閑話 雪白姉妹の日常 #1

閑話 雪白姉妹の日常 #1









私達双子はいつも一緒だった、学校へ行くのにも、ご飯もお風呂も寝るのにもいつも一緒だった。

双子だけれどその性格はまったく違うものになった、片方は好奇心旺盛にもう一人は引っ込み思案に。

その見た目も双子なのに全然違う、片方は最近身長がめきめきと伸びていき今では170センチを超えた長身で綺麗な赤い髪をしている女の子。もう片方は身長が152センチで止まってしまったかわりに最近胸が大きくなってきたのが悩みの桃色の髪の女の子。


双子なのに何もかも違う私達はそれでもいつも仲良しなのだ。


私が探索者になったのはお姉ちゃんの為だった。小さい頃から私の事を守ってくれるお姉ちゃん、いつも守られてばかりの私。

だから、お姉ちゃんが探索者になるって言い出した時に決意したの。少しでもお姉ちゃんを助けるために、今度は私が守るために、私も探索者になるって。


初めは反対された、両親からもお姉ちゃんからも怖がりな私には無理だって言われた。それでも私の意志は固く何とか探索者になれた、それから私達姉妹の日常は少しずつ変わっていった。





◇  ◇  ◇  ◇





いつもなら学校終わりに姉妹で遊んでいる時間、お買い物に行ったりゲームしたり。だけれど今日からは違う、指輪型ライセンスを付けた私達姉妹はダンジョンへ来ていた。



「ねぇねぇ君達、ダンジョンに入るなら俺達と一緒にどう?こっちも丁度二人なんだよね」


「いらないわ。行くわよ香奈」


「う、うん」


「あ、ちょっ……」


丁度私達と同い年ぐらいの少年が声をかけてきたが興味がなかったのでバッサリと切り捨てる。ここで少しでも応対すればしつこく食い下がられるからめんどうなのよね。


ここFランクダンジョンの【静寂の森】ではスキルオーブで習得したスキルを携えて初めてやってくるダンジョンになるので、こうやって誰かとパーティーを組もうと声をかけられることが多い。


実際ここでパーティーを組んで有名になったクランやパーティーなどがいるのでこういった行動は世間的には推奨されているのだが、声をかけられる身にもなって欲しい。

望んでもいないのに押し売りされるのには嫌気がさす。



「わぁ、すごい!話には聞いてたけどホントに外みたいだね!」


「そうね、これは想像以上だわ」


ダンジョン内に入ると、そこには草原が広がっていた。最近のVRゲームで現実と変わらない世界を旅する事が出来るようになったけれど生身には叶わない、やっぱりどこかゲームの世界とは感じるものが違うのだろう。


「あ! あそこに魔物がいるよ!」


「あれは『一角兎』ね」


草原の草むらからぴょこっと角が生えているのが見える。あれはここ【静寂の森】ダンジョンに一番多くいる魔物の『一角兎』だ。

見た感じは完全にただのウサギなのだがその見た目に騙されてはいけない、名前になっているその一角は怪我を負うには十分の威力がある。


「私が前に出て盾になるから香奈が魔法で倒して」


「うん」


玲奈がGランクダンジョンでスキルオーブから手に入れたのは【体術】スキルと言われる物だ。一般的で有名どころなスキルで、その有用性から前衛で戦う人は自力習得する人達がほとんどだ。

スキルオーブから手に入る中ではハズレと言われる部類だが、それでも強力なスキルだし、自力習得するには時間がかかるので十分だ。


玲奈に比べて香奈は【氷魔法】という希少なスキルをスキルオーブから手に入れた。玲奈が手に入れた【体術】などに比べて魔法は自力習得がほぼできないスキルだと言われている。


その理由としては魔法がどういった物かを理解出来ないからだ。それに比べてスキルオーブで魔法スキルを手に入れると、魔法とは何かを理解できるようになるので魔法を自力習得できるようになっていく。


なので基本的に魔法とは大当たりに分類されるスキルなのだ、誰もが初めて使うスキルオーブで手に入れる事を願っている。


「【バイタリティアップ】!はぁっ!」


「ぷぎゅ!」


「せいっ!」


ガンッ


「香奈!」


「【アイスニードル】!」


「ぷぎゅ~」



「上手くいったね」


「えぇ、それじゃぁ冷却ジップロックへ入れましょう」


【体術】スキルのアーツスキルである【バイタリティアップ】を唱えてから戦闘に入り、盾でうまく相手を吹き飛ばし動きを止めたら香奈が【アイスニードル】でトドメを刺す。事前に決めておいた基本的な戦い方だ。


