二日目-1
二日目。
イクスとララは錬金術を行う為、材料の買い出しに市場を訪れていた。
瑞々しい果実に、新鮮な肉や魚、野菜が立ち並ぶエリアを抜けると、少し奥まった位置に食料品以外の骨董品や原石等が彩り豊かに販売されている。
エルラドでは、錬金術は材料を買うお金さえあれば誰でも挑戦できる。一般にもそれなりに普及しているので、材料費も決して高額すぎるという訳でもない。
「見て下さい。今日の目玉はアモモネイトですって」
「本当だ。折角だから、買ってみる?金剛玉と睡蓮と合わせてさ。確か家にライムと冷却材があった筈だから、ノイルの知恵石が作れる」
「そうしましょうか。調合用の薬餌水も購入しましょう」
何を錬金するかを決め、各々必要な素材を購入していく。
金剛玉を手に入れたララが振り返る。すると、丁度次の購入者へと身体をぶつけてしまった。
「きゃっ」
勢いが強かったのか、買ったばかりの品を庇いながら倒れ込む。
「大丈夫か、ララ」
「私は大丈夫です。ぶつかってしまって、すいません」
イクスが助け起こすと、ララは自身の身体確認もそこそこに接触してしまった相手へと謝罪する。
ぶつかったのは、少年とも呼べそうな若い見た目をした男だった。ララよりくすんだ金髪を首の中程で切り揃えている。特に目を引いたのは顔全体を覆う白い面布だ。そのすぐ後ろにはパートナーと思われる水色髪の高貴な雰囲気を思わせる青年が立っている。そちらは顔を隠していないようだった。
面布の男は何処か無機質に「すいません」と謝意を述べ立ち去る。ララを見ていないようなその姿にイクスは微かな違和感を覚えた気がしたが、立ち上がったララの手の甲に疑問は掻き消された。
「ララ、擦り剥いたのか」
「唯の掠り傷ですので、心配は要りませんよ」
イクスはすぐ傍にあった刺繍屋でハンカチを買うと、ララの手の甲に結びつけた。
「イクスさん……ありがとうございます」
「帰ったら治療薬を使おう」
怪我をしたというのにハンカチを巻いた手をぎゅっと握りしめてはにかむララに、ついイクスの口元も緩む。
どうやら、薬餌水以外はこの市場に揃っていたようだ。二人は素材を片端から買い集めると、市場を後にした。
そんな二人のやり取りに、雑踏に紛れてぶつかった青年達が視線を送っていたとも知らずに。
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