第2話
僕らは必死になって手を振る。その自家用車は僕たちの前で止まってくれた。
「あーら、あんたたちこんなところでなーにしてるのー? 若い子達ねー。高校生?」
車の窓が開き、エプロンをつけたおばさんが顔を出す。
「すみません。道に迷ってしまって、近くの駅か大きな街まで送っていただけないでしょうか?」
記憶がないことを伝えるのはとりあえず避けた。このややこしすぎる問題を伝えたら返って怪しまれて、車に乗せてもらえないかもしれないと思ったからだ。
「そーなのー、大変だったわねえ。とりあえず車の中に……」
「アリスは! アリスは別の世界からやってきたんですけど! そういうことなんですけど! この男、全然信じないのです! どうにかしてください!」
「あらー、そうなのー。綺麗な子ねえ。ともかく外は暑いから乗りなさい、乗りなさい」
僕たちは自動でスライドしたドアに招かれ、後部座席に乗車した。
「お兄ちゃんたち、大変だったわねえ。あのバス停もう廃線になっててこないのよ」
「え」
「いやーよかったわー、偶然通りがかって」
「あ、ありがとうございます。本当に助かりました」
「いいのよお」
「白うさぎ……頼りにならない……」
「おい、僕は君の友達でもなんでもないぞ。くんをつけろ、くんを。さんでも様でもいいぞ」
「白うさぎ……」
「あら、じゃあ恋人?」
「違います」
なんだこのババア、頭わいてんのか?
「白うさぎは白うさぎです」
窓の外を眺めると、次第に景色が変わってきたのがわかった。田んぼや林ばかりだったのに、ちらほらと建物が建ち始め、人の姿もあった。
「あ!」
「なんだよ急に」
「どしたのお、アリスちゃん」
「あの、おばさんは飲み物持ってますか? アリスは喉が渇いていたんでした!」
忘れるくらいの渇きでぎゃーぎゃー喚きやがって、このアマ。
「そうよねえ。あの炎天下にいたんだからそうよね。はいこれ、口つけてないから。ごめんねえ、気が利かなくて」
おばさんはそう言って水筒を後ろに差し出す。
「ありがとうございます」
僕はお礼を言って水筒を受け取る。
「あ! アリスの! アリスのです!」
僕は一気に水筒を傾ける。喉を伝う麦茶が、僕の体を癒していくのがわかった。
一口で飲めるだけ飲んでから水筒を縦に戻した途端、水筒は横にいた女にぶん取られた。
「あれ……」
僕は水筒を指差し、静かにつぶやく。
「な、なんですか……?」
「それって、間接キスじゃね?」
少女は顔を真っ赤にして、口をつけるのをギリギリで止める。
「ぐ、っぐう」
僕は潤った喉で少女に告げる。
「あれ、あんまり躊躇わない感じ? へ〜、そっか〜。ふ〜ん」
「あ、アリスは経験豊富なのでそれくらい平気です!」
少女は喉の渇きにたえられなかったのか、目を瞑っていきに水筒を飲み干した。
クソビッチめ。
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