倒した『一角兎』は腐らないように冷却ジップロックへ入れて収納袋へと入れる。この収納袋は両親が女の子二人で探索者をするなら荷物は小さい方がいいと買ってくれたものだ。


買おうと思うと結構な値段がするので盗まれないように人目につかないように使わないといけない。一応ばれない様に別で大き目のリュックサックを購入してカモフラージュに使っている。


「それじゃぁ次行きましょう」


「うん!」






「はぁっ!」


「ぎゅうー!」


片手剣の一振りがうまい事『一角兎』の喉元へと当たり一撃で倒せた。


「お疲れ様、冷却ジップロックへ入れちゃうね?」


「お願い、魔法は後何回使えそう?」


「後、3回ぐらいかな?そっちはどうなの?」


「【バイタリティアップ】も後4回ほどよ」


「それじゃぁ今日はお終いにして帰りましょうか」


「そうしましょ」





◇  ◇  ◇  ◇





それから私達姉妹は3日ダンジョンへいって1日休むをローテーションに順調にダンジョンを攻略していった。初めてダンジョンへ行ってからもう一か月ほどが経っただろうか。


現在の私達姉妹のステータスがこれだ。




名前:雪白 玲奈 年齢:15


レベル:9


STR:25

VIT:17

AGI:20

DEX:12

INT:9

MND:8


≪スキル≫

<中級>【体術】Lv:4

<初級>【剣術】Lv:2

<初級>【盾術】Lv:2





名前:雪白 香奈 年齢:15


レベル:9


STR:8

VIT:6

AGI:9

DEX:15

INT:32

MND:28


≪スキル≫

<上級>【氷魔法】Lv:5

<中級>【魔力操作】Lv:3

<中級>【魔力感知】Lv:1

<初級>【瞑想】Lv:2




玲奈は完全に前衛のステータスとなった、それに比べて香奈は後衛のステータスに。二人ともよく使うスキルのレベルが順調に上がってきていて、さらにそれに付随するように新しいスキルも習得している。


『一角兎』はもう5匹くらいならまとめて相手出来るようになったし【静寂の森】のボスである『ボス一角兎』も安定して倒せるようになった。倒した魔物は全てダンジョン協会へ売却していてそのお金は二人のお小遣いにしていいと両親から許可を貰っている。

まだ低ランク帯なので稼げても一日数千円とかだが高校生からすれば十分なお小遣い稼ぎになっている。



「ねぇこれ見て?」


「ん?探索者交流会………?」


「そう、何かあるんだって」


「ふ~ん、行くの?」


「うん」


「じゃぁ行きましょう」


「いいの?」


「いいわよ」


一人で行かれても困るもの。


「それじゃぁ探索者交流会に向けてもうちょっとレベル上げたいかな?」


「じゃぁEランクダンジョンにでも行く?」


「うん!」



こうして私達姉妹は新しいダンジョンへ行くことを決めた。





◇  ◇  ◇  ◇





「ここは何てダンジョンだっけ?」


「えっと、【夕焼けの草原】だって」


「綺麗ね」


「そうだね」


新しくきたEランクダンジョンは【夕焼けの草原】という時間が常に夕焼けの時間になっており空がオレンジ色に光っている。

ここで出てくる魔物は『グラスディアー』という鹿の魔物で食用の肉としてそこそこ人気のある魔物だ。


「いたわよ!【バイタリティアップ】!」


「【アイスダスト】!」


「はぁ!【スラッシュ】!」


「ぎゅぅぎゅ!」




「いけるわね」


「うん、思ったより余裕だね」


ステータスが上がり以前より早く動けるようになった体、以前とは比べ物にならない力。今までだったら2リットルのペットボトルを一つしか持てないぐらいの力しかなかったが今では5本ぐらいなら余裕で片手で持てるようになった。


