第2話 赤ちゃん転生


「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 ――ど、どうなってんだ!?

 まさか記憶や意識を保ったまま、2度目の人生がスタートしちまったってことか!?


 死んだら赤ん坊に転生するとか、まるでアニメとかラノベの世界の出来事じゃねーかよ!


 俺は事態を把握こそできたが、頭の中は大混乱。

 さらに脳も肉体も未成熟なため感情を制御できないらしく、泣き叫ぶことしかできない。


「まあまあ、元気いっぱい。さあ、お顔を拭き拭きしましょうね」


 看護師さん――正確には助産師さんの、タオルを持った巨大な手が迫ってくる。


 な、なんか凄く怖いぞ!

 純粋に自分と比べて大きいからってのもあるが、それだけじゃない。

 これは赤ん坊の本能が、母親以外を拒絶してるのか……!?


「お――おぎゃあッ!」


 タオルが触れる瞬間、恐怖心はさらにぐっと高まる。

 そして、その瞬間――俺の身体から、謎の波動・・・・が放たれた。


「きゃあ――っ!?」


 バチッ!と弾かれるタオルと、助産師さんの手。


 ――え?


 な、なんだ……?

 俺は今、なにを……?

 母親も茫然とし、


「い、今のは……」


「……! 魔力計測器を準備して! 早く!」


 なにかに気付いた助産師さんが、周囲の看護師さんに指示を出す。

 すると皆慌てた様子でバタバタと動き、なにやら機材を用意。

 それらはケーブルを介し、俺の頭や身体にペタペタと張り付けられていく。


 な、なになに!?

 その機械はなんですか!?

 俺はなにをされようとしてるの!?


「おぎゃああ! おぎゃああ!」


 俺の恐怖心はさらに高まり、最高潮に達する。

 すると――さっきの波動はさらに拡散して放たれ、母親を除く全てに無差別攻撃を開始。

 壁を凹ませ、戸棚をぶち壊し、医療器具を破損させていく。

 バーン!とかパリーン!みたいな轟音が響き、「きゃー!」という助産師さんたちの悲鳴も飛び交う。


 ごめんなさい、本当にごめんなさい。

 でも止められないんです。

 赤ん坊だからどうしようもないんです。


 当然、助産師さんたちが用意した機材もケーブルで俺に繋がれているため、バチバチと火花を上げるが――


「せ、先生! この子……凄まじい魔力です!」


「なっ、なによこれ……!? 魔力量が最大値を振り切ってる! 計測不能なんて、こんなのあり得るの……!?」


 計測器のメーターを見て驚愕する助産師さん。

 しかし次の瞬間、その計測器すらもボン!と煙を吹いて爆発した。


 ど、どうしよう……。

 これ、どうやって止めればいいんだ……?


 どうやら俺は明らかにヤバい力を持って生まれてきてしまったらしいが、元々凡人オブ凡人の生活しかしてこなかったから、制御の仕方なんてわかるワケない。


 マジでどうすれば――


「よ、よしよし……! いい子ね、ホラ、いい子だから……!」


 その時、泣き止まない俺を、母親である女性があやしてくれる。

 次に聞こえてきたのは――子守歌。


「~~♪ ~~……♪」

 

 それはとても心地良く、落ち着く音色だった。


 瞬間、襲い来る眠気。

 安心感と無差別に力を使った疲れからか、再び瞼が開けていられなくなる。


「ば……ぶぅ……」


 直後に病室へ静寂が戻り、俺は深い眠りに落ちる。




 この時――俺は自分が、歴史を塗り替える記録的な魔力量を持って生まれたことなど、まだ知る由もない。



 さらに今から10年後――〝神童〟と呼ばれる大人気『ダンジョン攻略配信者』になるなんて、夢にも思っていなかったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る