永遠のフィリアンシェヌ ~友情と愛情の物語~

サファイア

プロローグ 僕



 僕は今日で10歳になる。今日から日記を付けようと思う。

 ……うん、特に書く事もなく1日が終わった。とにかく一言書こう。


[ 今日も平和で何事もなかった。明日も平和が続きます様に ]


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 この世界の人類は主に4種族に分かれている。

 原人種、獣人種、海人種、翼人種。

 陸、海、空……全人種がお互いを尊重して助け合っていた。

 その大きな流れを支配しているのが絶対の力を持つ3体の龍だ。

 地龍、海龍、空龍。

 人類を生み出し、数多の生命を生み出した3大神の眷属だと考えられている。

 この3体は絶対的な力を持って世界の頂点に君臨し、自分達が認めた者達に力を与えて種族を「龍族」とし、その者達が世界を管理している。

 龍族達は国と言う枠組みを作らずに領地と言う区分で世界を分け、領主には龍族達が自らが就いた。

 龍族の統治は合理的で善良的。龍族達の結束は固く、領地間の戦争や小競り合いは全く無い。

 世界は、毎日少しづつ良い方向へ進んでいく。

 文明は確実に発展し続け、貧困層は無く孤児や浮浪者は居ない。全員が不自由せずに暮らし、自由な仕事に就いて好きな物が買える。そんな何事も無い平和な日常が続く。

 でも、だからなのだろうか……刺激を、争いを求める声が上がるのは……。


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 日記をつけ始めてから1年。初めて大事件が起きた。


[ 今日、父さんから領地で大きな暴動が発生したと聞かされた。全領地に拡大する可能性が高いそうだ ]


 領主様達は様々な事態に備えてそれぞれの領地に軍事力を蓄え、一定の戦力と労働力を維持している。

 僕の両親は軍人だ。父さんは暴動鎮圧の為に領地内を回るらしい。


「暴動を治めるために数日は家に帰れない。母さんからあまり離れないようにしろよ」


 父さんが帰ってきたら、交代で母さんが出動するらしい。

 軍人の暴動ではないと聞いた。

 領主様が管理する軍隊は規律がしっかりしていて、暴動などは決して起こらないらしい。暴動を起こしたのは民兵や一般の領民で、その人達が武装蜂起して伝染病の様に全領地へ拡大して大事になってるみたい。

 近所に住んでいる「生き字引お婆ちゃん(自称200歳超え)」が言うには100年ほど前にも同様の騒ぎがあったらしいけど、その時は1ヶ月程で解決したと言う。


「坊主やー、安心せー。あっちゅうー間に、日常が戻りゃーすー」


 3日後、父さんが帰って来て代わりに母さんが出動した。

 自領はほぼ鎮圧されたけど、他領の応援に向かうらしい。

 父さんから暴動の理由を聞いた。領主様への不満が爆発したらしい。


 ・パンがもう一個食べたかった。←パンを沢山配らない領主が悪い。

 ・転んで膝を擦りむいた。←道を整備しない領主が悪い。

 ・クワが折れた。←立派なクワを寄越さない領主が悪い。

 ・露天のリンゴを盗んだら見つかって怒られた。←窃盗を認めない領主が悪い。

 ・etc………←全部領主が悪い。


 父さんは頭を掻きながら笑っている。


「まあ、変な風に不満を溜め込んでおかしくなったんだな。不満は小さい内に解消しないとダメだな。お前も気をつけろよー」


 ……みんな、ずっと平和で頭がおかしくなったんじゃないだろうか。

 そんな事で武装してみんなで暴れるって……領主様は悪くないよ……。

 動機はみんな違っていて、僕からみても子供じみたものや的外れなものが殆んど。

 ……こんな理由でみんなが暴れてるの? 他の領地の人達も同じ理由?


