第11話 不思議な生活
二人は親友なのかと僕は考えるが、友達を持ったことがない僕にはそれが何なのか解らない。友達や仲間を持つ人の実感が湧かない。
けれど、この館には興味が尽きるということが、永遠にないということが解った。僕はボロ雑巾を隅っこのバケツの中に放り込み。グッテンのところへと駆け出した。雲助が悲鳴を上げる……蜘蛛の悲鳴なんか初めて聞いた。
僕は外へ出たら、グッテンの後を目の回る迷路を歩き回った。館の中の通路はやはり迷路だ。僕は天使の扉から更に奥へと行ったのだ。グッテンは迷路をまったく苦にしていないといった顔で、僕が一度も開けた時が無いドアを開けた。
それは、薄いグリーンのドア。正面に薄いピンクのドアと並んでいる。ドアを開けながらグッテンは、
「薄いピンクのドアは食用動物園さ。金がないと入れない」
「幾ら位のお金が必要なの?」
グッテンは僕を薄いグリーンのドアの中へ入れ、
「そうだな。60クレジット位かな……。多分……私は肉を食べないのさ」
「え、ハムや焼き肉も高いの?」
「そうさ、ハムも高級品さ。この館では高い。私はドアに閉じこもる本の虫で、仕事をしないから……給料を貰っていないけれど……。肉は食べたいとは思わない」
グッテンはオールバックの頭を両手で撫で挙げる。
食用栽培園。
濃密な土の匂いがする広大な部屋は、例えると僕の通っていた小学校の体育館の3倍の大きさくらいだった。床も天井も壁も年季の入った焦げ茶色。
中央に集まっている幾つかの水源の井戸があって、そこから地下水を汲むようだ。
井戸は恐らく700年はそこにあるだろう。石作りの外観はボロボロになっていて、緑色の苔がびっしりと覆っていた。
何の変哲もない床の所々に30cm四方の穴が均整に開いてあって、その中には野菜が顔を出していた。こっちにはキャベツ、あっちにはニンジン。あ、レタスやじゃがいももある。
野菜の根っこは、当然のことに地下に生えている。
「ここが、食用栽培園。ここなら、無料で野菜が手に入るんだ。毎日、管理しているのはルージー夫妻さ。でも、今は昼飯休憩だから自分たちの部屋にいると思う」
僕はまたルージーさんたちかと、嫌な気分になった。
グッテンはそんな僕の顔を見て呟いた。
「ルージー夫妻は、ああ見えて優しい人たちなんだよ。ただ、館の亡霊に子供を三人もやられてしまって、もう子供は嫌いだと泣き叫んでいたところを見た時があるんだ」
「不幸のせいで、子共嫌いになったの?」
「ああ、心が弱いのさ……。自分たちの心で不幸を処理出来なくなったのだろう。だから、子供に八つ当たり。確か三番目の子が君くらいの年格好だったはず……。ああ見えて、かなりの寂しがり屋なのだよ……。あの夫妻は……。きっと、君と失った子供を重ねているんだろう」
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