第2話 悪魔との邂逅ー!? ①

 翌日の今日は、絢斗はベテラン指導教官、仁科の補助の仕事をする事になった。


仁科は、かつてはベテランスペースレンジャーだった。およそ20年余り現役として活動して、五回ほど海外から表彰されてきた。彼は、5年前までは温厚で仲間思いの性格だった。聡明で優しく、同僚や部下の相談にも真摯に耳を傾けてくれた。非常に洞察力が高く、人の気持ちを深く汲み取ってもくれた。


だが、彼はあの悪魔の日を境にガラりと性格が変わった。クールで感じが悪く、取っ付き難くなった。誰とも距離を置き、心を閉ざすようになった。


彼の事を知らない者はビクつき、すれ違う時は逃げるように早歩きで去った。

かつて仏の様に温厚だった彼は、今は凍った鬼のようになり近寄り難い存在になった。


 天王院では、彼の講義について来れなく逃げるように多くの学生が消えていったという噂だ。 かつての彼は、穏和で誰からも慕われる情に厚い人だった。


五年前のあの日、彼は左頬に火傷、右手右足は義手に義足という痛々しい姿で現場から帰ってきたのを覚えている。


あの日、彼自身に何があったのかは誰も知らない。



広い講堂では、新米レンジャーらが席を埋め尽くしといた。 彼等は、三月まで学生だった。 皆、爽やかな若者達であり、目がキラキラ輝き未来に心を踊らせている。大体、40名程だろうか…


ー懐かしい…


自分にもそんな時はあった筈だ。なりたての頃は、大志を抱きながら広大な宇宙空間にロマンを抱いていた。将来は、未知なる世界を探究しロマンを求めて冒険の旅に繰り出すのだと、意気揚々だった。


絢斗は、『天王院国際宇宙科学社』と、いう従業員数1000人規模の職場で仕事をしている。この会社は全国に800社程展開しており、日本における地球防衛の要となっている。また、多くの海外機関との提携も結んでおり、異星人との協定も多く結んでいる。

この会社は、多くの異星人が飛来してくる地球の玄関口として有名であり、異星間交流も活発に行われているとの事で有名だった。また、オリオン腕全域の翻訳機能を有する多くの人型AIを常備しており、基本的に異星人との交流にも困らなかった。

重要な星とのやり取りは、天王院を通して行われる事が多く、他の会社からも頼られる存在だ。


平均競争倍率は高く、毎年多くの志願者で溢れている。研究開発部門は12,5倍、エンジニア部門は15倍、レンジャー部門に至っては、は35倍である。


部署に採用され絢斗は名誉に感じていた筈なのだが、今は、後輩や学生の教育や雑用ばかりを二ヶ月程やらされる毎日だ。

他の同期や後輩らは、遠征に行き異星人との共闘や協定という重要な任務に務めている。その為、絢斗はフラストレーションが溜まっており、限界に来ていた。


指導教官の仁科からは『君には、レンジャーとしての大事な資質が欠けている』と言われるも、ずっとそれが分からずしまいだった。


 絢斗は、虚ろな表情で教卓で資料とプロジェクターを開いた。今年で30になる。節目の年だ。『大人としての自覚を持て』ということなのだろうかー?

だが、自分は正しいことをしてきたと思う。精神的に自立しているし、誰よりも機械の操縦に長けている。


 仁科は、数多の世界に無を轟かせるスペースレンジャーを輩出したとしても有名だ。彼自身も、かつては名高いスペースレンジャーとして顔が広く知られている。数多の戦を潜り抜け対立していた星と同盟を締結させてした。世界で数名しか取れないと言われている、英雄賞を授与された。同盟国からの信頼も厚い。 物事の本質を見極められる人で、部下の指導にも適していた。


 扉が開くと、仁科が入ってきた。彼は、教壇に立つと、ノートパソコンとプロジェクターを繋ぐ作業へと取り掛かった。彼は長身で50前後当たりの年齢であり、左頬に薄っすら火傷の跡があった。5年程前に一線から退いていたが、筋骨隆々で引き締まった身体をしていた。


「今日一日、君達の訓練を受け持つ事になった仁科です。君達は、今春からプロのレンジャーになる訳でありますが、これからは自分で自分の命を守らなくてはならない。泣いても喚いてもです。学生時代のようにいかない事を、肝に銘じるように。無限に広い深淵の世界には、未知なる恐怖が拡がっている。決して好奇心と自信だけで動かないように。場合によっては、異星人に誑かされたり喰われたりする事があります。彼等は、必ずしも友好的だとは限らない事を肝に銘じるように。奴等とお前等は、互いに不安な関係にあるんです。油断してると、深い闇の中に灰だけの姿になりますよ。」


