26.少女の涙と

「……ノラ猫がひよこに化けてきても、気づいちゃうって訳」


「どんなに心が、ひよこであっても……ね」


意味ありげに言ってくる009に幸が困惑して固まっていると、


「……」


ぐいっ、と、009のシャツを近くに居た少女が無言で引っ張った。


「ん?……あぁ、ごめんよ」

「……」


009はそれに気づき、幸から少し離れて少女の頭を撫でる。


「こいつは……嫉妬深いんだ」


そんな事を言いながら、009は少女の頭を撫で続ける。


その様子を幸と016がじっと眺めていると、やがて009は少女から手を離して手を腰にやった。


「きみは……こいつを人間だと思うかい?」

「え……?」


すると、009は急にそんな事を言い出した。

幸が困惑しているうちに、009は続ける。


「……まだ喋る事は出来ないけど、死んだ女の脳から作ってやった……つまり、脳以外の全てが人工なんだ」


「簡単な感情は理解出来るものの、喋れないし、食事から動力を得る訳でも無い。ほとんどが機械で、作り方によっては命令に逆らえない様に作る事も出来る」


009が話し続けるのを聞くうちに、幸の表情は段々と歪んでいく。


「今後人並みに成長するかも分からない。……そんな言うなれば『生命体もどき』を、きみは人間だと……人間と対等な存在だと思うかい?」

「……!」


それを聞いて行き場のない感情で歪んでいた幸の表情は怒った様なそれへと変わり、机を叩いて勢いよく立ち上がる。


……が、中々言葉が出てこず、最終的には、


「そんなの……」


としか言えなかった。


「……」


その様子を黙って見ていた009は、フッと横を向いて、やがて口を開く。


「……オレはな…」


「過去に一人……能以外のほとんどが人工物の奴に会った事があるが、……少しけれども、紛れもなく奴は人間のそれでしか無かったよ」

「……」


目を細めてそんな事を言う009に、歪んでいた幸の表情は解かれて、期待か歓喜か、大きく目が見開かれる。


「だからオレは、こいつもいつか……奴の様になれると思ってるよ」

「……」


009は少女に笑顔を向ける。

少女は目を合わせ、それから少し隠す様に下を向いて笑う。


その表情は、どうして人間じゃないと言えるのかと思えるくらいだった。


幸はそれを見て、静かに少女の手を取る。

少女がそれに幸を見上げると……。


「……あれ」


幸の目からは、何故か涙が溢れて止まらなかった。


「よかったねって……言おうとしたんだけど……」


その様子に、さすがに016も目を見開く。


「何でかなー……」


が、本人は至って冷静で、ただ涙だけが強烈な違和感を醸し出している。

さっきから幸の周りをうろついていたシルクハットの妖精みたいなものに慰められながら幸が考えていると、少女も手をつなぎながら慌て出す。


「大丈夫だよ。……ありがと」


……そして、少女をなだめてから幸がふと016の方を見ると、


「……なんて顔してるんだよ、君」

「えっ」


016は顔を赤くして、幸の方を凝視していた。

幸が指摘すると、016はバッと片手で顔を隠す。


「知らない……」


(……なんで?)


016の方も混乱しているようで、目を見開きながら辺りをきょろきょろと見回す。


(おもしろーい)


そしてその様子を、全てを知ってか知らずか笑って眺める009。

すると、どうしたらいいか分からず混乱していた016に目を付けられる。


「あっ!あんただな?!……お茶とか出す奴じゃないと思ったけど……!」

「えっ?オレー?」

「とぼけるな!僕らの感覚おかしくしただろ?!」


016の言葉に、009はとぼけたように目を見開くが、やがて適当に笑って、


「うーん……あー、ごめーん……」


と、なぁなぁにした。


(ま、良いか……)



***



「──で、結局……005の所に行く為に金が必要なんだろ?」


一通り話を聞いた後、009は急にそんな事を言い出した。


「まぁ、そうだけど……」


それに016がだから?と言うように反応すると、009は途端に笑顔になって、


「ほんとー?」


と声を上げる。


「いやー、ちょうど良かったー!じゃあさー……」

「お邪魔しました……」


それに016は嫌な予感がしたのかたちまち幸を押して外に出ようとする。

それに009は途端に貼り付けたような笑顔になり、


「……どこ行くの?」


と威圧する。


「いや……」

「ここらは店どころか、家さえほぼ無いけど?」

「……」


痛い所を付かれて、016はピタッと止まる。


「あー……」


何を頼まれるにしろ、動けないよりはマシかと考えて、


「……危険じゃないなら」


と、016は渋々承諾した。


「……良かったー!じゃあこれ付けてね」


それを見越したかの様に、009はすぐさまヘルメットの様なものを2つ取り出す。


「ぅわ……」


不吉な予感に016が思わず声を漏らしている間に、奥の部屋に連れて行かれる。


その部屋にはいかにも実験室の様な色々な薬品のボトルから、見ちゃいけない様なもの……ケースに入れられた脳みそらしきものまでが見えた。


(さすがに……さすがにニセモノだよな……?)


幸がちらっと見ながら青ざめていると、016も同様に危機を感じたのか、


「……やっぱり僕だけじゃダメ?」


と、辺りのヤバめなもの達を見回しながらそんな事を言う。


「大丈夫、危険な奴じゃないから。……さ、そこに寝っ転がって?」


信用出来ない様な……ワクワクしている様にも感じる口調で009は言う。


「……記憶操作?」

「……人体改造……?」


物騒な想像を垂れ流しにする2人に、009はちょっと心外そうに口を開く。


「改造はともかく、あれと一緒にされちゃ困るなぁ……」


「……ちょっと夢を見て貰うだけだよ。お互いの夢を……ね」

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