19.『047』(3/3)
「……彼女は、」
047は話し続ける。
「一緒に死ぬ事より、自分を殺して……その墓を、自分の居た証拠を、守って欲しいって
……そう言った」
「そしてある日目が覚めると、隣で彼女が幸せそうな顔をして眠っていた」
「……俺が殺した」
「──と、言う訳だ。……ありがとな、昔話に付き合って貰ってさ」
「いや……」
笑いながらそう言う047を、016は見上げる。
……そして、
「お疲れ様……」
と、ぎゅっと目を閉じて下を向いた。
***
「あ、早かったね」
「……おまたせ」
あの後、016達が家に戻ると、幸がそれを出迎えた。
「……うん」
幸はいつもの調子の016をじっと見下ろす。
「あ、そうだ。さっき女の人がコーヒー入れてくれるって」
016はじっと睨み付けるように見つめてきながら話す幸を、ぼーっと見返す。
「……女の人?」
そして047は、幸の言う事に戸惑っていた。
「あ、はい。その写真の人に…」
「……!!」
幸の指さす写真を見て、047の目頭はじわっと熱くなる。
「俺は……見守られても居たのか……?」
そしてその写真を手に取り、ぎゅっと抱き締めて047は呟いた。
「ありがとう……」
「……?」
そして、その様子を引き気味に眺めるのは、状況の分かっていない幸だ。
……無理も無いだろう、さっきまで話していた人の写真を抱いて、何やら感動的なムードになっているのだから。
「……ちょっと、こっち」
「…?」
仕方無く016は幸を手招きして、今までの経緯を端的に……仕事だとか殺すだとかの所は上手く濁して説明した。
「えっ?!」
そして当然、幸は驚く。
「だって!さっきそこで……」
ガタッと音を鳴らしながら立ち上がった幸の視線に入ったのは、大きく開かれた窓から見える……さっきのお墓だ。
「……」
ぶわっ、と、強い風が吹き、幸の髪が後ろに大きく揺れる。
『……頑張りなさい』
その時、幸の頭の中にはさっきの人の声が聞こえた。
『頑張って……信じてあげなさい』
その声に、幸はちらっと016の方を見る。
016はいつもの表情のまま、じっと幸の方を見ていた。
(……はい)
やがて幸は心の中で小さく返事をした。
そして、047に向かい合う。
「あの女の人、言ってました」
「素直になれなかったけど、ありがとうって伝えたい……って」
幸が伝えると、047は愛おしいものを見るような表情で空を見上げた。
思い起こしているのは、きっとひとつしかないだろう。
(あぁ……)
(……ありがとう。カレン)
****
『あっ、父さんとこ?…ごめん、知らないわ〜……あ、でも知ってそうな奴のとこならおしえられるよん!』
『んー……061とか?……あ、それなら016の兄ちゃんだし、015の姉ちゃんとかはどお?ルームメイトでしょ?』
『んじゃ、ルート書いとくねー。また連絡ヨロシク〜』
ウインクして星を飛ばしながら言う047をどちらからともなく思い出しながら、2人はまた旅路についていた。
(なんか男の人続きだったから、『家族』って男の人だけかと思ってたけど……どんな人かなぁ、015って人)
幸がそんな事を考える中、016の表情は硬い。
「正直、キミを015の所へは……連れて行きたく無いなぁ……」
ついには困ったようにそう告げた016に、幸は不思議そうに言う。
「なんで?ルームメイト……なんでしょ?」
「……」
その言葉に、うっ…とした表情をしながら、016は目を泳がす。
「……?」
幸が不審に思っていると、016はゾッとしながらついに話した。
「……あいつ、女に見境無いから…」
「女に?」
女の人じゃなかったの?と幸が不思議そうにすると、016は話し続ける。
「あれは男よりタチが悪いよ。……女に目がない上、男を……人として見てない…」
あの顔色の悪さを見る限り、相当なんだろう……と、幸は思う。
「僕はあの頃それどころじゃなかったから生きてられたけど……正気だったらあれとルームメイト出来てた気がしないね」
「へぇ……」
そーゆーこと…と幸は黙り込む。
そしてしばらく経ってから、
「ちょっと会ってみたいかも」
と、興味本位で言ってしまう。
「……キミ、趣味悪いね」
そんな幸に、016は呆れたように言う。
(キミが取って食われたりしなけりゃいいけど……)
*
その少年は最初、空っぽに見えた。
その少年は、手を握り締めることを覚えた。
それから、目を離せないものができた。
少年はその拳を振るう相手と、目の離せない追いかける相手に依存した。
やがて、追いかける相手に首輪を貰った。
少年は更に依存した。
その拳はどんどんエスカレートしていく。
今度はピアスを貰ったらしい。
開け方も知らないので、無理やり穴のない所に刺して笑っていた。
おろそいだと、嬉しそうに笑っていた。
酷く脆くなって行く少年。
ある日、それが決定的に崩れた。
その日から少年はおかしくなった。
狂ったように叫び続けて、ずっと傍観者だった私にも掴みかかった。
『どうすればいいの?』
015より「016の記憶」一部抜粋
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