12話 食堂



「よかったー、長い付き合いになりそうだし、気楽にいこうね」

「「え」」


 長い付き合い? なんで?

 ブリギッテさんからお礼(お詫び)を貰ったらおしまいじゃないの?

 疑問に思ったけど、ユリ姉さんからの質問ラッシュに押されてしまう。


「へえ、サっちゃんとアリアちゃんは幼馴染なんだー」

「はい」


 さっきからさっちゃんとユリ姉さんとの会話が続いている。わたしは情報量についていけなくて離脱した。

 ………早く食堂に着かないかな。広すぎるよここ。支部でこれなら本部はどうなってるんだろう? もしかしたら、領内で一番大きい建物なんじゃないの? いつか行ってみたいなー……。


「はい、到着。そこのメニューから選んで、あそこの窓口で注文ね」


 ここも広いなー。100人以上は余裕で入る広さだ。

 メニューも多いし、食品サンプルなんて高級レストランでしか見たことないよ。それがズラーっといっぱい並んでる。

 ……何なんだろう、ここ。本当に小都市の民兵組織? 首都にあるA+の組織って言われても信じちゃうよ。


「ビックリしてる所悪いけど、早く決めちゃおうか。お腹すいちゃったし」

「あ、はい」


 わたしは高級お子様ランチにした。

 ……だって「高級」だよ。ここのメニューでも高い部類だし、値段はわたしのお小遣い半年分だ。これは頼むしかないよね!


「うんうん、アリアちゃんは分かってるね! 私も奢りだったら間違いなくそれだよ!」

「ですよね!」

「……アリアちゃん」


 さっちゃんが呆れた様子でわたしを見てくるけど、折角の奢りだよ、遠慮なくいきたいと思う。

 ……お礼ってこの事かもしれないし、遠慮しちゃ失礼だよ。


「さっちゃんも高いの頼もう! こんなチャンス、もう二度と無いかも知れないよ!」

「でも、少しは遠慮した方が……」


 さっちゃんは節約家すぎるよ。せっかく御馳走してくれるんだから、甘えないと!


「アリアちゃん言う通りだよー、サっちゃん。遠慮しちゃ駄目。良いもの沢山食べて、ドンドン強くなろう!」

「……強く」

「そうそう、強くなりたいんでしょ」


 ……え? さっちゃんって強くなりたかったの?


「それじゃ、この「領主様フルコース」を注文してきます」

「おぉー! 月に一度、出るか出ないかの幻の高級コース! 私にも少し分けてねー」


 さっちゃんが注文すると厨房から歓声が上がった。食事中の人達も拍手してるよ。

 わたしでも遠慮した最上級メニューを注文するとは……。


「さっちゃんのこと、少し甘く見ていたみたいだね。わたしも頑張って強くなるよ!」

「うん、一緒に頑張ろうね」

「うんうん、お姉さん達に任せなさい。さ、席について料理を待とうか」


 ……うん? 任せなさいってどういうこと?

 疑問に思ったけど、またユリ姉さんからの質問ラッシュが始まった。

 矢継ぎ早の質問にわたしは直ぐにリタイアして、代わりにさっちゃんが話してくれる。情報量が多すぎてわたしの頭ではついていけない。

 ……さっちゃんは凄いな、何で会話が成立するんだろう。

 似た者同士、なのかな。

 ブリギッテさんに似てると思ったけど、もしかしたら「ブリギッテさん寄りのさっちゃん」、なのかも知れない。


「サっちゃんはやっぱりコッチ系かー。ブリギッテさんから話を聞いた時にピーンと来たんだよね」

「はい。私の……はアリアちゃんの為にありますから」


 ……何だろう。話の内容はよくわからないけど、さっちゃんの雰囲気が固い。折角の高級ランチだから楽しくいこうよ。


「さっちゃん、あんまり深く考えちゃダメ! 楽しく頑張ろう!」

「……うん、そうだね。楽しく頑張ろうね」


 うん、さっちゃんは笑顔が一番可愛いいんだから、笑ってくれてればわたしは十分だよ。


「ユリ姉さんも、さっちゃんを変な道に誘わないでくださいね」

「ごめんねー、話を聞いてたらついつい真剣になっちゃった。安心して、君たちの友情の邪魔は絶対にしないよ。さぁ、楽しいランチタイムにしようか」


 最初にさっちゃんの領主様フルコースの前菜が来た。

 続いてユリ姉さんの日替わり定食、最後はわたしの高級お子様ランチだ。

 ちなみに、わたしのランチプレートは天国になっている。

 そう、いつかの夢の競演だ。

 カツ天使にハンバーグ天使、加えてオムライスに激甘カレー……完璧だった。今日は一度も悲劇は起きていない。さらに今日は、天国にナポリタンタンと言う名の庭園まで広がっている。ジュースはメロンアイスフロートだ。


「……凄い。わたしは奇跡を見てるよ。これはもう天国じゃない、神の領域だよ!」

「アリアちゃん、カレーでテンション最高なのは分かるけど、少し静かにした方が……」

「アリアちゃんはカレーが大好きかー。神の領域を再現するとはやるねー」


 わたしの前には神の領域が広がってるけど、さっちゃんの前にはキラキラした世界が広がってる。


「さっちゃん! わたしの前には神の領域だけど、さっちゃんの前には世界が広がってるじゃない! もっと喜ぼうよ! わたし達は全てを創造したんだよ!」

「創造したのは料理人さんだよ。アリアちゃん、少し落ち着こうか」


 さっちゃんに肩を抑えられる。……ちょっと痛いよ。


「……うん、落ち着いた。ゴメンね」

「よかった。冷めないうちに食べよう」

「うん」


 ユリ姉さんが笑顔の涙目で頷いてる。これは……笑いをこらえてるのかな?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る