14話 幼馴染の力



「ま、そう言う事だからさ。とりあえずサっちゃんとの訓練を見学してもらって、次にアリアちゃんかな。あ、戦闘訓練といっても危ない事はしないよ、まだ4年だからね。その分はサっちゃんに上乗せしてあげるよ、楽しみだなー」


 ホントに大丈夫だよね? ユリ姉さんのことだから「つい」が発生しそうで怖い。

 ……さっちゃんに怪我をさせたら許さないよ。

 さっちゃんはわたしの心配をよそに、凄くワクワクしてるみたいだ。

 訓練所が近くなってきてテンションが上がってるみたい。


「はい、到着。ここが戦闘訓練所だよ」

「おぉーーー」

「凄い……」


 扉をくぐったら大きな建物と空が見えた。

 「訓練所もどき」を囲むように建物の壁が見えるからまだ施設内なんだろうけど、ホントに広いなー。

 ……なぜ「もどき」なのか。だって、見た目は完全に競技場、コロシアムだよ。

 この施設って、民間の一組織が所持していいものなの?

 街にも同じような建物があるけど、基本的には大きなイベント用だ。だって、4万人くらいの観客席があるし……。

 ……うん、一組織の訓練所で独占していいものじゃないと思う。


「凄いでしょ。数ある民兵組織でも、この規模の訓練施設を持ってるのはうちくらいなもんだよー」

「あの……、これって訓練所として使ってるんですか?」

「そうだよー、訓練以外で何に……あ、そうか、ファルメリアにはこれと同じようなイベント施設があったね」

「はい」

「見た目は似てるけど、中は全然違うかな。観客席がかなり少なくなってるし、訓練内容によって多少区分けされてるから見た目ほど広さは感じないと思う。ま、中に入ってのお楽しみだね」


 「もうこれ以上のお楽しみはいらないです。」とは言えない。ユリ姉さんがウキウキしてるから。でも、もうお腹いっぱいだ。これ以上出てきても「ほえー」と言う驚きしかない。

 ……中に入ったわたしは少し安堵した。確かに広くない。うん、体育館より少し広いぐらい。うん、訂正。やっぱり広い。

 こんな部屋がいくつもあるの? ほえー、凄い……。


「ここが、万能型の部屋かな。ゴリゴリの戦士系の人も、ヒョロイ凄腕魔術師もOK。もちろん、アリアちゃん達の様な人もね」

「え、わたしですか?」

「そ、アリアちゃんの様な魔戦士系も、サっちゃんみたいな斥候系もOKだよ。みんなで切磋琢磨して強くなろうねって部屋だよ」 

「え、わたしが「ませんし」? さっちゃんが「せっこう」?」


 ませんし? ま、ま、ま……あ、魔術の「魔」! それに戦士!

 「魔戦士」……カッコいい何それ! わたし魔戦士なの!?

 それに、さっちゃんが「せっこう」?。

 せっこ、せっこ……セッコイ……セコイ……せこい!?

 さっちゃん、せこいの!? せこくないよね!?


「アリアちゃん、その目は何かな?」

「あ、ごめん、さっちゃん。さっちゃんはせこくないよ。わたしにいつも色々くれるし優しいし側にいてくれるし……。ユリ姉さんがなにを言っても、わたしはさっちゃんの味方だよ!」

「アリアちゃん……」

「あははは、アリアちゃんは本当に面白いねー。斥候は「せこい」じゃないよ。簡単に言えば万能職、かな。前衛だったり後衛だったり、罠の解除や偵察も仕事かな。この職業の人がメンバーいなかったら大変なことになる。そんな……とても重要な職業だよ」

「ほえー、さっちゃんは凄かったんだね」


 凄すぎてそんな感想しか出てこない。

 さっちゃんは何でも器用にこなすから「せっこう」にピッタリだね!


「ま、詳しくは学校の授業でもそのうち習うよ。とりあえず、今日はコレ!」


 木刀?


「サっちゃんも適当な木刀持っといで。あそこにいろんな種類の木刀あるから。サっちゃんの全力が出せそうなやつね」

「……はい」


 へ? 木刀で全力って、なにするの?

 ……さっちゃんの目がギラギラしてる! え、そんな短い木刀どうするの! しかも、両手に一本ずつ持ってる!?


「うんうん、いいねー。サっちゃんらしいよー。アリアちゃんは壁際で見学ね。近づいちゃ駄目だよ、怪我しちゃうから」


 さっちゃんとユリ姉さんが部屋の中央で向かい合う。

 え、これって訓練じゃないの? 試合?