『グラスディアー』は野生のシカよりちょっと大きいぐらいの体躯なので普通に持って帰ろうとすれば1~2匹が限界だろう。

私達は収納袋があるので何匹でも持って帰れるけれどね。


「それじゃぁ今日もいっぱい狩りましょう」


「うん!」





◇  ◇  ◇  ◇





「ここが集合場所ね」


「うん」


遂にやって来た探索者交流会の日、私達姉妹は【週末の夜】ダンジョンにある協会へとやってきた。

ここはダンジョンの名前にあるとおり週末に混むダンジョンなので平日の今はそこまでの人はいないが元々人気のあるダンジョンなので他の場所に比べれば人がいる方だと思う。


ダンジョン協会内へ入り集合場所である会議室3へと向かう、中へ入ると既に人が待っていた。


一人は冴えない中年の男性、くたびれた感じが残念な雰囲気を出している。社畜のサラリーマンって感じ。


もう一人は私達と同じぐらいの男の子、鋭い目つきが少し怖い。出来るなら近づきたくない部類の男性だ。


「ん?おはようございます」


「お、おはようございます」


まだ集合まで時間があったので既に待っているとはおもわず少し詰まってしまったがなんとか挨拶をする。


「おはようございます」


「おはようございます」


お互いに挨拶をして席へと座る。


「あ、可愛い。狐?」


「えぇ、私の召喚獣のムンちゃんです。ほら、ムンちゃん挨拶して?」


「きゅ!」


ここに狐がいるのには驚いたがくたびれたサラリーマンの男性の召喚獣だそうだ。かわいい。


その後も雑談をして自己紹介をしていると教官役の女性がやってきたので【週末の夜】ダンジョンへと向かった。こうして私達の探索者交流会が始まった。





◇  ◇  ◇  ◇





一日目はお互いに扱う武器やスキルを自己紹介をして教官の見守る中オークを倒していった。

初めてのパーティーにしては中々上手に連携がとれたんじゃないだろうか?初めてオークを倒したが見た目がちょっと気持ち悪かったぐらいでその他は平気だった。


いつも通り【バイタリティアップ】を使ってから戦闘を始める。【氷魔法】で目くらましをして、オークを相手取るがやはりDランクの魔物は強く私達だけでは抑えきれない、そこに新しく二人の男性が増えたことでオークの注意が分散して戦いやすかった。


いつも二人で戦っていたから気づかなかったが、人が増えるっていうだけでこれだけ楽になるとは思っていなかった。

因みに彼らは、くたびれた男性の方が新井さん。私達と同い年の男の子が神薙さんというらしい。


その日の売り上げは一人3万円だった、今までとは比較にならないほどの稼ぎだ。さすがに人気のあるダンジョンだと思った。


だけれどそれも教官役である佐々野さんが収納袋を使ってくれたからだと思う。つまり収納袋を持っている私達にはこれぐらいの金額を稼ぐことが出来るって事だ。


探索者交流会の一日目が終わってから佐々野さんが交流会なんだし打ち上げにでもいけば?と言ったので新井さんがおすすめのお店に連れて行ってくれた。

個人でやっている小さなお店で雰囲気も良くご飯も美味しかった、個人的にまた行こうと二人で決めたほどだ。



探索者交流会が2日目3日目となるにつれてみんなのレベルが上がりスキルのレベルも上がりどんどんとオークを倒しやすくなっていった。

2日目は一人9万、もはやお小遣いの範疇を越えついに両親が全部使わずに少しは貯金しておきなさいと言い出すまでになった。その案には賛成なので二人で貯金箱を買ってそこに入れていくことにした。


3日目も前日と変わらず順調にオークを倒していった。


問題が起きたのは4日目だ。


「あれはっ………【ダンジョンウォーカー】かっ!」


佐々野さんの驚き叫ぶ声が聞こえてくる。今まで常に冷静で静かに見守っていてくれた彼女がこれほどまでに慌てるとはただ事じゃないと思い心臓の打つ音が早くなっていく。


「【ダンジョンウォーカー】ですか?」


神薙さんの間の抜けた声が聞こえる。


「あぁ、【ダンジョンウォーカー】はダンジョン内を自由に移動する特殊な魔物でな、そのほとんどが最下層の魔物なんだが………通常ならこんな浅い階層にくるまでに発見されてもっと早くに情報が出るはずなんだが、どうなっているんだ?ここは1階層だぞ!?」


どうやら明らかな異常状態らしい。今までに起きたことのない事態に手が震えてくる。


「しかも面倒な事にあの【ダンジョンウォーカー】はトロールだぞ………通常、再生能力が厄介なトロールは倒すのにCランクパーティーかBランクが二人は必要だ、それだけでもめんどくさいのに【ダンジョンウォーカー】となった魔物は通常より強い傾向がある。恐らくあのトロールを倒すにはBランクパーティーでないと無理だろう」


