殺した人

熊のぬい

望んだこと

私は殺してしまった。

赤く染まった私の愛しき人。何度もナイフを振り下ろして、彼は、もう私を見ない。


私は隠さなきゃいけない。穴を掘って、彼を埋める。

私は彼に会った日から、私の人生はぐちゃぐちゃになってしまった。


初めて見た時、あなたは、太陽のように暖かく眩しかった。

人に囲まれて、誰にも等しく優しさを振りまいて、暗い私にはふさわしくない。そう思っていた。


寒空の下で、彼を引きずって、山の奥に向かう。

これで最後だ。彼とはもうお別れだ。


ぴゅうと、私を追い立てるように冷たく吹く。

重い体に息が上がっていき、汗は流れて、視界が悪くなる。はぁ、はぁと吐く自分の暖かな息が気持ち悪い。


ずるり、ずるりと引きずるが、一向に進んだ気がしなかった。


「あっ!」


私はぬかるみに足を突っ込み、転んでしまった。

両手で彼を掴んでいるから、顔から倒れて、木の根にぶつかる。額が切れて、血が流れてしまった。


痛い、痛い、どうしてこうなってしまったのか。

私は自分に問いかけるも、答えは出なかった。


これ以上、奥に向かうことを諦めて、私はここで彼を捨てることにした。


手で土を掘る。爪の中に土が入り、小さな石で爪が折れる。


痛い、痛い。

そう思いながらも、私は掘ることを止めなかった。知られてしまうのが怖かったから。


手で掘るには限度がある。私はそこらへんに落ちていた枝を持ってスコップ代わりに土を引っ掻いていく。

ほんの数センチ掘るだけでもかなりの時間がかかり、彼を隠せるくらい掘るのに、日をまたいでしまった。


出来た底の浅い穴に彼を寝かせて、土をかぶせていく。

さよなら、さよならと心を込めて。


あなたと付き合えた時、私は、人生で一番嬉しかった。

多分、この先、生きていても、それを塗り替えることは出来ないだろう。


あなたと家族を持って、幸せな家庭を気づきたかった。そんな願いさえもぐちゃぐちゃになってしまった。

愛か、嫉妬か、憎しみか、恐怖か、悲しみか。あなたに向ける心もぐちゃぐちゃになってしまった。


「本当の事なんて知りたくなかった」


ポロリポロリと流れる涙を私は止める方法を知らない。


きっとそのうち、彼は見つかってしまうだろう。それでも、私は彼を隠したかった。

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