 しばらくの間、重い沈黙が流れた。『また、始まった…』と、絢斗は軽くため息をついた。彼は、本音なのか淡々とおどしのような言葉を言い並べてくる。


だが、それは自分に向けて言っているようにも聞こえた。


 絢斗は、前々から仁科から何か、心の底に不満を抱えているような、陰りのようなものを抱えているようなものを感じていた。それがいつ爆発するのか分からない不安定さがあり、絢斗は彼が少し苦手でもあった。

 また、仁科は身長190センチの長身であるが故に、益々、それは怖さを表していた。

175センチの絢斗でさえ、適いようのない近寄り難いオーラがあった。

もしかしたら彼は、昔からそれをずっとパンドラの箱として抱えていたのでは無いかと、絢斗は思うようになった。

 

「無事生き残れても、だ。油断してると、帰ってこれなくなるかもしれない。」


 彼は、右手右足義手で義足であり、動作もぎこちない。ずるずる引きずったような歩き方をしている。右頬には、薄っすら火傷の跡がついている。彼のその姿を見て不安気な顔をした生徒が、多く見られた。


「星河、プロジェクターを回してくれ。」


絢斗は、仁科に言われたとおりに部屋を暗くしスクリーンを下げると、映写機から画像を映し出した。


ーどうせ、ロクでもないものが映されているに違いない…


異星人の強烈な画像を見せつけてくるんじゃないかー?


この前、特集で取り上げられえた『エイリアンインタビュー』だ。

確か、リ・ザーラという名のエイリアンが一芸を披露して場を盛り上げていた。

マネキンのような風貌のリ・ザーラが、たちまち人間の少女に風貌を変え、純真無垢な笑みを浮かべて芸を披露していたのだ。その場にいた司会者観客者、共に盛大に拍手をしていた。

「この映像から、分かる事はあるかな?じゃあ、一番前列の、そこの人。」

仁科は、すぐ前の席の女性を指さした。

「ええと…楽しそうに見えます。ですが、彼らは素人です・・・素人が異星人に接するときは、もっと慎重しないといけないと思います。」

「慎重にとは、例えばどんな感じにだ?」

「距離感が近すぎます。みんな、疑いの目を持たなくてはならないと思います。万が一のことがあれば怖いので。」


「大体は、いいだろう。だが、そこをどう見極めどう対処していくかが鍵となる。」

更に、仁科は続けた。

「君たちに、見せたいのがある。これから見せる映像は、異星人に簡単に心を許した愚か者たちのなれの果てだ。星河、回してくれ。」


絢斗は、言われた通りにプロジェクターを回した。


そこには、地獄絵図のような世界が広がっていた。

その戦いぶりは、強烈だった。

両腕を鎌に変身させそれ振り回し、十数人を一刀両断する者や、500メートル離れた所から見事に人の額に弾丸を当てる物、身体を爆弾に変え街を混乱に陥れる者、1人で数十体の人間関係を喰い殺す巨大クラーケンのような者、錬金術か魔力の力を使い、巨大な風の刃で建物を次々と破壊する者など、様々いた。身体を透明にし、次々とひとを喰い殺す者までいる。


「奴らは、銀河の中でも最恐と恐れられてる戦闘集団だよ。一般的な地球人の平均の10倍以上の戦闘能力と擬態能力があり、全員魔力を有している。殺人の依頼の成功率は、100パーセントだ。口外すると、殺される。奴等は、魔人と恐れられるグリム族ととのハーフ、キメラだとも言われているんだ。おまけに擬態能力も高い。何にでも化けられる。彼等、一人一人の身体の一部に蠍を象ったタトゥーがあるんだ。」


これは、アメリカ映画やゲームの世界に出てくるゾンビや魔物を駆逐する、アクション物に匹敵する、強烈な光景だ。


顔を青ざめ、あたりはザわめいた。混乱する者やパニックを起こす者までいた。


なんでまた、新人にこんなのを見せるのだろうー?


イグノアは、タチの悪い宇宙海賊団として有名だ。人をスライスチーズのようなな真っ二つに切り裂き喰らうものや、蹂躙し、街を破壊暴れ回る者が、居るという噂だ。彼等は、船長バルバロネを筆頭に、船型の巨大な艦隊に乗り、暗殺や窃盗の依頼を受け、時にはスパイ行為をするとウワサだ。


もしかして、彼等イグノアは、仁科の五年前と関係していたのだろうかー?


いいや、そんな事考えても仕方ない事だ。自分に、関係ない。


それに、イグノアという集団は、彼達は自分達には関係ないメンツだろう。自分達組織の末端だし、何かあれば上層部が動いてくれる。


絢斗は、青ざめる新人レンジャーらを知り目に、自分いつ現場に戻れるのか、ソワソワしていた。



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