第28話
「ショウの規則にはそういうのは無いな。参加者はどうしても勇者でなければ。その勇者には全額の100万クレジットがピッタリだよ」
ハリーは考え込むような調子で言った。
その顔は何か面白いことを考えていると言った顔になる。
「そうだ。おチビちゃん。この館の奥には黄金の至宝というのがあるんだ。伝説上のものだけどね。その宝物を持ってきたら考えても良いよ。ただし、旅行気分で行ってきてね。それくらいの勇者ならば何でも聞いてあげるよ」
ハリーはそう言うと、さも上機嫌といった顔をして手を叩いた。
僕はその時、おじいちゃんの館を探検し、あまつさえ伝説上の宝物をゲット出来ることに眩暈にも似た嬉しさを感じた。
「じゃあ。その宝物を取ってきたらいいんだね」
僕は興奮しているのが自分でも解る。
「おい、ハリー。それはないだろう。ルージー夫人が可哀そうだよ。おチビちゃんが旅行をしてから……その間、焦げた顔をしていないといけないなんて……」
コルジンは両手を揉みながら上半身に筋肉を引き寄せた。
まるで、仕事というか交渉というか戦いの姿勢だった。でも、僕はそんなこと一向に構わないんだけどね。だって、伝説の宝物だよ。こっちの方が優先さ。確かにルージー夫人の顔が、僕が旅行に行っている間、焦げたままなのは可愛そうだとは思うよ。きっと、医者に診てもらうのにはお金が必要で、ルージー夫妻にはそのお金がないことも知っている。
それじゃあ、こうしよう。僕がなるべく早く、その黄金の至宝というものを取ってくればいいんだ。
「ハリーさん。僕は行くよ。出来るだけ早くに、このおじいちゃんの館にある伝説上の宝物……。きっと、取ってくるよ」
コルジンは顔を両手で覆い。「あーああ。」と言った。
「おチビちゃん。伝説上の宝物なんて、きっと簡単には取れっこない。このハリーの部屋から旅行をした人は……確かに、今まで少ないだろうけれど、そんな宝物なんてみんな知っていても知らんぷりだ」
コルジンは今度は頭抱える。
「この館には娯楽がない……。俺はそんなんじゃつまらないと思うのさ。だから、こういった遊びはこの館では貴重なスパイスだよ。そう……必要なのさ」
ハリーおじさんは目を嬉しそうに四方八方に向ける。
僕は正直、ハリーの言い分もコルジンの言い分も正しいと思った。
「あの。その黄金の至宝って、どういうものなの」
僕は更に興味を持つ。
「そうだねー。この館は今から700年前に造られたんだよ。その時には、館の中心にいつも光り輝いていたんだが……どうしてか、ある時どこかに行ってしまったんだよ。きっと、あんまりキラキラしているものだから誰かが妬んだんだね」
ハリーの説明に僕は、
「それじゃあ。そのキラキラ光るものがどんな形のものなのか、知っていたらもっと詳しく教えて下さい。あんまり大きいと持ってこれないと思うし……」
「それは大丈夫さ。それは手の平サイズ……だったみたいだ。そして、持った人のままに形が変化するみたいだよ」
僕はきっと、その宝物を見つけることが出来ると、直観めいたものを感じた。
「それなら、この100万クレジットのビスケットは今は渡さない方がいいですよね」
僕はビスケットをどうしようかと考える。
「そうだねー。旅行から帰ったら渡してもらうよ。黄金の至宝と一緒にさ。それまでは……大切にどっかに保管しててくれよ」
「坊主。中の中には入るなよ」
雲助が強く言った。
――――
「ハリーの部屋からの旅行が僕は今から楽しみだよ。本当に」
館の迷路を歩いていると、コルジンが僕の脇腹を突いた。
「おチビちゃん。この館の亡霊はどうするんだ。俺が守ってやりたいんだが……仕事もあるしな……」
「大丈夫さ。何とかなるよ、きっと」
「おチビちゃん。そういえば、一人で行くのかい。さすがにそれは危ないんじゃないかい」
「平気。僕は死を恐れないよ。けど、何人まで行っていいのかな。その旅行は?」
迷路の廊下には幾つものドアがカラフルな色をして、ゆるゆると僕の両脇を通り過ぎて行く。
「そうだ。グッテンを連れて行くのはどうだい。あいつはいつも研究ってやつをしているだけだし、何週間くらい休んでもいいだろう」
「う……」
雲助が唸る。
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