコン、ロコンはハッチまで来てくれ」
「『畏まりました』」「『了解っ!!』」
よしよし。これでいいだろう。
通信切って、っと。
「それじゃあ俺たちも行こうか」
「サー」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
全員集合。って言っても精々4人だから華やかさは・・・いや、あるな。俺視点で見て3人が集まっただけでもすげぇ華やかだわ。何せ全員が全員美形。現実世界では御見掛け出来ないレベルの美の集合である。あくまでも俺の美意識的な話だけど。それに、さっき着替えて貰った装備がこれまたいい感じ。
エルメリアには【宇宙連邦の軍服】と言う名の軍服だけど最小限の装飾になっている『ブラックスーツ』を。
レコンには唯一あった女ものの服である【sinobi(女性専用)】と言う名の忍び装束を。
ロコンには絶対これ!【燕尾服】と言う名の、まんま執事の仕事服を。
それぞれに着てもらって、あとは―――
「レコン、ロコン。これ、安全の為に装備しててくれ。必要と思ったら各自許可は必要ないから撃ってくれ。安全第一で」
「サー」「了解ッ!」「畏まりました」
いや~ただ返事を返されるのはゲームの時にもあったけど、あれはあくまでも定形文を『音』にしてただけ。今はきちんと『言葉』を発してくれてる。ゲームの時の『音』の会話だけでも愛着があったし、仲間だと思ってたこいつらに対して、今ほんの少しの会話をしただけで深く愛おしい。
…………いやはっず。
「マスター。どうかなさいましたか?」
ちょっ!?顔を近づけるなロコン!
お前男なのに!
俺男なのに!
ドキドキするでしょ!!
「何でもない」
「そうですか…。何かあればお声掛けくださいませ」
「あ、ああ。助かる・・・」
え?ロコンってこんなキャラだっけ?確かに執事っぽい設定で作ってはいるけれど…。
「艦長。今回の外出の主目的はなんですか?」
「え~今回は各自の運動能力の確認が主目的だ。五感を使っての調査をしながら移動。これで歩行と五感に問題ないかを今一度確認して欲しい。それから最後に激しく動いても問題ないかを確認したい」
「サー。
優先目的を『身体能力の測定』に設定します。第二目的を『直接的な調査』に設定します」
「サンプリングはどうなされますか?」
いや~エルメリアに続いてロコンからもまた質問。良いねイイネ!こういう会話ってすごいワクワクする!これから冒険するぞ!って感じがなんか凄く良い!
「無理のない範囲でやってくれ。くれぐれも安全第一でな。少しでも体に害がありそうな場合は情報だけでいいから。無理してサンプリングする必要はない」
「サー」「畏まりました」
・・・ん?レコンは?
「レコン?」
「へ?あ、はい!わっかりましたぁ!」
え?ちゃんと聞いてた?
「もういいかな!?行こう行こう!」
子供か!…いや、子供か。そう設定した。好奇心旺盛な性格だから子供っぽく見えるし、それに加えて感情を手に入れたのは少し前のはず。子供と言って差し支えないですね!体格もどっからどう見ても子供だしな。中学1年生って感じ。
まいっか。とりま行きましょう。
「行くか」
出発。
取り合えずどこか広めの空間が欲しい。
ただ広いだけの空間であれば艦内にもあるし、何ならここでもいいけれど万が一【ラララ宇宙号】が『破壊』or『故障』した場合が怖い。どちらも一応は船に完備されているメンテナンス機能を持ったロボットで対処出来る。本来何の問題もなく修理可能なはずだけど、ゲームが現実となった今果たしてどこまでゲームの力が通用するのか分からない。
ゲームの機能。今回で言えば『船の修理』は、ゲームでは船の壊れ方が決まっていて、毎回同じ様に直せば問題かった。船首に敵の攻撃が当たったとしてもまず初めに『船にダメージがある様に見える』のは攻撃が当たった場所ではなく、ブリッジ近くの外壁。そして毎回外壁の壊れ方は変わらない。壊れ方が変わらないから直し方も変わらない。労力も必要資材も変わらない。必要時間も変わらない。
では、今回気にすることなく艦内、若しくは船近くで身体能力の試しを行ったとする。そうした場合結果としてどこかしらにダメージを与えたとする。そうなった場合果たして直す事が出来るのだろうか?
現状では「わからない」としか答えられないよな。
だから仕方ないけど離れて行うしかない。ゆくゆくはこれも確認した方が良い事ではあるけれど…大丈夫かな?不安です。
そして―――
「後悔」
「何がですか?」
「あ~いや、何でもない」
うっかり声を漏らしてしもうたわ。即座に近くを歩いていたエルメリアが反応した。幸い少し前を歩きながら道を作っているロコンと、果たして本当に仕事である
いやしかし・・・本当の『森』ってこんなに歩き辛いものだったんだ…。つい後悔して艦内か近くで試せばよかったと思ってしまうくらいには歩くのが不便な環境だ。
だけど、そんな森をただ歩く事で身体能力が向上してる事を把握。現代日本で特にスポーツをすることなく過ごしてきた俺の本来のぽっちゃりぼでぃではこんな道なき道は開始早々でばてていたはず。
だけど、今現在、歩き始めて2、30分程度ではあるけれど疲れと言える疲れはほぼない。ただ少し「鬱陶しい」「面倒」だと思う感情があるだけだ。息切れもしていないこの体は、ほぼ間違いなくゲームにしか存在していなかったはずのアバター。若しくはそれに限りなく近い性能を持っている体だと思う。
それが分かっただけでもこの森の中の歩行は意味があったと思う。思おう。じゃないと辛い!
「因みに今向かっている方向には何か見つかってるの?」
「今我々が進んでいる部分は未調査の部分です。
飛行型調査ロボットが使えない事で調査能力が激減。その不足した部分を補うには地上で活動出来る偵察ロボットの数が足りません。ですので、今の現在地は未調査の部分となります」
「そっか」
ってか普通に情報の共有も出来てる様だ。
俺と一緒に居て、俺から離れたのは自身を調査する為に離れた数十分のみのエルメリア。調査映像を直接監視していたレコンロコンは調査状況を知っているだろうけど、そんな話を俺が居る所ではしてなかった。そうなると恐らく、情報の共有が問題なく出来ているという事なんだろう。
人間と区分できるほどに変わったエルメリアにそれが可能なのはちょっと怖いけれど、でもその機能はアンドロイドとしては必要不可欠な機能に色々と関わってくる。無くならなくてよかったと思う。
・・・あれ?じゃあ今後俺が何か隠し事したりするの絶望的に無理なのでは…?
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