第六十四話:新時代と結果発表
重要な日って、なんでこう被るんだろう?
本日3月3日。先月受けた聖徳寺学園の合否発表の日……だけで終わるはずでした。
本来なら今頃学園の敷地で合否を確認して一喜一憂していただろうに。
俺は現在、自宅のテレビの前にいた。
今年の合否発表はオンラインだけなんですって! 電車代が浮きましたわ!
うん。真面目に語ろう。
実は今年の合否発表がオンラインだけになったのも、学園側の粋な……粋な? 配慮の結果なのである。
3月3日。今日は世界的に一大イベントの日。
そう、UFコーポレーションが予告していた発表の日である。
まぁ俺は何が来るか知ってるんだけどね。
テレビはどのチャンネルにしても緊急生特番ばかり。
もうどのチャンネルにしても変わらないな。
俺は適当なチャンネルで、件の発表を見守る。
「お兄、見るの?」
「どうせしばらくは話題の中心だろうからな。卯月だって見るんだろ?」
「悔しいけど、お兄と同じ理由」
「……ちなみに卯月は何が発表されるか分かるか?」
「あれでしょ。モンスターに装備するやつ」
「正解。内容次第ではデッキに入れて強化するぞ」
「お兄、まだ暴れるつもりなの?」
「聖徳寺学園では頑張りたい」
「自重を覚えろ馬鹿兄」
「うるさいぞ蛇姫」
兄妹でそんなやり取りしていると、テレビの向こうが騒がしくなってきた。
目線をテレビに向けると、壇上に上がるゼウスCEOの姿があった。
「そういえばお兄、CEOに会ったんだっけ?」
「あぁ。JMSカップの時に少しな」
「アニメキャラとの遭遇か〜。ロマンと言っていいのか分からない」
「ロマンで良いだろ」
そういえばあの時、ゼウスCEOが俺の名前を知ってた気がするんだけど。
あれはなんだったんだ?
そもそも的な事を言えば、実は俺もアニメ『モンスター・サモナー』の全て、特にゼウスの事に関しては知らない事が多いんだ。
転移した段階でアニメはそれなりの話数を重ねていたけど、最終話までは結局見れなかった。
だから俺がこの先分かる展開は、高校2年生の中頃の話までだ。そこから先がどうなるかは全く分からない。
それと同時にゼウスCEOに関してだ。
彼は目的も正体も不明の存在。結局俺は種明かしまで作品を見ていないんだ。
もしもゼウスCEOが何かの鍵を握っている場合、本当に俺には何も分からなくなる。
それが少し悩みの種だな。
「そういえばお兄」
「んあ?」
「聖徳寺学園に入ったら……アレどうするの?」
「あぁ、ウイルス事件の事か」
「うん。主人公に任せる?」
「基本的にはな。ただし自衛はする」
「うん。それが無難だと思う」
高校1年生での物語。その中盤以降で発生する事件がある。
規模を考えれば間違いなく俺も巻き込まれるだろう。
最終的には炎神が解決するのは知っているけど、その通りに歴史が動くとも断言できない。
いざという時は、俺も戦わなくちゃいけないだろうな。
「あっ、お兄始まったよ」
卯月に言われて、意識をテレビに戻す。
長ったらしい挨拶が終わって、ようやく本題に入ったらしい。
なんか壮大なPVが流れているな。
「派手だね」
「派手だなぁ」
そういう所も含めて、サモン至上主義世界だなと思う。
テレビ画面には壮大な演出から「Armed」の文字が現れる。
続けて映し出されたのは、モンスターでも魔法でもない、第3のカード。
そうだ、これがモンスター・サモナーの新たな時代。
モンスターに武装するカード、アームドカードだ。
「お兄、アームドって癖あったよね」
「あぁ。使いこなせれば強力だけど、単体では戦闘に参加できない分、ファイターの技量が問われるカードだ」
あとデッキ構築の難易度が跳ね上がる。
あれ枚数の配分が難しいんだよ。
そんな事を考えながらテレビを見ていると、アームドカードを用いたデモンストレーションファイトが始まった。
戦っているのは白衣を着た科学者っぽい人が2人。
よく見たら1人は三神さんだ。
「あっ、今アームド使ったの三神さんじゃん」
「知り合い?」
「俺というか、ソラの知り合い」
というか、こういうデモンストレーションって科学者やるものなのか?
