第34話 季節外れの果実売り


 丸一日部屋の中でどうやって稼ぐべきか考えた。

 考えて考えて考えて、結局何も浮かばなかったので、俺は気晴らしにまた街を歩くことにした。


「この世界って肉が普通に食べられるんだよなぁ」


 中世ヨーロッパ的な時代であれば肉はとても高級品だったはず。

 主に貴族が食べるものであり、安易に庶民が食べられるモノではなかった。


 けれどこの世界では、良く肉が売られている。

 多分魔物と言う謎生物がいるおかげで、冒険者達が大量に狩って来て、肉が良く取れるのだろう。


「串焼きとか普通に売ってるんだよなぁ・・・・・・味付け変えりゃ一発で大儲けできるのに・・・」


 稼ぐだけで良いならいくらでも思いつく。

 ただし目立たないようにと言う条件が付くだけで、その思いつきは全部却下せざる負えなくなる。


「というか、こうしてみると野菜も結構売られているな」


 果物はあまり売られていないが、葉物野菜などが多く売られていた。

 これも農耕技術が発展しておらず、科学技術が発展していない中世時代と違う感じだ。

 これはあれかな? 魔法的な力が作用しているとかかな?

 それとも、人族以外にも身体能力が高い獣人やら亜人がいるから、機械化が進んでいなくとも広大な畑を人力で管理できるってことかな?


