第43話 【フィルテイシア】

43.【フィルテイシア】









Bランク試験は【フィルテイシア】で10日間のサバイバルという事だがそのダンジョンについてよく知らないので移動時間と着替えの間に軽く調べてみた。


【フィルテイシア】は1層しかない大きなフィールド型だが陸が浮島になっておりスタート地点である上層と転移装置を使って降りる下層の2つに分かれているみたいだ。

その景色はまさにファンタジー世界と呼べるような物らしく人気のあるダンジョンだが出てくる魔物が強くBランクに指定されているので観光ツアーとしていく事が出来ず、ダンジョン内に入れるのはBランク以上の探索者だけになる。


そんなダンジョンなのになぜ景色がどんなものかとわかるのかというとダンジョン内専門の写真家兼探索者がいるからだ。

彼または彼女らはファンタジーな世界に魅せられそれを撮るために探索者になりランクを上げるほどの猛者だ。

そんな彼らの撮った写真は毎年カレンダーに使われたりダンジョン協会がつくるポスターの背景になったりとよく目にする。




「それじゃぁ行きましょうか」


「はい」


ダンジョンへと突入するための着替えも済ませ、転移陣の上へと駿河さんと一緒に入る。

【フィルテイシア】ではスタート地点が上層のどこかにランダムでとなるので多少運を使う、場所によってはいきなり強い魔物がいる地域から始まる事もあるみたいだ。


「それでは転移します」


駿河さんの合図で転移陣が起動し視界が光りでいっぱいになり何も見えなくなる、しかしそれも一瞬ですぐに視界が晴れる。

最初に感じたのは日の光の眩しさと緑の匂い、次に頬を撫でる風を感じてやっと目を開く、するとそこは森の中でどこかからか水が流れ落ちる滝の音が聞こえてくる。


「それではここから試験開始となります、私の事は気にせず好きに10日間過ごしてください、もし不測の事態が起きた場合は手を貸しますがそれ以外では基本何もしないと思っていてください」


「わかりました」


どうやらここから本格的に試験開始みたいだが、気にするなって言われても気になってしまいそうだが慣れるしかないか。


取り合えず今いる場所の確認をする、【気配感知】を使い近くに敵がいないかを調べながら【イーグルアイ】も使いさらに入念に調べていく。

普段は【気配感知】のみだが今回は見通しがいいし目視でも確認していく。


そうやって確認していくと小さな魔物がいっぱいいる反応が返ってくるので少し驚いた。

普通のダンジョンでは出てくる魔物が決まっていて多くても3~5種類ぐらいだと思う、しかしここでは現時点で既に5種類ぐらいの気配を感じる。

Fランクダンジョンで戦った『一角兎』や何か鳥の魔物の気配、猪っぽいのから鹿や狼など【気配感知】でわかる範囲だけでもその数が凄い。

【イーグルアイ】では木にとまる鳥が見えるし遠くには鹿の輪郭も見えている。


ダンジョンだがここは一つの生態系が出来上がっているように感じる。


さて、取り合えず今のところ脅威になりそうな魔物はいないしどうするか。10日間のサバイバルって事だがそれだけを達成するなら正直【野営地】にでも引きこもっていれば余裕で行けるとは思うけれどそれじゃぁ面白みがないしな。


チラッと駿河さんのほうを見てみるが特に何も言ってはこない。

う~ん、まぁいつも通りでいいか。


気にしていても始まらないしいつも通りダンジョンを楽しむ事に決めた。

買ったばかりの〝アサルトライフルEcho〟を構えて歩き出す。


10日間サバイバルするうえで食料については以前からちょっとずつ貯めておいたと言うか、買って【空間庫】へと入れっぱなしにしておいたお菓子とかの食料が残っているので余裕がある。


余裕があるけれど今回はサバイバルという事だしちょっと挑戦してみるか。


おもむろに銃を構えて森の奥を狙う。


パシュっというサイレンサーの射撃音が鳴りそれからすぐに、微かに「ぷぎゅっ」という鳴き声が聞こえてきた。


仕留めた獲物の方へと近づいていく、すると見えてきたのは『一角兎』だ。

【気配感知】で居場所を突き止め【イーグルアイ】の効果でどこに隠れていても輪郭がはっきりと見えるのでかなり楽に狩る事ができる。


【空間庫】からいつか使うかもと用意しておいたサバイバルナイフを取り出し血抜きを行っていく、動画でしか見たことが無く実際にするのは初めてだが思い出しながらやっていく。