プロファイターとか使わないの?
なんか色々疑問が出てくるな。
ファイトが終わり、記者からゼウスCEOへの質問タイムが始まる。
なんか色々質問責めされてるな〜。まぁ難しい話なんて興味ないんだけど。
『アームドカードはいつから発売されるのですか!?』
おっ、その質問は興味あるぞ。
『アームドカードは本日出荷分のパックより、全世界同時に封入しております』
へぇ〜……え?
「お兄、今日から実装だって」
「早いな。色々と」
とりあえず後でデッキ調整しよ。
それからアームドカードの相場も調べよう。絶対儲けられる。
「そういえばお兄、合否発表は何時からなの?」
「えっと今日の12時だな」
「あと5分じゃん」
時計を見る。確かに。
俺はスマホをネットに繋げて、聖徳寺学園のサイトを開く。
やっぱり更新してすぐに見たいよね。
ドキドキを胸に秘めつつ、迎えました12時!
「更新連打! 更新連打! さっさと結果を見せろー!」
「サーバーの負担になるからやめんか馬鹿兄!」
卯月に頭を殴られた。
とりあえず数分待ってから、合格者一覧のページに辿り着く。
俺の受験番号は510番なわけだけど……
「えーっと……510……510」
ゆっくり番号を探し出す。ページ検索を使うなんて無粋です!
「あっ」
「どうだったの?」
「あったわ」
「おめでと」
あっさりしてんな、我が妹よ。
とりあえず合格者一覧に510の文字は見つけられた。
とりあえずこれで安心。無事、聖徳寺学園に進学できました。
あとで母さんにも報告しよう。
と、このタイミングでソラから電話かかってきた。
「はいもしもし」
『ツ、ツルギぐぅぅぅん!』
「よしソラ、とりあえず落ち着け」
『落ち着いてられないですよ! だってわだし!』
うん、もうオチは見えてるから。
ゆっくり話してね。
『しょ、聖徳寺学園に、合格しでまじたぁぁぁ!』
「おめでとうソラ。俺も合格だ」
『やっだぁぁぁ!』
めっちゃ涙声だなソラ。音割れしてて聞こえにくい。
とりあえずソラを宥めて、耳に優しい声に戻してもらおう。
「落ち着いたか、ソラ?」
『はい、お恥ずかしいところを見せてしまいました』
「改めて、合格おめでとう」
『はい! ツルギくんもおめでとうございます!』
少しばかり他愛無い会話してから電話を切る。
スマホをよく見ると、メッセージが来ていた。
『天川ははどうだ?』
『合格だ』
『俺もだ』
『おめでとう速水。アイは?』
『もちろん合格よ』
どうやらチーム:ゼラニウムは全員合格らしい。
あとは主人公なお隣さんだ。
既に外からうるさい声が聞こえてくる。
「おーい、ツルギー!」
「はいはい。今行きますよ」
玄関開けると、はちゃめちゃテンションな炎神いた。
「ツルギ見たか!? スゲーカードが発表されたぞ!」
「アームドの事だろ」
「あぁ! なんかワクワクするよな!」
「そうだな……で、炎神は合否発表見たのか?」
「もちろんさ、合格してたぜ! ツルギはどうだ?」
「合格だ」
「やっぱり! ツルギ強いもんなー!」
ハハハと笑い合う俺達。
だけどその後は、握手だ。
手を握り、お互いを見据える。
「ここから先の俺達は、同級生でライバルだ」
「あぁ! 一緒に強くなろうぜ、ツルギ!」
世界には新時代の風が吹き、俺達の間には新たなライバルの絆が生まれた。
ここから先は、正真正銘アニメの物語と共に生きる事になる。
だったら俺は出来る事をするまでだ。
武井炎神という主人公を多少魔改造してでも、俺はこの物語をハッピーエンドに持っていってやる。
きっとそれが、俺に出来る事だから。
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