第13話

 僕の知っている鹿や魚は、この館では食べられないのだろう。

 マルコイの乗っかっているレジのようなところの脇には、大きめの冷蔵庫が6つもある。冷蔵庫はそれぞれ地面から天井まで伸びていて、天井の方には見た事もない複雑な機械が取り付けてあった。冷蔵庫の中身は細かく区分けされたガラスに小さくカットされた肉が入っている。

 機械の正面に{メイド・イン・トーマス}と書かれてある。

 鳥肉もあるようで、かなり奥に鶏が数羽いるようだ。


 泥だらけの壁には檻の中の動物の値段が数行、書いてあった。牛は500クレジット、豚、400クレジット、鳥は少量、1200クレジット。豚は一切れだと60クレジットだった。

「大丈夫、お金はあるよ。あ、鳥だけとても高いんだね。どうして?」

 僕のお金では豚一切れだ。買おうかな?

「うーん、と。おやじの代からこの値段だからな……?要するに解らないんだよ。グッテン。解るか?」

 マルコイは髭をポリポリしだした。

「え?鳥が何故高いのかって。私も解らないんだよ。ここには初めて来たし、正直……肉は一度も食べた時がないから」

 グッテンはレタスをまた口に放り込み、興味がないといった顔をした。

 僕が思うに、鳥は空と関係しているからだろうか。でも、単に数が少ないからかも。

「しかし……。私が思うに動物のえさは野菜や草だが、鳥だと貴重な卵の殻だから……。だと思う。それに数が少ない。マルコイひょっとして、交配技術を忘れたのかい?」

「いや、そうじゃないと思うんだが、何故か俺たちの代になってから数が減ったな」


 そうか。鳥のえさが貴重なのは、僕も鷲を飼っているので知っていた。鷲には新鮮な生肉を小さいが数枚与えていたんだっけ。確かに育てるのが大変だ。

 その時、僕のお腹が鳴った。

「あ……。私だけ食べていたんだったな。悪い、ヨルダンくん。その布袋にはパンが入っているが……」

 グッテンはそう言うと、抱えているレタスを1枚剥がす。そして、徐に僕の口へとレタスを持って行った。布袋を開けようとした僕の口にはレタスが詰め込められる。

「むぐ。ちょっと待って!マルコイさん。僕、肉を買うよ」

 僕はズボンのポケットから60クレジット出す。

「毎度あり。じゃあ、この中から選んでくれ」

 そう言うと、マルコイは透明な幾つかのガラスを指差した。

 それは、豚一切れの段だ。


 僕はレタスを口いっぱいに噛みながら指差してから気が付いた。

「あ!」

 僕はハリーのショーと、ハリーの約束を思い出したが、時すでに遅く。

「この肉でいいんだな。ここで調理するかい金はいらないぜ」

 マルコイはガラスを一つ開けると、一切れの肉を取り出す。

 そして、レジの上のオーブンで約15分。丁寧に青い紙に包装してくれたが、僕は浮かない顔で、やってしまったの顔をしていた。

 顔が青くなりそうなのを、必死で堪えた。

 その後、再び迷路のような通路を心がしぼんだ僕とグッテンが歩く。

 館の迷路は僕の頭にはこの時も入らなかった。

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