第26話 老師
「ところでギュンター、今はどこに向かっているんだ?」
俺とマリアを先導するように前を歩くギュンターに聞く
「坊ちゃま、その角を曲がればすぐでございます」
そう言って角を曲がっていくギュンター。
角を曲がれば一体何があるというんだ。
俺はギュンターの後を追うようにでかい屋敷の角を曲がると、ドカン!と誰かが殴られて、屋敷から放り投げだされていた。
「帰れ!貴様などエル・ティソーナ流の風上にも置けん! 二度とエル・ティソーナの名を口にするでないぞ!破門だ!」
白髪に白いひげを垂らしている老人が、追い出されて、逃げ去った人に大声で怒鳴っていた。
しかし、こいつはやばいな。顔は老人だが、上半身は裸。しかもゴリゴリのマッチョだ。この年齢でどれだけストイックに鍛錬すればここまで維持できるのか。この世界にもプロテインがあるのか?
「お久しぶりですな。老師。相変わらず、すぐ破門にする癖は直っていないようで安心しました」
何やら親しげに老人に話しかけるギュンター
「ギュンターか。貴様も破門にされにきたか?言っておくが、わしは貴様がエル・ティソーナを捨てデストレーザに入門したこと忘れてはおらぬぞ?」
「いえ、何度も言いますが、エル・ティソーナを捨てたんではなく、デストレーザも習得しに行ったのです。そして、此度は紹介したい人物がいる為、参上しました」
「わしとしては両方同じことだ。して、紹介したい人物とは?」
ギュンターは一歩引き、俺を前に出させる。そして、片膝を付き俺を紹介する。
「こちらはフィンゼル・ライ・ベルフィア様。ベルフィア辺境伯の子にして、フリーダ様の子になります」
ここは貴族風の挨拶をするべきだろう。
おれは両手を広げ武器を持っていないことをアピールし、広げた右手を腹に左手を腰に回す。そして腰を30度ほど曲げながら…
「はじめまして。フィンゼル・ライ・ベルフィアと申します。以後お見知りおきを」
決まった。
俺は心の中でほくそ笑む
本来はオリバーと会った時やる予定だったが、無視された為、メイドやフリーダ以外にこれをやるのは初めてだ。
ベルフィア城のメイドにやった時は、『フィンゼル様は、どんな動作をしてもかっこいいですね!』とか『さすがは私のフィンだわ!』となかなか評判は良かった。
その練習の成果が出たのか、我ながら初めてにしては、自分でも感じる完璧な動作。これで受けはいいはず。
「ほう、貴様が今問題のヘストロアの血か」
ヘストロアの血。ベルフィアの跡取りでなく、ヘストロアとして俺を見ているのか?
しかし、問題のって……一応俺が正妻の子供で、家督は本来俺が継ぐものなのだが……。
「老師。 坊ちゃまは、遠くない内にC級のライセンスを習得します。ヘストロアの血筋の者がエル・ティソーナ流を扱うことは老師としても本位なはず。どうか、この後も坊ちゃまのお力になって頂きたい」
「ほう、そんなことを言うためにわざわざ来たのか?ご苦労なことだな」
「老師がエル・ティソーナ流のアバディン支部に来ていることを窺い、これはすこしでも坊ちゃまを紹介したいと思いまして……」
それは嬉しいことだが、まだちょっと早いな。一般的にはG級はビギナー、F級はルーキー、E級はアマチュア、D級は一般、C級は一流、B級で超一流、A級で免許皆伝、S級になると神伝となりエル・ティソーナ流の様々な権限が与えられる。
俺はG級にすらなってはいない為、一流のC級まで行くのに相当時間がかかると思う。
早くライトセイバーは欲しいが……。
ちなみにエル・ティソーナもデストレーザも剣術、槍術、武闘術に分かれていて、例えば剣術でC級のライセンスを取った場合は、エル・ティソーナ流剣術C級ライセンス取得と言った感じになる。
「ふん。まぁ、その話はC級に上がってきてからだな。小僧、エル・ティソーナのギルド本部、王都ロンベルで待っておるぞ」
そう言うと、老人は颯爽と去って行った。
「王都で待つ? ライセンス取るのに王都まで行かなければならないのか?」
「いえ、C級までは支部で取れます。B級からは王都まで足を運ばなければなりませんが」
「ふーん。まだ先の話だな」
俺は気がない返事をして気が付いた。
俺の完璧な動作、何も言われなかったな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます