第5話 自由すぎる白の勇者一行
「お邪魔するよー」
白の勇者ブランシュ・ニルアガマのパーティーに所属する、魔法使いの少女クラリス。
彼女は粗末な家の玄関戸を魔法で吹き飛ばし、中へ踏み込んでゆく。
「クラリス……? あなたクラリスなの?」
家の中にいた見窄らしい女が驚きの表情を浮かべている。
それを見て、クラリスは満面の笑みを浮かべた。
「そっ、あのクラリス! お前らが魔法学校時代に散々虐めて、こき下ろしていた同級生だよ」
「あ、あれは……」
「まっ、お前達が虐めてくれたおかげで、ヘイトが溜まって、努力するモチベーションに繋がったから、今じゃ感謝しているね!」
「なによ、今更何の用……」
「実は今の私はこういうものでね」
クラリスは首からぶら下げていた、七色に光る宝石がはまったペンダントを取り出す。
それを見た途端、元いじめっ子は顔色を真っ青に染めた。
「ゆ、勇者の証……まさかあなた!?」
「そっ! 今の私は白の勇者で第一王子のブランシュ殿下に使える魔法使い! だから……勇者パーティーの一員として、君の家から"必要なものを取得"させて貰うからね!」
「や、やめてっ!」
クラリスは元同級生の言葉など意に介せず、家の物色を始めた。
これはクラリスにとって復讐だった。
かつて虐めていた奴は没落し、今はかなりの貧乏。そんな奴から根こそぎ金品を奪い取る。
「お願いっ! クラリスやめて! そんなに持って行かれたら家は……」
「はぁ? クラリスぅ……? 生意気なんだよ、貧乏魔法使いのくせに! ちゃんと"様"をつけろ! "様"をな!」
「くっ……ク、クラリス様……どうかこれ以上はお止めいただけると……」
「バーカ! 止めるか! きゃははは!」
ーー勇者とその仲間への権限。
"国民は勇者とその一向が要請すれば、家へ招き入れ、物品を差し出すこと"を利用して。
(クソ真面目なノワールはもういない。ようやく今まで私のことをばかにしてきた連中に復讐できる。勇者パーティーの権限を使って!)
●●●
「あら? 貴方可愛いじゃない。この後、私とどうかしら?」
高級レストランで高いワインを飲みつつ、豪華な夕食を楽しんでいた。勇者パーティーの聖職者アリシア。
彼女は目をつけたホール従業員へ色目を使っている。
「い、いえ、その……当店は、そうしたサービスはちょっと……」
男性従業員はルールに従った真面目な回答をした。
するとアリシアは不満そうにため息を漏らす。
「あまりこの手は使いたくなかったけどしかたないわ……勇者パーティーのメンバーの名において命ずる。今夜は私と共に過ごしなさい? 良いわね?」
「そ、それは……私には身重の妻も……」
「これは勇者パーティーの聖職者アリシアからの命令よ。妻子持ちだろうと知ったことじゃないわ」
「……」
「それとも反逆罪で一家共々、王都所払いになってもいいのかしら?」
「か、かしこまりました、アリシア様……喜んでお供いたします……」
ーー勇者とその仲間への権限
"国民は勇者とその一向より随行を依頼されれば、従うべし"
権限に逆らうことは国家反逆罪に値し、厳しい罰が加えられる。
(堅物のノワールはもういない。これからは可愛い男の子たちと自由に遊べるわ。勇者パーティーの権限を使って! うふふ!)
●●●
「かぁーっ! 負けたぁー!」
賭場で散々負け越し頭を抱えているのは勇者パーティーの盾役(タンク)で重戦士のラインハルト。
彼は近くにいた中年ディーラーへガッチリ肩を組む。
「おい、この賭場ってインチキだよな?」
「な、何をおっしゃいますか! インチキなど……」
「ふーん……実は俺こういうもんでさ」
ラインハルトは勇者の証を見せた。
ディーラーは驚きの表情を浮かべる。
「勇者パーティーの一員、ラインハルトとして命じる。ここの賭博はインチキ、なんだよな?」
「……お、おっしゃる通りです、ラインハルト様……」
ーー勇者とその仲間への権限。
"国民は勇者とその仲間へ問いかけられた場合、有益な情報を与えなければならない"
「具体的にはどんな?」
「あの、ラインハルト様、貴方は……」
「安心しろって。別にここの内偵にきたわけじゃねぇんだ。ただ少しばかり、得させて欲しいって思ってよ」
「……あちらのブースのサイコロですが、片方は必ず6が出るように細工がしてあります」
「ほうほう、なるほど。いいこと聞いいた。サンキューなおっさん」
「ラインハルト様、この件はくれぐれもどうか……」
ディーラーはラインハルトへ最高額金貨を何枚か握り渡す。
するとラインハルトは、ニッと笑みを浮かべた。
「おうよ、任せな。男同士の約束だ」
「ありがとうございます」
「この店も、お前もきっちりまもってやんよ。俺、勇者パーティーの一員だからな!」
この賭博は、違法な殺人・盗賊ギルドが運営をしている。
本来は勇者パーティーの一員として、こうした場所は取り締まらなければならない。
しかしラインハルトにとって、ここは自分が"得"をできる場所となった。
ならば見逃し、利益を得る。
ラインハルトとはそういう男である。
●●●
「「「ただいま戻りました、白の勇者ブランシュ様!」」」
思う存分羽を伸ばしたクラリス、アリシア、ラインハルトの三人は、今の飼い主である白の勇者ブランシュが宿泊をしている、最高級ホテルへ帰参した。
「うむ、ご苦労。各自、自由に羽は伸ばせたかな?」
「はいっ! そりゃもう存分に! でもやっぱり私は勇者様が一番だーいすきっ!」
真っ先にクラリスがブランシュへ飛びついた。
「もうクラリスったら……うふふ……勇者様、私も可愛がってくださいまし」
次いでアリシアも、ブランシュの膝の上へのる。
ブランシュは今や国民的な英雄で、内外からも絶世の美女と称されるクラリスとアリシアに寄り添われすっかりご満悦な様子だった。
「良かろう。今宵は余が相手をしてやろう!」
「さっすがはブランシュの旦那だ。豪快っすね!」
ラインハルトは絶好のタイミングで、ブランシュへ賞賛の言葉送った。
「すまんな、ラインハルト! 余ばかり美味しい思いをして!」
「いえいえ、滅相もありません! 旦那のような天上人にこそふさわしい状況ですって」
「ふふ……余は貴様のような謙虚な奴が大好きだ! 隣の部屋へ最高の女どもを用意している。存分に楽しむが良い!」
「マジっすか! いつもすみませんね。さすがは旦那です!」
……最も、これはラインハルトの計算の内である。
「各自、今宵を楽しんだ後、明朝エレメントドレイク討伐へ出立する! くれぐれも遅刻はせんようにな!」
「「「イエス マイ ブレイブ!」」」
そうして始まった白の勇者一向の乱痴気騒ぎ。
もしもノルン……もとい、黒の勇者ノワールがリーダーならば、このような状況にはならなかったのだろう。
しかし彼らは気がついていない。
明日には自分達が、転落の一途を辿ることになるのだと……
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