第8話 結構村の人は気の良い人
強制的に土木作業をこなし、報酬の半銀貨1枚(昼から仕事に加わっている為正規の報酬より少ないです)貰って宿に戻ってきたサムは、ベッドの上で寝転がる。
そろそろ夕食の時刻であるのだが、動く気がしないためダラダラと寝転がっている。
この世界で食事を逃すことは死活問題だが、中々起き上がろうとはしない。
その理由は
「あぁ~、つかれたぁぁぁ~」
久しぶりに身体を酷使する仕事をこなした為、疲れてしまったからに他ならない。
デスクワークの日々であったサムにとって、肉体労働は結構精神的にも堪えたのだ。
とはいえ女神様? から一般兵士並みの身体能力を授かっているおかげで、思ったほど肉体的には苦労しなかった。
ただそれでも慣れないことをして疲れてしまったよ。
まぁ今の自分の限界と言うのがわからず、調子こいて無理に働き続けた己が悪いのだがね。
「・・・はぁ・・・行くか。流石にそろそろ降りないと、くいっぱぐれる」
のそのそと起き上がるとサムは食堂へと向かった。
その日の糧を得るために。
「やっと降りて来たかい。てっきり寝ちまったのかと思ったよ」
「はは、できればそのまま寝てしまいたかったのですが、流石に何も食べないのは身体に悪いですからね・・・・というかこれ座れます?」
「ああ、問題ないよ。ほらここで待ってておくれ。ほらアンタ等! 詰めな詰めなっ!」
「いってぇなぁ~。殴ることあんめいよぉ~」
「いいからさっさと詰めなてのっ! こんなところで無駄に飲みやがって、潰れて送ってく奴等の身にもなりな! まったく、家で飲めばいいものを」
「できる訳あんめいよぉ。家じゃあ母ちゃんが怒っちまうんだからよぉ。ひっく」
「ここでなら飲み潰れていいわけじゃないよ! 節度を持って飲みなって言ってるじゃないのさ! 困った奴等だよ。まったく・・じゃあお客さん。今飯持ってくるから待っていて下さい」
「あ、はい」
酒を飲む一団の一人を軽く殴て叱りつける女将さん。
結構強面のおじさんなのだが、臆することないのは凄いと思う。
言動から酒を飲んでいる人達はこの村に住んでいる人なのがわかる。
「どうも相席失礼します」
「ああ、いいっていいって。座る席がすくねぇここが悪いんだ。気にすんなよ、あんちゃん。しかし、アイツは変わらずの暴力女だぜ。それに頑固者で融通も聞かねぇ。随分世話になっちまったから店を改装してやるって言ってんのに聞きゃあしねぇだ、アイツはよぉ」
「そうなんですか?」
「おう、そうだぜ。アイツはよぉ。強情なんだよ。人の好意をよぉ、中々受け取ろうとしねぇんだ。一人でなんでもやろうとするとかバカかよぉ。たくよぉ、頑張りすぎるんだよ。アイツはよぉ。夫失くして悲しいのはわかるがよぉ。もうちっと俺等を頼れってんだよ。なぁ? お前もそう思うだろぉ?」
うわ~、絡み酒だ。と思いながら、サムは話に付き合う。
ぶっちゃけ絡み酒は面倒な分類に入るが、初対面の相手に警戒心が薄く気安く絡まれる状況は、今の自分にとってはありがたい。
酒を無理やり飲まされる場合は最悪だが、今の所話を聞いて欲しい感じの人だからこのままでいい。
それに、こういう人は口が軽くなっており、ちょっとこちらが欲しい情報を聞けば答えてくれる可能性が高い。
一応昼に色々と情報収集したが、まだまだ足りないからね。
「まったくよぉ。女ってのはもうちっと可愛げがあった方がいいってのによぉ。アイツはよぉ。なりも言動も心根も、何もかも石ころだぁ。かてぇし、ゴツゴツしてるし、とんがってんだぁ。こえぇ女だぜぇ」
「は、はは、まぁまぁ、それくらいで、女性をそう言う風に言うのは・・」
「いいんだよぉ。アイツはよぉ。アイツはよぉ、女なんて可愛い生物じゃねぇんだからよぉ」
「はぁ~ん? なら何だって言うんだい?」
「そりゃあよぉ。あ~~~~~? 雄熊って感じだなぁ~。あでぇ!? いでぇよぉ~」
料理を持ってきた女将さんがいるにも関わらず、酔っぱらった強面のおじさんは失礼な言動を止めることはなかった。
うん、殴られても文句は言えないね。
