第20話 衝突Ⅴ ソラの秘密①

「アリエルちゃん、で合ってるですぅ? その……レムのこと怖くて仕方ないかもしれないですけど、リラックスリラックス~、なのですぅ」


 レムさんがどんな表情をしたらいいのか困ってるようなぎこちない笑みを浮かべて話しかけてくれる。


 ――気を遣わせちゃってるな。こんなところで物怖じしてちゃ、お嬢様に振り向いてなんてもらえない。


 そう意気込んで、ぼくも無理に笑顔を作って見せる。


「あ、ありがとうございます。きょ、今日は、ま、まずこのギルドの現状把握、をしたい、です。先々代よりも前の領主さまの頃から冒険者ギルドの売り上げがどれだけ減っているか、ギルドの受付嬢として今どのようなことが問題だと考えているかについて、私見でいいから教えててほしい、です…… 」


 やっぱり見知らぬ女の子に対しては上ずっちゃう。そんなぼくのことをレムさんは幼子でも見守るかのような温かい目で見守って聞いてくれた。


「うーん、先々代より前、って言っても、レムもまだ19歳ですし、実感として何かがあるってわけでもないですぅ。ただ、先輩受付嬢の話とか記録とかを見ている限り、最盛期の1/9から1/10くらいの利益になっていてヤバヤバなのは間違いないのですぅ。


 そして、やっぱり一番の問題はSランク冒険者及びAランク冒険者がこの地方を去ってしまったため攻略難易度B帯よりも奥に進めないほか、素材が高価に取引される魔獣モンスターと遭遇しても撤退せざるを得ない、とかっていう問題がありますぅ。攻略難易度が高い魔獣が狩られることがなくなれば攻略難易度A帯以上の領域がどんどん増えていって残った冒険者の活動できる範囲が狭まる、だから優秀な冒険者を含めた冒険者が他の街に流出してしまい、ギルドの売り上げが下がる。こんな負のループに陥ってるんですぅ」


「SランクやAランクの冒険者なら領主が守ってくれようがくれなかろうが、危険なところでこそ冒険すべきなんじゃないの……? 」


「逆ですぅ。優秀な人ほど、究極的には領主の加護がある安全圏で仕事をしたがるのですぅ。もっと言うと、いざ魔族が進行してきた時に領主が心もとないと、魔族との戦争の最前線に立たされるのは高ランクの冒険者ですぅ。彼らだって自分の人生がかかってるから、強制的に引き留めることなんてできないのですぅ」


 ぼくがぽろっと漏らしちゃった感想にレムさんは悲しそうな表情になって言う。


「だから、ギルドとしてはせっかく残ってくれたBランク以下の冒険者を中心にAランク相当の魔獣を討伐して自信を付けてもらうこと、そして冒険者全体の活動域を広げること、そうしてくれたら万々歳なのですぅ」





「Aランク相当の魔獣の討伐、か」


 作ってもらったばっかりの冒険者であることを証明するプレートを見つめながら、ぼくはソラ先輩のことを探していた。


 話を終えた後。レムさんに一応冒険者としての登録もしてもらったぼくは席を外していたソラ先輩とお嬢様を探して街をぶらついていた。お嬢様はいろいろ見て回らないといけないんだろうからともかく、先輩に関してはぼくは1人じゃ女の子が怖すぎて町中なんか歩けないことぐらいわかってるのに、先輩達は何処まで言っちゃったんだろ。全く、困った先輩だね。


 そう失礼極まりないことを考えてみる。何か考えてないとすれ違う女の人一人一人のことを意識して倒れちゃいそうだったから。


 因みに冒険者を証明するプレートは冒険者の格を表すグレードによって素材が変わる。一番低いDランクは藁・Cランクは木彫り・Bランクは黒曜石・Aランクは紅玉・Sランクは金塊、と言った風に。今のぼくのグレードは初心者と言うこともあってC。


