皇伊万里

 皇伊万里は上司からのパワハラが原因で、新卒から入っていた会社を退職し、転職活動をしていた。伊万里が受けた企業は50社。だが、全部不採用という結果だった。

 そんなある日、伊万里は求人サイトにある求人を見つけた。

「何でも屋…」

 伊万里はその求人をじっくり読んだ。掃除から子供のお迎えなど何でも行い、社長はなんと牛鬼という妖怪だった。数年前から妖怪達は、人間と共存するようになり、妖怪が人間の学校に通ったり、会社に勤めたりしている世の中となっていた。


 伊万里は何でも屋の求人に早速応募し、次に何でも屋から面接の連絡を受け、伊万里は都内の3階建ての小さなビルに行き、何でも屋がある2階まで階段を登った。ドアのチャイムを鳴らし、中から40代ぐらいの男性が出てきた。

「本日、面接で参りました皇伊万里と申します!」

「お待ちしてました。私、この何でも屋の社長の鬼塚清志郎と申します」

 伊万里は鬼塚に案内され、お互い向かい合って座った。

 鬼塚は、伊万里に志望動機などを質問をした。その後、伊万里からも業務の事でいくつか質問をした。

 鬼塚は何かを思い出したように

「皇さん、求人を見たと思うんだけど、僕は、牛鬼という妖怪なんだ」

 すると鬼塚の姿はあっという間に牛鬼になった。

「これでも大丈夫?」

 鬼塚は聞いた。

 伊万里は少しびびったが、頷いた。

「はい。この数年妖怪が人間と一緒に働いたり学校に通ったりしている世の中になりましたから」

「よかった」

 鬼塚はそう言って人間の姿になった。

「皇さん」

 鬼塚は真っ直ぐ伊万里を見ると

「貴方、採用!内定!」

 とニヤリと笑った。

 伊万里は訳わからなかったが、自分を落ち着かせると

「ありがとうございます!」

 嬉しそうに返事した。

「では、他の仲間を紹介します!本郷君!阿南さん!」

 そう呼ばれて30代ぐらいの男性と伊万里より少し年上の女性が出てきた。

「鬼塚さん、なんですか?」

「急にどうしました?」

「紹介するよ!新しく何でも屋に入った皇伊万里さん!」

 鬼塚にそう言われ、伊万里は2人に会釈した。

「皇伊万里と申します」

「本郷岳です」

 男性は言った。

「阿南一華です〜」

 女性は言った。

「2人とも優しいからお仕事の事、何でも聞いてね!後、明日から宜しくお願いします!」

 鬼塚は伊万里に向けてウィンクした。

「はい、宜しくお願い致します」

 伊万里は戸惑った。内定をもらったのは、嬉しいが、明日から急に働く事になったからだ。だが、伊万里はこの何でも屋なら長く続けられると根拠はないが、そう感じていた。




 その夜、伊万里は11歳年上の恋人の男虎おのとら桜太郎おうたろうに何でも屋から内定を貰った事を話した。

「伊万里、おめでとう!よかったね!決まって!」

「はい。なんだか長く続けられそうな気がするんですけど」

「けど?」

「社長の鬼塚さん、無茶苦茶自由人そうだし、若干心配…」

「大丈夫だよ!話聞く限り鬼塚さんって牛鬼は性格悪くないみたいだからパワハラなさそう」

「桜太郎さん、ありがとうございます」

 伊万里は桜太郎に笑顔を向けた。




 だが、この後、事件が起こるとは伊万里や鬼塚は予想していなかった。

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