心を落ち着けようとするが次から次へと落ち着かない情報が入ってくる、額には汗が流れ足も震えてくる。


距離はあるはずのにプレッシャーを感じる、あのトロールの腕の一振りで私達は死んでしまうだろう。


「取り合えず先にダンジョン協会へ連絡を済ませる、お前たちは先に避難するんだ。ここに居ては危ない」


ぴぴぴっぴぴぴっ『緊急連絡、緊急連絡!【週末の夜】ダンジョンで【ダンジョンウォーカー】が確認されました。該当地域にいるCランク以下の探索者は避難してください』


指輪型ライセンスから緊急連絡がくるが見る余裕もない。


「これで後は救援が来るまであいつをここで引き付けておくだけだ。早くお前たちは避難しろ」


「香奈行くわよ」


「う、うん」


ハッとしてすぐに避難する、ここにこれ以上いても危険なだけだ。


「新井と神薙も早く避難しろよ!【獣化】!!」


後ろから佐々野さんのスキルを使う声が聞こえて思わず振り返る。

彼女が【獣化】と叫ぶとその見た目が狼のようになり尻尾や耳が生えてきた。そんな変化を見つつも急いで避難する。


ドゴッ!バキバキバキ


「何の音!?」


大きな音に思わず振り返ると遠くでトロールに突っ込んでいった佐々野さんが大きく吹き飛ばされているのが見えた。


「どうしよう?」


「逃げるしかないでしょ!Bランクの佐々野さんでも相手にならない魔物なんて私達じゃいてもいなくても一緒でしょ!」


「でも………」


私達がどうするか悩んで足を止めている間に、逃げていなかった二人が佐々野さんの救出を決めたようでトロールと戦い始めた。


神薙という男の子がどこからか取り出した武器でトロールを撃ち抜き足止めをしている。


「あれ………手伝うべきかな?」


「私達がいっても足手まといになるだけよ、ここで見ていましょう」


一応すぐにでも逃げれるように大きく離れてその戦いを見る。

ジャキンッジャキンッと銃を撃つ音だけがかすかに聞こえてくる。


途中から突然銃の威力が上がりさらにトロールにダメージを与えているように見える。もしかしたらこのまま倒せるんじゃ?って一瞬おもったがどうやら倒すほどの威力はないようだ。


「二人とも!まだ逃げていなかったんですか!?」


トロールとの戦いを見ていると新井さんが佐々野さんを引きずって戻ってきていた。


「早く今のうちに逃げますよ!」


「でも………彼が」


「彼が何のために足止めしていると思っているんですか!早くいきますよ!」


新井さんは佐々野さんを背負い歩いていくのでついていく。少しづつ戦闘音から離れていきいつの間にか音が聞こえなくなっていった。


「大丈夫でしょうか………」


「私達は逃げるしかないわ」


何分歩いていただろうか。出口まではそれほど離れていないはずだが佐々野さんを背負っている新井さんがいる以上これ以上のスピードが出せないのでしょうがない。


「ハッ!ここはどこだ!トロールはどうなった!?」


新井さんに背負われていた佐々野さんが突然起きた。


「神薙君が救援が来るまでトロールの足止めをすると言って残りました」


「何だと!くそっ!お前たちはこのまま出口へ向かえ!私はトロールと戦う!」


「怪我をしているんですよ!?ちょっと!」


静止の声も聞かず佐々野さんは戦いに行ってしまった。





◇  ◇  ◇  ◇




「はぁ………」


あの後どういうわけかトロールは救援が来る前に倒されらしい。私達は既に避難した後だったので詳細はしらない。


今は自宅で自分の不甲斐なさに打ちひしがれている所だ。


「玲奈」


「お姉ちゃん………」


「大丈夫だよ、こっちにおいで」


香奈お姉ちゃんはいつもやってくれているように抱きしめてくれる。お姉ちゃんに抱きしめられると落ち着く。


「怖かったよね。でも、もう大丈夫だからね。よしよし」


「お姉ちゃん~」


「ふふっ、いつまでたっても甘えん坊なんだから」


よく間違われるが私は妹だ、お姉ちゃんは香奈の方なのだ。双子だからどっちが姉でどっちが妹かなんて関係ないと思われるかもしれないが私達にとっては重要だ。


いつも私を守ってくれるお姉ちゃん………今度は私が守るはずだったのに。


「もう、探索者やめる?いいのよ?」


「ううん、やめない。ここで辞めたらお姉ちゃんを守れないもん」


「ふふっ、ありがとうね」


静かな時間が流れる、これが私達雪白姉妹の日常だ。







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