森と鱗


「いや~大豊作だな!これで暫く困らないんじゃないか?」

「いや、大きいからそう見えるだけだ。種が種だったから......そこまでもたないだろうな」

 

 どっさりと積まれた野菜を前にしながら俺とシャトー(フォーク)が算段をした。オーガのお陰と言うかせいと言うかで大きさだけはある。ただ、あの食欲を考えると..........下手したら一日で食べ終わる可能性もあるな。


「種類も少ないし........種だって有る.......増やせばいいか」

 種、というか野菜そのものを増やせばいいと、昨日の朝を思い出した。


「じゃあその線で行こうぜ~。」

「ふやす?」

 

 今じゃなくていいぞ。今じゃなくて。



 

「なあ........この森はどのくらい広いんだ?」

 

 朝食を食べ終わったタイミングで、俺はシャトー(燭台)に聞いた。


「ん~?この森か?」

 

 俺が降ろされたのはかなり入り口だった。そこから少し奥に入ったところでオーガにかなり遠くここまで連れられた。だからここまでがどのくらいの距離があったのか全く分からない。


「そうだな..............えーと.......」

 

 知らないのか。すまなかった。


「ちょーと待ってくれよ.......確か地図が......」

「ちず、おっきいへや!」


 おじいちゃんと孫かな?


「そうだったそうだった。じゃ、ちょっくら行ってくるぜ~」

 

 燭台が地図を取りに行った。突き刺して持ってくるのだろうか。一回置き忘れるともう二度と取ってこれないから、流石に2個持ちで来ると思いたいが。


 シャトーが食堂を出ていくと、隣に座っていたオーガが俺の顔をじいっと見つめた。


「どうした?」

 

何かついているのかと触ってみたがその気配もない。しかしオーガは見つめたままだ。


「........ん」

 

 急にオーガは自分のズボンのポケットをゴソゴソと探ると、小さな薄い何かを取り出した。そのまま俺の胸に軽く当てると、何かを唱えた。


「あ........」

 

オーガが唱え終わると、何かが体の中に溶け込むよに消えていった。


「おい、いいのか?消えていったぞ?」

 

 何がされたのか分からないままオーガに尋ねると、オーガはニコニコしていた。


「りりすげんき!」

 

 元気?俺はもともと元気だが。


「元気?........あ」

 

 もしかして、"あれ"の事だろうか。


「りりす、め、よくない!オーガ、よくした!」

「........よくわかったな」


 別に大したことじゃないが、昔調合に失敗したときに少し視力が落ちた。生活に支障はないかったし、何とかなるレベルだったのだが。


「オーガ、なんでもわかる!」

 

 褒められたのが嬉しいのか、尻尾を揺らしながら胸を張った。


「さっき使ったのは?」

「ん!」

 

 オーガがポケットから先ほどと同じものを取り出した。これは........鱗?黒い鱗だな。


「オーガのうろこ!」

 

 自分のかい。最恐龍王オーガの鱗なら、見たことが無くて当たり前か。


「なんでもなおせる!」

 

 なるほどな。そういえば、龍王の鱗は何でも治療できると聞いたことがあったな。龍王のステータスがステータスだからお目にかかったことはないが。古い本によるとかなりの威力だとか。


 まあ、この身で今まさに体感したのだが。



「あったぞー!」

 

元気な声がしてシャトーが戻った。燭台の姿はなく、地図がヒラヒラと舞っていた。


 ........また燭台が一個消えたな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る