「本当はDランクからのスタートなんですけど、今はこういう状況だからおまけですぅ」とレムさんからはよくわからないおまけをしてもらった。まあ、元勇者パーティーメンバーです、って素性を明かしたら即Sランクのプレートを渡されてそうだったし、冒険者のグレードなんて気にしてないから自分がどのグレードだろうとそこまで興味ないんだけど。


「Aランク相当の魔獣モンスターの討伐、か」


 再び同じ科白を口にしちゃう。Aランク相当の魔獣の討伐、それ自体はたぶん、ぼくにとってそんなに難しいことじゃない。勇者パーティーにいた頃はもっと恐ろしい敵と何度も戦ってきたんだから、ソロでも余裕だと思う。でも、今のぼくはお嬢様の執事で、冒険者でもなければ騎士でもない。執事から冒険者に転職して、AランクSランク相当の魔獣をバッタバッタ倒して、ギルドに素材を流して、ってした方がこの地域のためにも、きっとお嬢様に役にも立てるんだろうな、っていうのはわかってる。そして、そんなぼくのことをお嬢様が好きになってくれる可能性はお嬢様が魔法騎士としての「わたし」を好きになってくれたことからありえそうだとは思う。でも。


 冒険者と言う生き方は「ぼくがこうありたいぼく」じゃない。ぼくはあくまでお嬢様がくれた「執事としてのぼく」をお嬢様に見てもらって、お嬢様に好きになってもらいたい。


「はあっ。ぼく、どうしたらいいんだろ……」


 そんなこといつまでも考えてないでまずはソラ先輩と合流しないとな。そう思いつつも、足を重く感じていたその時。


「や、辞めてって言ってるでしょ! 」


 近くの路地裏から悲痛な叫びが聞こえてくる。あの声は……間違いない、ソラ先輩!そう思った瞬間。


術式定立リアライズ_身体強化エンパワーメント_対象選択ロックオン_me_再現開始リスターツ


 あたしは全身を魔法で強化してロケットのように飛び出し、悲鳴の聞こえた路地裏に駆け出す。そこには目をギラギラ光らせた屈強な男が3人、ソラ先輩のことを取り囲んでいた。


 ――この人達はさっきの冒険者ギルドにいた人達。ってことは、この人達がソラ先輩に何かをしたってこと?


 そう考えると沸々と怒りが湧いてきた。ソラ先輩は今のぼくをくれた大切な人の一人。そんな大切な人を傷つけるなんて許せるはずがない。


 怒りに燃える瞳で思いっきり男たちを睨みつけると、相手もようやくぼくの存在に気付いたみたい。


「あ、? ガキがなんだ? 俺達に交じって楽しみたいのか? 」


 そう言って下品に笑う男達。そんな彼らに、もうぼくは堪忍袋の緒が切れた。


術式定立リアライズ_雷撃ライトニング_対象選択ロックオン_me_再現開始リスターツ


 魔法による身体強化に上乗せして雷撃を体中に纏う。そんなあたしに殴り飛ばされて、ソラ先輩を襲っていた3人は呆気なくその場に伸びる。


 3人の男が気絶したのを確認してから。ぼくはようやくソラ先輩の方に向き直れた。

「大丈夫でしたか、ソラ先輩。一体何が……」


 ぼくはそれ以上言葉を続けることができなかった。ソラ先輩の姿を見た途端、ぼくの全身が震えだす。だってそこにいたのは……。


 乱雑に服を脱がされて女性らしい胸が露になったあられもない姿で道端に倒れ込む、どう見ても『女の子』であることが否定しようのないソラ先輩だったんだから。


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いつもお読みいただきありがとうございます。もうかなり前になりますが、本作も皆様のおかげで累計PV数が1,000を超えることができました! これもひとえに皆さんが応援してくださっているお陰です。本当にありがとうございます。


さて、アリエルとミレーヌがイチャラブする前提としていろいろ整えなくちゃいけないことがあって、今回はそのうちの経済基盤をどうしようかという話に少しなりました。要するにアリエルとミレーヌのイチャラブを書く前提として解決しなくちゃいけないことがいろいろあるのでこの作品はまだまだ続くと思うので、引き続きの応援を頂けたら嬉しいです。それでは。

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