 ***


 暴動発生から半年が過ぎた。暴動と鎮圧作戦はまだ続いているらしい。

 僕の住んでる領地は落ちついてるけど、まだ警戒体制は解除されていない。

 両親は僕を1人にしない様に交代で自領の警備についている。

 ……僕はもう11歳。留守番くらい、1人でも良いのにと思う。


 ***


 暴動発生からもうすぐ1年になる。

 なぜ、こんなに時間がかかっているのか僕には不思議だった。

 軍人と呼ばれる人達はかなり強い。特に母さんは種族を疑っちゃうくらいに強い。

 暴動が始まる前、家族で露天巡りしていたところに民兵同士の喧嘩に出会ったことがあった。

 民兵が50人ほどいて大乱闘状態で、昼間からかなり酔っているのか本格的だった。怒号が響き、剣がぶつかり、魔術が飛んでいてすごく怖かった。

 周囲はみんな逃げており、商品が道に散乱して露店は幕を下ろしていた。露店の影から小声で「……衛兵……まだ……」とか聞こえていた。

 非戦闘区域では、非常事態以外の戦闘行為は重大な違反で犯罪行為だ。

 ……その乱闘現場に両親が突入してあっという間に暴動を治めてしまった。

 父さんを見ていたら一瞬で自分の周囲の10人を倒してしまっていて、母さんを見たら残り全員がうずくまって呻き声を漏らしていた。母さんは無表情で、ただ立った状態で民兵を見下ろしてたのがすごく印象に残ってる。

 凄すぎて何が起こったのか分からなかった。

 それからすぐに衛兵20人が到着して、両親と露店の人達が事情を説明して暴れてた民兵を引き渡してた。

 父さんから軍について聞いた事がある。

 どの領地も軍事力に大きな差はないそうだ。軍人が10000人以上は居るらしい。詳しくは軍事機密だからと言って教えてくれなかった。


「俺は部隊内では普通の強さだが、母さんは化け物だ。絶対に怒らせるなよー」


 父さんが10000人以上居る軍隊が各領地に……うん、暴動なんてすぐに解決だと思う。

 民兵と普通の領民が半年以上抵抗する……うん、想像がつかない。ちょっと考えたら1日くらいで終わりそうなのに……。

 生き字引お婆ちゃんだって、前は1ヶ月程で解決したって言ってた……。

 だから僕は夕食の席で対面に座る両親に質問した。


「ねえ、どうしてこんなに時間がかかってるの?」

「うん? まあ、規模が大きいからな。ほぼ全領地だ。人数が多ければ時間もかかるさ」

「そうね。相手が民兵なら力加減も楽だけど、今回は一般の領民も多いからね。力加減が大変なのよ」

「おう、母さんは化け物だ! 一般人なら身体が消し飛ぶからな!」


 ドゴッッッ


 母さんの裏拳が父さんの顔面に当たって、椅子ごと後ろに吹っ飛んだ。

 ひよこ飛んで鼻血出てるよ……。

 母さんの突っ込みはいつも強烈で凄い。相手が父さんじゃなきゃ捕まってると思う。

 ……長引く理由が全領地だから……父さん達の言い分はわかる気がする。だけど……。


 ***


 暴動発生から1年が過ぎたころ、騒ぎは完全に治まっと領主様から発表された。

 領地の警戒体制が解除されてみんなの雰囲気が変わった。

 警戒体制中に生じた色々な損失や今後の生活支援も、食料や金銭など希望の形で配布されるらしい。みんなが安心して喜んでるのがあちらこちらで見える。

 暴動騒ぎでの死者は、暴れた民兵と領民に沢山出たらしい。

 ただし、軍人が殺した訳ではなく、制限管理区域に侵入したり、普段は近寄らない危険地帯に入った者達が猛獣に殺されたみたい。

 ……隠れ家にでもしようとしたのかな?

 軍が捕縛した者達は全員が更生領地での1年間の奉仕活動らしい。

 ……やっと、平和な世界が、何事も無い日常が戻ってきた。


[ これからは、前みたいな平和がずっと続きますように ]


 僕は日記にそう書いてノートを閉じた。


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