電子男子は電波少女に恋をする

景文日向

1

朝起きたら、アンドロイドになっていた。最初は嘘だろうと思っていたが、鏡が映す俺の姿は水色の塗装が施された肌。髪色も赤く変色している。目は見た目こそ変わらないが、俺に見える景色を一変させていた。今、俺に見えている景色は異常だ。いくつかモードがあるみたいだが、操作の方法がわからない。とりあえず今見えているのは、物体の体温だ。俺の身体は中が熱っぽいせいか、四十度と表示されている。人間だったら熱に浮かされている温度だ。だが、俺にはそれが感知できなくなっていた。やはり俺はもう人間ではないのだ。

「お目覚めですか、マスター」

「うおっ⁉」

 幼い少女の声が洗面所に響いた。その姿には一切の見覚えがなく、戸惑うことしか出来ない。少女は俺の奇声を無視して淡々と話し始める。

「自立式思考型アンドロイドAK-3……旧名『外神とがみ あき』さん、はじめまして。私はマスターの経過を観察するために派遣された、自立式受信型アンドロイドEW-235です。235とお呼びください」

 いきなり派遣だの訳のわからない名前をつけられたり、少女に聞きたいことは沢山あった。だが、「受信型」ということはこちらの問いかけに対しての返答が期待できない。

「235」

「何でしょう」

 可愛らしい声で応答する235。こうして見ると中々顔立ちも整っている。アンドロイドだから、当たり前と言えばそうかもしれない。

「どうして、俺なんだ? 俺なんか機械にしても何の得もないだろ」

 それでも、ぶつけずにはいられなかった。235はきょとんとした表情で、

「マスターは選ばれたお方です。それ以外の理由はありませんが……?」

と返してきた。やはり、まともな返答は得られそうにない。俺はとりあえず、全てを受け入れてみることにした。幸いにも俺は無職で、友人も少ない。この姿がバレることは早々無いだろう。だからこそ、この謎の実験に巻き込まれた可能性も大いにある。俺は期待せずに、235に色々問いかけてみることにした。

「235、選ばれた者ってなんだ」

「マスターのことです。他にも数人、この島国から選ばれています。しかし私は、彼らとの接触を図ることはお勧め致しません。お互い知らない機械同士ですから」

 どうやら、俺だけがこうなっている訳ではないらしい。案外身近に被害者が居るかもしれないと考えると、ぞっとした。

「235、これは何の実験なんだ」

「それは守秘義務で答えられません」

「あぁ、そうかよ」

そう言い座ろうとすると、臀部に衝撃があった。何か固いものがぶつかった様だ。

「マスター、気を付けてください。臀部には充電ケーブルが内蔵されています。電池が切れるとマスターはシャットダウンしてしまうので、こまめな充電を心がけてください。後は言うまでもないと思いますが、水分を摂取するなど言語道断です。マスターがショートしてしまいます。食事も同様です」

 本格的にアンドロイドになったという実感が沸いてきた。腕まくりをすると、俺のバッテリー残量が表示されていた。三十パーセントを切っていたので、充電することにする。

「235、充電の仕方を教えてくれ」

「かしこまりました。では、臀部を失礼致します」

 言うが早いか、235は俺のズボンとパンツを脱がせた。そこで気づいたのだが、昨日まであったものが無くなっている。機械には不要ということなのだろうが、もの悲しい。235はそんなことを気に留める様子は一切なく、俺の臀部からケーブルを引き出しコンセントに繋ぐ。すると、力が漲ってきた。食事の代わりに充電、悪くないかもしれない。

「ありがとう、235」

 素直に助かった。そう礼を述べると

「いえ、指示の通りに行ったことです」

 機械的な受け答えの235。受信式というのは特定の受け答えが用意されているのだろうか。少し気になったが、それを本人に聞くのもどうかと思い踏みとどまった。

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