暇な時間は銃関連の動画を漁っていたので自然とみる動画の傾向がそっちによっていくのかたまにハンティングの動画なども見る、その時にもしかしたら使うかも?と思い付き探索者用の魔物解体の動画を見たりして勉強だけはしておいたのだ。


まさかここで初めて使う事になるとは思っていなかったが。今まではそのまま【空間庫】に入れるかGPに変換するだけだったからな………


苦戦しながらも解体していく、銃弾はうまい事頭に当たっており体に損傷が無いのでやりやすい。

今回は練習なので毛皮を綺麗にはぎ取るという事は意識しない。


一応解体をしながらも周りへの【気配感知】は止めていない、こういう時が一番無防備だからな。

ちょっと気が散るけどしょうがない。


解体を続けていくと多少不格好になってしまったが何とか内臓を取り皮を剥ぎ終えたので【空間庫】へと入れておく、そのまま水を取りだし手を洗ってお終いだ。


『一角兎』は魔物だと言ってもその見た目はほぼ普通のウサギそのものだ、なのでどうしても心にずしっと重い何かがのしかかるのを感じる。

手を通して感じる温もりや感触が、普段は遠距離から銃で倒してしまうから分からない感触を強く残す。


ただゴブリンなどを倒すのとは違う、ちゃんと命を頂くという実感がわいてくる。


まぁ今までさんざん遠距離から魔物を倒しておいて何言ってんだがって感じだが、やってみないと感じない物もあるって事だな。


「ぬ、『オーク』か」


血の匂いに誘われたのか【気配感知】がオークの到来を知らせてくる、まだ距離的には十分あるはずだがどんだけ鼻がきくんだ『オーク』ってやつは。

探索者交流会で『オーク』と戦っているので話したかもしれないが、基本的に『オーク』は草食だ、だが血の匂いを嗅ぎつけると好戦的になる。

【気配感知】で『オーク』が近くにいない事を確かめてから『一角兎』を倒して解体したのだが思っていたよりも嗅覚が優れていたようだ。


以前は新井さんと雪白姉妹の4人で『オーク』を倒した、だが今回はソロだ。なので用意は十分する。

探索者交流会で戦ったときはアサルトライフルで頭を撃ったのだがあまりダメージを与えられなかった、なのであの時はたしか手足を狙って動きを阻害するのをメインにしていた。


しかし、今ではレベルもあがりスキルも増えたし武器も変わっている。


〝ハンドガンEcho〟のマガジンを徹甲榴弾がはいったマガジンへと入れ替え再びホルスターへとおさめておく。

なぜアサルトライフルの方にしないのかと思ったかもしれないが特殊弾はどういうわけかハンドガンで撃とうがアサルトライフルで撃とうがその威力が大して変わらない。


多分だけど一定以上の威力のある弾はその眼に見える結果が似たようなことになるから普通の魔物相手だと過剰火力で撃った結果が変わらないから見た目では分からないんだと思う。

これがもしもっと強い魔物で普通の銃弾ではたいしたダメージを与えられないような相手だとその効果がはっきりとわかるんだと思う。


なので現状ハンドガンで撃とうがアサルトライフルで撃とうが特殊弾については結果は変わらない。


「グァッ!」


倒す準備が完了して少しすると森の奥から『オーク』がやってきた、目視する前から匂いで気づいていたんだろう、既に臨戦態勢だ。

『オーク』との距離は30メートルほど十分に狙い撃てる距離だ。


〝アサルトライフルEcho〟を構え以前と同じ様に手足をまずは狙って撃つ。


「グッガッ!」


やはりその脂肪が身を守っているのか、以前より強くなったはずの銃でもたいしたダメージを与えられていない『オーク』は撃たれながらもドシドシと近づいてくる。


「【マハト】」


「グゴッ」


【マハト】を使うと今度はちゃんとダメージを与えられた、手足から肉がそぎ落とされていくのが見える。


「フゴッフゴッ」


「ふぅ、リロードっと」


ある程度足を狙って撃っていると流石につらかったのか『オーク』は膝立ちになり止まった、荒く乱れた鼻息がここまで聞こえる。

まずは〝アサルトライフルEcho〟のマガジンを普通に手で交換してから使い終わったマガジンは【空間庫】へと仕舞っておく、そのままアサルトライフルを背中にまわしハンドガンを太もものホルスターから抜く。


