孤独

一番気になっていることを聞いてみることにした。

「あのさ、君は僕のことを、孤独を望んだ人間だって言ったよね。あれはどういう意味?」

 もう少し雑談を続けようかと思ったけれど「孤独」という言葉が、僕の心に重く圧し掛かっていた。

『我と同じで貴様も孤独だろう。それは貴様自身も知っていることではないのか、ユキト?』

 言い当てられた。

「……何で、狼君にそんなことが分かるのさ。もしかして、人の心が読める能力を持っているとか?」

『いいや、そんな能力は持っておらぬ。……獣としての勘というか、何となく分かるのだよ、人間の纏っている気のようなものがな』

「……そうなんだ」

 昔から感じてはいたのだ。僕は人とは何処か違っている、と。本心を言わず、表面上で上手く取り繕って、人と一定以上の距離を保っていた。人と向き合おうとせず、誰かと繋がることを恐れていた。人生の意味も、本当の幸せも見つけられない。

『ユキト、貴様は我と同じで孤独だ。そして、いつまでもそのままだと、貴様も我と同じようになるぞ』

「狼になってしまうってこと?」

 そんなことは有り得ない。けれども、実例が目の前にいるのだ。

『ああ。実際、我がそうなった。我は貴様にこうなって欲しくはないのだ。人間である時も孤独で、獣に成り下がった後では更なる孤独が待ち受けている。我と同じ苦しみを貴様に味わって欲しくはないのだ』

 狼君は僕を心配してくれているみたいだった。それはどこか母親の様であった。

「獣に成り下がった、なんてことはないと思うよ。獣の方が格下で、人間が獣よりも偉いなんてことはないと思うよ」

 狼君は、僕のその言葉に驚いている様だった。

「僕は君を始めて見た時、美しいと思った。気品っていうのかな、そんなものが漂っていて、何ていうか……、神様みたいだって思ったんだよ。狼君は人間から神様に成り上がったのかもしれないね。だからさ、君は自分を卑下しちゃダメだよ」

 孤独な者にしか分からないこと、同じ苦しみを知っているからこそ通じ合えるものがある。僕の言ったことはただの慰めにしかならないだろう。けれども、僕はその慰めに救われたことがある。僕も、そんな風に、この狼君を救ってあげたい。

『……そんなことを言ったのは貴様が初めてだ』

 狼君が微笑んだ気がした。



 その後も僕と狼君は他愛もない語らいをした。

 どれくらい時間が経ったのだろうか、空が少し明るくなったのに気付くと、狼君は僕にこう言った。

『我はもう貴様の前から去ろうと思う』

「うん」

 不思議と別れはあまり辛くはなかった。旅ではよくあることだし、僕は最初から分かっていたのだろう。

『最後に、貴様に頼みたいことがある』

「何?」

『我に、名を付けてはくれぬだろうか?』

「いいよ」

 即答はしたけれど、すぐに良いものが思い付くはずもなく、それなりの時間を要した。

「えっとね……、じゃあ、銀はどうかな?」

 毛の色と、呼びやすい、という単純な理由だけど。

『ギン……。良い名だ。有難う、ユキト』

「今度は忘れないでよ」

『ああ、忘れない』

 次の瞬間、銀は風と共に何処かへ行ってしまった。

「僕も忘れないよ……」

 




 数日後。

 僕は日本行きの飛行機に乗っていた。

 久しぶりに、さねちーや春ちゃんと飲んでみよう。

 こんな不思議な話、信じてくれるだろうか。

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