「悪いね。お客さん。こんなバカの隣に座らせちまって。詫びと言っては何だけど、少し多めに盛っておいたから勘弁しておくれ」
「いえ、お気になさらず」
「そう言ってもらえると助かるよ。ああ、それと酒はエールしかないんだ。欲しかったら呼んどくれ。値段は銅貨1枚だよ」
「お~い! 酒追加だぁ~!」
「あいよ~!」
そう言うと女将さんは他の客の対応に向かった。
というか酒か~。
エールと言う異世界にありがちな酒には・・・興味はある。
生ぬるくて、ビールより味が薄くて微妙と言う小説にありがちな知識はあれども、どれほど微妙なのか気になる所である。
なので飲んでみたいと言う想いがあるのだが、今の年齢は15歳。
地球の、それも日本人としての価値観からすると流石にこの年齢で酒を飲むのは早いと思う。
女将さんが酒を進めてきた時点で、この世界では今の自分の年齢でも飲んでも問題ないのだろうけど抵抗がある。
若いうちに酒をたしなむと身体に悪影響を及ぼす可能性が高いからな。
「なんじゃ~? あんちゃんは酒飲まんのけぇ?」
「ええ、まぁ。懐具合が少々寂しいですし、明日も土木作業のお仕事に(半ば強制的に)誘われているので、お酒は控えておきます。それに旅を続けるにも節約はしておきたいのです」
「おんやぁ? あんちゃん旅人けぇ?」
「まぁ一応旅人です。とはいえ定住するのに良さそうな場所を探している感じですね」
「ほぉ~ん」
「目的地はどこじゃね? こん先の街さ行くんけ?」
「ええ、そうですね。できれば街に行って旅費を稼ごうかと」
「なんほどなぁ。やっぱし若者は街に行きたがるんじゃねぇ」
「街さいかんで、実家で畑でも耕しておればよいのによぉ」
「おいおい、そう言ってやるねぇ。もすかすたら、子沢山の坊かもしれんぞ。食ってくために、実家から出たかもしれねぇんだ」
「おぉ~そうだなぁ~。どこの家も裕福って訳でもねぇもんだからなぁ~」
「ううん!! 頑張れよ! 若者!」
どうやら彼等の中で俺は、食っていくために家を出た若者だと思われているようだ。
否定すべきなのか悩むが、否定したら否定したで、どう説明して良いのかわからないので放置することにした。
「ああ、旅人って言うならよぉ。それなりに腕に覚えはあるんじゃろぉ? だったら森ん中で鹿でも猪でも狩ってきたらどうじゃ? アイツら畑を荒らしにくるからのぉ」
「そりゃあいい。狩って来てくれれば肉も毛皮も儂等が買ってやるで」
「ついでにゴブリンやコボルトでも駆除して貰えれば助かるぞ。アイツ等ゴキブリ並みに増えっからよ。殺しても殺してもいなくなりゃしねぇ」
「魔石も街の冒険者ギルドで買い取って貰えて、旅費の足しになるぞ。そんによ。街の物価はたけぇぞぉ~。んじゃからよ。ここらで少し稼いでいくのもええかも知れんぞ?」
「ばっか、金稼ぐならゴブリンやコボルトよりも、オークやブル(魔物化した猪)だろがよぉ。進めんのがちゃうだろうがよぉ」
「おめぇこそ進めんのがちゃうだろうがよ! オークもブルもここら辺にはいねぇぞ! 最近領主様が大々的に討伐したじゃろうがよぉ!」
「んだ! 平和になっただ! だけども今度は盗賊が住み着きやがっただ! たく、次から次へと阿呆が湧きやがって! 困るだぁ!」
「そういやぁ最近虫っ子が多くてよぉ。殺しても殺してもいなくなんねぇんだ。おかげで畑の葉っぱさ食い荒らされて困っちまうよ。これも盗賊のせいだ!」
「んだんだ! そうだ! そうに決まってるだ! 盗賊のせいだ!」
それに今否定したところで、酔っ払い達に声が届かないし、放置しておけば色々な情報が手に入るのでこのままでいいだろう。
そう思いながら、サムは静かに食事を取りながら、しばらく酒飲み達の相手をするのだった。
というか今思うと、酒場と言うのがこの村に無かった気がする。
多分宿屋の食堂が酒場代わりになっていたのかもしれないなぁ・・・・・ヒック・・・おかしい。
お酒なんて飲んでないのになぜか酔った感じになってきたぞ。
もしかして匂いで酔ってしまったか?
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