「まだまだわからないことがいっぱいだなぁ」


 まだまだこの世界に関して情報不足。

 どこかでこの世界の常識というか、知識を学べるところがあればいいのだが、残念なことに図書館とかはこの街には無い。

 もっと大きな街というか、学園都市的な感じの学問が盛んな街でないと図書館とかはないらしい。


 この異世界でも中世並みに紙は貴重なようだからね。

 はっきりいって中世時代の設定を再現しているのか、ファンタジー世界の謎設定なのか、どっちなのかはっきりして欲しいよ。

 微妙に中世とは異なる設定がちょくちょく入ってくるから、わけわからなくなる。


「さてさてどうしたもの「ちゅちゃ!」ん~? どうかしたの? ハミさん」


 ぶらぶらと歩いていると、不意にハミさんがある方向を向いて鳴き始めた。

 視線を向けてみれば小学五・六年生くらいの子供達が、大きな籠を持って甘い香りのする何かを売っていた。


 ああちなみに、ハミさんは肩に乗ったり、頭の上に乗っていません。

 普通に提灯の様にぶら下がった木箱の中にいます。

 初めの頃に比べて親密度は上がっても、ピ〇チュウのように、気安く接してはくれないからね。

 未だに背中の針に直接触れると、剣山の様に痛いし、触れようとしたら引っ掻いてくるから・・。


「あの子達が持っているのが食べたいの?」


「ちゅちゃ!」


「しょうがないなぁ。1個だけだよ」


「ジャッ!」


「えぇ~、ご不満ですか・・・・じゃあ4個ね。それ以上は流石に荷物が増えて邪魔になるから買わないよ」


「・・・・チッ」


 仕方ないからそれで我慢してやるぜと言う感じの舌打ち。

 見た目可愛いのに態度が悪いなぁ。


「ねぇ君達。それ4つ欲しいんだけどいくらかな?」


「ひぎゅっ!? は、は、半銀貨、に、2枚・・・です」


 何故に怯えられたのかわからないが、売ってもらえると言うことなので、懐から財布代わりにしている小さな袋を取り出し、半銀貨を2枚渡した。

 というか、果物1つで銅貨5枚(500円)ってかなり高い分類に入るな。

 高級フルーツトマト並みだ。


「あ、あ、ありがとう、ございます!」


 ペコリと頭を下げ、籠を4つ渡してきた。


「え? あの4つ欲しいだけど・・」


「は、はい、4つです!」


「・・・あ~・・・なるほど・・・」


 これは俺が悪かった。

 4つではなく4個と言うべきだったよ。

 ちょっとした食い違いだけど、言葉って難しいね。

 そして、お金を先払いしてしまった手前、今更返せとは言えない。

 言えないので・・・


「あのさぁ。こんなに俺一人じゃ持っていけないから一緒に宿まで運んでくれないかな? 勿論運賃は払うから」


「ひぐっ!? う、うぅ、やっぱりそうだよね・・・・・・・わかりました。私と・・・・・」


「・・・あたしもいく」


「うん、ごめんね」


「・・・だいじょうぶ」


「??・・えっと、ありがと?」


 なぜ悲痛な顔になるのかわからないが、対応してくれた女の子と、子供達の中で幾分か身体の大きな女の子が宿まで運んでくれることとなった。

 そうして俺は女の子達と一緒に宿に向かった。


 勿論部屋の中まで運んでもらいましたよ。

 流石の宿の入り口に置いておくことはできないからね。


「助かったよ。ありがとう」


「「・・・・・・・」」


 運んでもらった果物を机の上に置いて、感謝を込めて運賃を支払おうとしていたら、なんか行き成り二人共服を脱ぎ始めたよ。


 うん、びっくり。

 マジびっくり。

 布が落ちる音が聞こえたと思ったら二人共全裸なんだもん。


「えっと・・・・なにしてるの?」


「ひ、貧相な身体で申し訳ないのですが、ぞ、存分にお楽しみくだ・・・ひぐ・・・さい」


「あんまり痛く・・しないで・・」


「え~と・・・・・・・・」


 二人の言動で理解した。というかさせられた。

 これは俺が春を買った感じになっていると。


「二人共服を着てね。自分は普通に荷物を運んで欲しかっただけで、そういうことをする為にお願いした訳じゃないから」


「け、けど、その果実買ってくれて・・・」


「これ?」


「そ、そう、それ、それは・・・・食べられない・・・から」


「え? 食べられない?」


 食べられないと言われて果物に視線を向けてみる。

 いやこれってアレだよな。

 カリンだよな。

 地球産よりもあり得ないほど大きいけど、見た目は変わらずカリンだよ。


「そ、それ、毒あるんです。それに凄く美味しくなくて・・香りを楽しむもの・・なの・・」


「食べると吐いちゃう・・頭痛くなる・・・死んじゃった子も・・・いる・・・・」


 そりゃそうだ。

 だってカリンだもの。

 生食なんてできるわけないし、生食をしちゃダメに決まってるじゃん。


「あ~・・うん・・まぁ・・・・・・・いいから服着てお帰り」


 多分この世界の人間はカリンの食べ方を知らないんだな。

 多分梅とかも食べ方を知らないんだろう。


 そんな事を思いながら、二人に服を着せ、ここまで運んでくれた手間賃を支払い、追い返した。

 小学生くらいの子供が身体を売っている現状を知ったんだから助けろよ! と思うだろうが、申し訳ないが無理だ。


 今の俺にそこまでの甲斐はない。

 今の俺はこの世界で生きていくだけでも大変なのだから。

 今後金が腐るほど手に入り、国家権力にもなびかないほどの権力者になったら・・・・・まぁ考えるよ。


「それでハミさん。コレ、このまま食べるの?」


「ジャッ!」


 食べたいと言った癖に、目の前にカリンを置いてみれば、食うかこんなモン! のと言わんばかりに怒る。

 星獣と言われている謎生物だから、毒抜き? 渋抜き? せずとも食べられるのかと思えばそうではないようだ。


「まさかと思うけど、コレを渋抜きして食べさせろと?」


「ちゅ!」


 とっても可愛いお声で鳴くハミさん。

 うん、キラキラお目目がとっても可愛いね。

 けど一つ聞きたい。


 何故にこの世界では毒だと断定され、食べられないと思われているカリンを、渋抜きできると知っているのか?

 もしかして、星獣って婆ちゃんの知恵袋並みに物知りだったりするのか?

 というか、ハミさんはこんな見て目でお婆ちゃんだったりするのだろうか?

 死にかけだったりするのか?


「ジャッ!」


「うわっ!? 何でいきなり引っ掻こうとしたの!?」


 まるで意味がわからないぞ。

 全く、これだから気分屋さんは困る。


「はぁ、まったく・・・俺は砂糖漬けくらいしか作り方知らないよ。それに俺の知っている果物じゃなさそうだし、成功するかもわからないよ?」


 ガキの頃婆ちゃんに良く作って貰った方法しか知らんが、たぶんハミさんはその甘いのをご所望なのだろうね。


「ちゅじゅちゅ~。ちゅちゃ~う~」


 そんなのどうでもいいよ~。いいから作ってよぉ~と甘えるように懇願してくるハミさん。

 断るべきだとは思うのだが・・・まぁ、仕方ないか。

 それに最近宿屋で甘い匂いがすると、噂されているらしいし、その匂いの元がカリンであると誤認して貰えればこちらとしてはありがたいので、いっちょ誤魔化すためにやってみますか。


「わかったよ。作ってみるよ。といっても、まずは小さな壺を二つは買ってこないとなぁ。しかも、冷却できるあの高い壺を買って来ないと流石に作れないから時間はかかるよ?」


「ちゅちゅちゃっちゅ!」


 ハミさんの鳴き声が、行ってらっしゃい! と聞こえるのは気のせいだろうか?

 まぁいいか。

 さっさと終わらせて来よう。

 というか、あまり無駄な出費はしたくないのだがなぁ。







 補足

 カリンと言う果物は寒くなった時期に生る果物です。

 ですが、この世界では暖かくても普通に実ります。

 そこら辺は異世界だから! でご勘弁。


 そして度々季節外れの果物や野菜がなどが出てくるかも知れませんが、気にしないでください。


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