10話 解放の日



 強盗事件から一週間たった日曜の今日は、ブリギッテさんの組織に行く事にした。

 もちろん、さっちゃんも一緒だ。

 お小遣いが貰えるかもしれないので直ぐに行こうと思ったけど、お母さんから一週間の外出禁止命令が出たせいで行けなかった。


 プールからの帰宅後、さっちゃんが強盗事件の話をお母さんにした。

 ……お説教が2時間も続いて死ぬかと思ったよ。

 さっちゃんは手加減どころか、かなり大袈裟に説明したのだ。

 一週間、学校と家の直行直帰を厳命された。

 なんとか逃げようと思ったけど、さっちゃんが監視役なので逃げられない。わたしは学校と家に縛られ、勉強漬けの毎日だった。


「はぁー、やっと解放されたよー……」

「良かったね、アリアちゃん」

「さっちゃんのせいだよ、もー」

「頑張ってクレアおばさんに説明したかいがあったよ」

「うーーー……」


 言い返したいけど言えない。

 あの事件でかなりの迷惑をかけてしまい、泣かせてしまって怒らせてしまったから。

 さっちゃんに迷惑を掛けないように、少しでも成長しようとこの一週間頑張った。

 わたしの人生で一番努力した一週間だったかもしれない。

 ……少しは成長できてると良いな……。


「あ、おじさん、このジュース2本頂戴!」

「あいよ!」


 うん、暑い日に露店の冷えたジュースは最高!


「はい、さっちゃんに1本あげる!」

「ありがとう。でも、お金は払うよ。お小遣いは大事にね」


 ……またやってしまった。でも、暑いから仕方ないよね。うん、水分補給は大事!

 ブリギッテさんのいる組織までは結構距離がある。熱中症になったら大変だもん。

 ブリギッテさんの組織か……。少し遠くにあるので今まで気にした事がなかった。

 昨日、クラスメイトから色々と聞いたのでどんなところか楽しみだ。


「昨日ミーちゃんから聞いたんだけど、ブリギッテさんって有名人らしいね」


 ミーちゃん。

 わたしのクラスメイトで「民兵博士」とみんなに言われている。

 組織巡りと称して色々な組織でアルバイトをしていて、集めた情報で自作の民兵図鑑なんて物を作ってる変わり者。


「ミーちゃん曰く、「ファルメリア3英傑の一人」って事らしいけど、さっちゃんは知ってた?」


 さっちゃんは「うーん」と言いながら考える。


「3英傑って言うのは聞いた事がないかな……」

「あ、そうなんだ」

「ただ、ブリギッテさんの名前は聞いた事があったよ。わりと有名人だと思う」

「へ?」


 ……会った時も、プールの帰り道でも、この一週間の間も何も聞いてないよ。


「アリアちゃん、知らなかったんだね。ブリギッテさんの事を何も聞いてこないから知ってると思ってたよ」

「……お母さんのお説教が強烈すぎてブリギッテさんの存在を忘れてただけだよ。昨日ふと思い出してミーちゃんに聞いたんだ」

「そっか……。ゴメンね、私も少しは話を振れば良かったね」

「さっちゃんは悪くないよ、悪いのはお母さんだよ。でも、ミーちゃんに聞いたお陰で必要以上に詳しくなったから結果的には良かったかな。何も知らずに行ってたらビックリしてたと思うし」

「そうだね、大きい組織だからね」


 そう、ブリギッテさんの組織は凄く大きいらしい。

 ミーちゃんから聞いてビックリした。支部って言葉で気付くべきだったよ……。


 『民兵組織レクルシア』


 ラフィスセレン領「首都」に本部があって、各都市に支部があるらしい。

 一番偉い「総長」って呼ばれてる人と領主様の仲がよくて、今はBランクだけど、将来的に最高ランクのA+は間違いないといわれてるみたい。

 ……わたしから見たら雲の上の存在だよ。

 わたしが今までアルバイトをしていたのは近所の小さい組織ばかりで、ランクDとかCだ。Bランクの組織のバイトなんて面接で落とされる。

 ブリギッテさんはそんな組織の支部長……。

 

「大きい組織の支部長のお礼……」 想像するとニヤニヤが止まらない。

「欲望が顔に出てるよ。あと、ヨダレも少し……」


 さっちゃんが呆れながらもハンカチで口を拭いてくれる。

 でも興奮は止まらない。


「さっちゃん、Bランク支部長のお礼だよ! ワクワクが止まらないよ! お小遣いがいっぱい貰えるかもしれないんだよ!」


 想像すればするほど妄想が膨らんできた。うふふふ……。


「そうだね。でも、あまりにも「お小遣いお小遣い」って言っていたら何も貰えないかもしれないよ」


 また口を拭いてくれる。

 ……確かに、おねだりのし過ぎはよくない。


「うん……ブリギッテさんは軽そうだったけど、フューズさんは固そうだったもんね」

「そうだよ、気を付けようね」


 ……さっちゃんの言う通り気を付けよう。

 ブリギッテさんはわたしが会ってきた中で断トツに偉い人だし、フューズさんも礼儀には厳しそうだった。

 まずは挨拶をしっかりして、それからおねだり。順番を間違えちゃいけない。


「まずは挨拶をしっかりと、だね!」

「うん、そう。挨拶はしっかりと、ね」


 しっかりと挨拶してしっかりとお小遣いを貰う!

 よし、今日の目標は決まったよ! 頑張ろう!


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