友達

 通学路に着いたら、約束通り瑠菜は手を離してくれた。名残惜しそうにはしてたけど、私だってほんとはもうちょっと繋いでいたかった。けど、周りの目があるから。

 こんなことを瑠菜に言ったら、そんなの気にしなくていいって言われそうだから言わないけど。


 学校に入り、私たちは1の5組に向かう。

 

「もう、着いちゃった」

「じゃあ」


 そう言って私は自分の席に向かう。

 私の席は窓際の1番後ろで、瑠菜の席は扉のすぐ近くの、私とは真逆の席だから。隣とまでは行かなくても、近くがいいなぁって思ってたから最初この席になった時は普通にショックだったけど、今はもう仕方ないと割り切れてる。それに後ちょっとで席替えだし。


「おはよー、鈴々菜」


 私が席に着くなり、前の席の吉田未菜璃よしだみなりが気だるげな様子で挨拶をしてくる。

 こんな感じで瑠菜とは離れたけど、友達は出来たし。


「おはよ、未菜璃」


 未菜璃は私とおんなじ黒髪で、私とは逆のショートヘアーの女の子だ。正直かなり顔は整ってると思う。なんで私なんかに話しかけてくれるのかは分からないけど、幼馴染を除いてたった一人の友達。


 私が挨拶を返すと未菜璃は私の机でうつ伏せになり、眠ろうとしだした。


「何やってんの?」

「んー、眠いんだよぉ」

「別に勝手に寝たらいいけど、私の机なんだけど」

「だめー?」

「別にいいけど、先生来たら起こすよ」

「だからいいんじゃん」


 要は私は目覚まし時計的な役割ってことね。


 先生が教室に入ってきた。

 未菜璃を起こすんだけど、普通に起こすのはなんか癪だから、耳元で吐息をかけながら起こすことにした。


「みなり、おきて」

「ひゃっ、にゃっ」


 未菜璃はそんな奇声を上げながら、飛び起きた。

 当然先生には何事かと聞かれていたし、教室中の生徒の視線を集めていた。私はもちろん知らないフリ。


 未菜璃は椅子に座るなり、真っ赤な顔で私を睨んでいた。うん。ごめん。そこまで耳が弱いって知らなかったんだよ。

 私は未菜璃から目をそらす。すると視界に入ってきた瑠菜がこっちを見ているのに気がついた。

 ……なんか、怒ってる? いや、気のせいか。だって瑠菜には何も怒らせるようなことしてないし。

 今は未菜璃にどうやって謝るか考えよう。知らなかったとはいえ、とんだ恥をかかせたわけだし。




☆     ☆     ☆




「起立、礼」


 その言葉と同時に1限目の授業が終わった。

 

「鈴々菜?」


 美菜璃がさっきより低い声で私の名前を呼んでくる。


「ごめん。あんなに耳が弱いとは思わなかった」

「……私も鈴々菜のこと目覚まし時計みたいに使おうとしたし、いいよ。ただ、次からはあんな起こし方はやめてね」

「次もする気なんだ」

「もちろん」


 次は普通に起こしてあげようかな。


「次は普通に起こしてあげるから、もう、ひゃっ、とかにゃっ、とか言わないでね」

「れ、鈴々菜の馬鹿! い、言っていいことと悪いことがあるでしょ!」

「ホントのことだし」

「も、もう忘れて!」


 顔を真っ赤にして、涙目になってる美菜璃を見てると、流石に可哀想になってくるので、この辺でやめることにした。


「はいはい。忘れるから」


 そう言って、反射的に私は美菜璃の頭を撫でてしまった。


「あ、ごめん」

「え、あ、べ、別に、い、いいよ」


 今日朝瑠菜の頭を撫でてたせいで、つい美菜璃の頭も撫でてしまった。幸い美菜璃は恥ずかしがってはいるけど、怒っては無いみたいだしいいけど、気をつけないと。


 私はふと瑠菜の方を見る。

 相変わらず人に囲まれていたけど、その人の隙間から一瞬だけこっちを見てるような気がしたけど、気のせいだよね。

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