こういう最後の一撃の時って何かセリフを言ってから倒したいが………今回は駿河さんがいるしやめておこう流石に恥ずかしい。

そのままハンドガンでもう10メートルと離れていない『オーク』の頭を狙って撃つ。


「あっ」


【マハト】の効果時間内なのを忘れて徹甲榴弾を撃ってしまったからか『オーク』の頭を狙ったはずなのに威力が強すぎて上半身が吹っ飛んでしまった。


「【マハト】中の徹甲榴弾はダメか………」


これじゃぁ素材としてもGPに換えるにしても微妙になってしまった、だけどまぁGPのがましかなと思いそのまま【GunSHOP】でGPに換えていく。


さて、次は………そういえばさっきから滝の音が結構聞こえてくる。一度見てみようかな?ここは景色がいいと評判だし見てみたい。


そうと決まれば音の聞こえる方へと行ってみるか。






◇  ◇  ◇  ◇






「おぉ~めっちゃ怖い」


【フィルテイシア】上層の森を歩き滝の音が聞こえる方へと歩いていくと崖へとたどり着いた。


崖………というかこれはここは浮島になっているので下には緑色の地面が見える。さっきから聞こえていたザーっという滝の音はその崖から下へと流れ落ちている川の水の音だ。


視線の高さには雲が流れておりここが上層で高い位置にある事が自然とわかる。


「あれは『ワイバーン』か?」


雲を眺めていると視線の先に飛ぶ魔物を見つけた、青みがかった肌に手が翼になっており体は細く龍というには弱そうな見た目をしている。

あれがよく物語なので出てくる『ワイバーン』だ。


作品によっては弱く描かれていたりするが実際にはかなり強い部類に入ると思う。

そもそも『ワイバーン』はその翼を含めると10メートルほどの大きさになる、そんな大きな体の魔物が空を飛んでいて襲ってくるのだ普通に強いと思う。


体も細いがほとんどが筋肉の塊で脂肪がほとんどなく言い方を変えれば引き締まった体をしていると言える。


攻撃方法は主に上空からの奇襲に尻尾の攻撃だったり咆哮による音の攻撃、中には魔法を使ってくる種類もいるという。

ちなみに『ワイバーン』は飛ぶのに魔法は使っておらず筋肉で解決しているらしい。


30分ほど景色を眺めてボーっとする、時間はいっぱいあるんだゆっくりしてもいいだろう。


「ん、時間か」


景色を眺めていると携帯が振動してタイマーを知らせてきた、どうやら夕方になったようだ。

ダンジョンによっては外と時間が連動していて外が夜になると中も夜になる所があるがどうやら【フィルテイシア】は内部時間が変わらずずっと昼間のようだ。


「駿河さん」


「はい、何ですか」


後ろについてきていた駿河さんの方へと振り返り声をかける。


「駿河さんは俺のスキルを他人に話せないんですよね?」


「そうですね、魔法契約でそうなってます」


「今から俺のスキルで休憩場所へと行くのでついてきて欲しいのですが、どうしますか?無理にとは言わないですけど」


「休憩場所へいく………?ちょっとよく分からないんですがそうやって話すという事はスキルですね?」


「はい、異空間に休憩場所を作るスキルです」


「それなら一緒に行きましょう、私もできる事なら安全な場所で眠りたいので」


「では、行きましょうか」


念のために確認したが、駿河さんはスキルについて話せないという。ただ確かめようがないのでもう後は信じるしかない。

正直【空間庫】などは最悪ばれてもいいけど【野営地】はばれて欲しくない。

けどダンジョン内で10日間のサバイバルと聞いたとき使わないという選択肢は無かった。俺も安全に寝たいし。


「こっちへ来てくれますか?」


そういいつつ【野営地】スキルを使い入口を出す。


「ここを通るんです」


「は、はい」


駿河さんが若干引いている、まぁそりゃ先の見えない所へ入れと言われたらそうなるか、けど気にしてもしょうがないのでそのまま無視して俺は入っていく。


「すごい……」


後から入ってきた駿河さんが思わずといった感じで呟いた言葉が聞こえてきた。


「家?」


「はい、今日はあそこで寝ます」


駿河さんはまだ驚いている感じだが、俺的には早く休んで明日のための体力を回復したいので家へと入っていく、そのまま装備を外していきソファへとドカッと座る。


明日は【フィルテイシア】のどの辺に行こうかな?








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