第17話

 コルジンと僕以外が驚嘆する。どうやら肉を挟んだバーガーは食べ物としては高価なものらしい。僕は何度かコルジンに食べさせてもらっているけど……。


 多分、みんなコルジンのようには、頑張って毎日仕事をしないのだろう。

 大人たちは喜んでは汚れた手で元気にハムサンドバーガーに噛ぶりつきながら、ハリーのショーの事で持ち切りになった。

「ハリーはこの館での一番の金持ちさ。だから、きっとぶっ飛べるほど楽しいショーを思い付いたんだよ。何せ仕事をした時が一度もないからな」

「俺も仕事をしないくらいに、ご先祖様が働いていればなあ。そしたら、俺も何か娯楽を思いついたりしていたんだが」

「まさか、お前なら単に踊ったり歌ったりくらいだろうよ」

 大人たちの話にコルジンは僕にウインクしてみて、

「神話では……グッテンから教えてもらったんだが。朝、目覚めたら。太陽という奴は、毎日毎日休むことなく天高く昇るんだそうだ。俺はそんな奴に感激し、体を鍛えてこの仕事を精一杯好きになったんだ。俺は例え金持ちになったとしても、娯楽が少しでもあれば十分。毎日仕事を精一杯するぜ」


 コルジンはそう言うと、汚れた手で熱々のハムサンドバーガーに噛ぶりつきながら、

「飯食ったら早めにみんなと一緒に行こうや。おチビちゃんもその方がいいだろう」

「うん。これでハリーとの約束を守れるよ。後、太陽って……」

 僕は熱々のハムサンドバーガーを急いで食べながら、太陽は人じゃないと言うのをやめた。僕は今の仕事に精を出すコルジンがとても好きだった。そんな彼に水をさすことはしない方がいいよね。

 「あ、雲助の食事忘れていた。悪い雲助」

 雲助はグッテンから見えない僕の頭の後ろに隠れていたが、

「腹が減るぞヨルダン」

 と、蚊の泣く声を出した。

「僕の食べているハムサンドバーガーにある。サラダの部分。やるよ」

 僕はそう言うと、雲助にハムサンドバーガーのサラダの部分にある。スライスされたキュウリをつまむと頭の方へと持っていく。

 雲助が6本の腕で取り上げる。

「食おう。食おう。」

 雲助は喜んでキュウリにありついた。

 なかなかに美味しいハムサンドバーガーだった。あの嫌なルージー夫妻のハムサンドバーガーではなければ、きっともっと美味しく感じられたのに……。


 コルジンや大人たちの話の中、グッテンはやっぱり沈んだ顔をしている。そんなに……ハリーが心配なのかな。

 確かに館の亡霊に奥さんを殺されてしまったのは、やっぱり悲しいことだけど、でも、きっと楽しいショーだよ。そう、きっとだ。

「みなさん。そろそろ13時です。金色のドアへとお急ぎ下さい」

 細い女が腕時計を見詰めて高い声を出す。

 大人たちは一斉に青いエプロンを脱ぎ捨て、そして、天使の扉からぞろぞろと出てきた。細い女は一行の先頭に立ち、みんなを案内してくれる。僕は後ろを向くと、グッテンも付いて来ていた。

「今日のお給料は特別です。お支払いしますよ」

 細い女が事務的に念を押してくれる。

僕はまた中途半端な仕事で給料を貰うことになってしまった。今度は絶対に仕事を最後までやり抜きたい。

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