「分かってるみたいだけど一応確認。今から私と模擬戦してもらうね。全力で来なよー」

「はい」

「私は躱して寸止めを繰り返す。その動きを見て勉強してね。きっと、サっちゃんの力になるから」

「はい。……ユリ姉さんには当てても大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫。直撃しても、学生レベルじゃ怪我しないから」

「……そうですか」


 さっちゃんの笑みが怖いよ! お母さんがブチ切れした時みたいだよ!

 ユリ姉さん! あまりさっちゃんを挑発しないでー!


「じゃ、開始」

「ッ!」


 ……あ、ユリ姉さん死んだんじゃないかな。

 さっちゃんが見たこともないスピードでユリ姉さんに突進した。


「おお、予想より速いねー、本当に小学生?」


 ユリ姉さんが軽口を叩きながら、体を少しずらしてかわすけど、さっちゃんは鬼の形相で追撃してる。

 短い木刀の2刀流もおかしいけど、なんか木刀の持ち方が逆じゃない?

 何だっけ、あんな持ち方があったような……。


「ほらほら、もっと加速して。もっと獣人らしい動きを見せて」

「ッツ!!」


 さっちゃん、ありえない動きしてるよ……。

 空中で向きを変えてるし、分身してるように見えてる。分身して四方八方から攻撃してる。

 ……でも、ユリ姉さんは笑顔で立ってるだけ。

 さっちゃんの攻撃が素通りしてるように見えるけど、なんだろアレ?


「サっちゃん、何回死んだか分かるかなー?」

「28回……29……30……」

「正解! 凄いねー、ちゃんと見えてるんだ。サっちゃんは目が良いねー」


 なんか喋ってるけど、さっちゃんの連撃はずっと続いている。

 ……勝てるんじゃないの、これ? さっちゃんが押してるよね?


「武技は使わないの?」

「……使えません」


 さっちゃんの攻撃が激しくなったように見える。

 行けーさっちゃん! 頑張れー!


「ん、じゃあ……」


 カン、カン


「ここまで、かな」


 さっちゃんの2本の木刀が落ちて、首筋にユリ姉さんの木刀が当たってる。

 ……逆転されちゃったみたい。

 最後のユリ姉さん動き、私にはゆっくりに見えたけど……。さっちゃん、疲れて動けなかったのかな……。あんなに分身? してたら疲れても仕方ないよね。座り込んじゃってるけど大丈夫かな?


「さっちゃん、大丈夫!」

「アリアちゃん……。大丈夫だよ、疲れちゃっただけだから……」

「惜しかったね、もうちょっとだったのに!」

「……うん」


 さっちゃんの元気がない。

 ……負けちゃって悔しいんだよね……次は勝とうね。

 座り込んでるさっちゃんを抱きしめてあげる。

 ……これで元気が戻るといいな。


「さっちゃん、次は勝てるように一緒に頑張ろう」

「……うん、そうだね。次こそは一撃入れる」

「うん! 一撃とは言わず100発くらい入れよう! そして勝とう!」

「うん、100発入れる」


 少しだけ元気が戻ったようでよかった。


「100発は痛そうだなー、少しは手加減してねー」

「あ、ユリ姉さん」


 さっちゃんを励ますのに必死で、ユリ姉さんの存在を忘れていた。

 ……タオルで汗を拭いてるみたいだけど、汗を掻いてるのかな? さっちゃんは汗だくだけど……。


「あ、わたしタオル持ってくるね!」

「ありがとう、アリアちゃん」


 わたしは壁際付近にあるタオルを取りに走る。


「サっちゃん、武技を教えてあげるよ」

「私、練習はしてるんですけど感覚がよくわからなくて……」

「サっちゃんは頭が良すぎるから難しく考えすぎだよ。見せてあげるから真似してみて。能力は十分だからイメージ出来てないだけ。目の前で見ればイメージもなにもないでしょ。真似るだけだよ。さ、やるよー」


 タオルを持って来たけど、二人は反対側の壁際に並んでる「鎧を着たかかし」の前に移動してた。

 ……何してるんだろ?

 ユリ姉さんがかかしと向き合い、2本の木刀をさっちゃん持ちして構えてる。

 ……そういえば、初めてユリ姉さんの構えを見た気がする。

 ○○流とかあるのかな。ちょっとカッコいい。


「三散花〈サザンカ〉!」

「ほえ?」

 



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