第12話 ライバル?

「ふっ、宿命のライバルの登場。それは俺のような主人公には避けて通れない出会い。ああっ、世界よ。もっと俺を照らせ!!」


 なんか無性に背中が痒くなるようなことを言っておるな。人間に限らず群れの中にはたまにコミニュケーションが取れない個体が出てくるが、あの少年もその類なのだろうか?


「ライバル?」


 マリが不思議そうに小首を傾げた。少年はそれに敏感に反応する。


「そう。この街の守護者であるマリーナ様の娘であるマリ様と俺は宿命のライバル。まさに運命の赤い糸で結ばれた仲なのだ」

「ふざけんな!」

「お前如きがマリ様と、おこがましいぞ!」

「ぶーぶー」


 少年に挑んで負けたらしい少年少女が野次を飛ばす。子供とは思えぬ整った容姿か、それともその立場故なのか、なんにしろ、マリは中々の人気者のようだ。


「有象無象の嫉妬、実に小気味よい」


 大袈裟な動作で髪をかき上げる少年。言ってることはあれだが、周囲の言葉に心を乱さないのは戦士として見所がある。


「さて、マリ様。今から行う戦いで、貴方は俺という超えられない壁にショックを受けることでしょう。それはマリーナ様の娘である貴方には耐え難いことかもしれません。しかしーー」

「お話まだ続くの?」

「そうだ。長いぞ」

「さっさと始めろ」

「ぶーぶー」

「……いいでしょう。誰かマリ様にセイントソードを」


 大そうな名前だが、マリへと手渡されたのはただの木刀だった。マリがそれと俺様を見比べる。


 ……なんだ? また無茶振りな予感。


 そして俺様の勘はよく当たるのだ。


「腕輪になって」


 剣である俺様がどうやって腕輪になれと言うのだ。というか腕輪になれくらいなら、元の魔神とまではいかなくても、せめて手足を生やしたいわ。ーーとかなんとか考えてたら、またもマリから大量のマナが送られてきた。しかもイメージ付き。子供の割には中々高度な設計だ。変身術の才があるのかも。……というか、なんか出来そうな気がしてきた。


 直後、俺様は腕輪となっていた。


 剣の次は腕輪。魔神であるこの俺様が。ハァ。早く元の姿に戻りたい。


「なっ!? なんだそれ? ゴッドソード? まさかゴッドソードなのか?」


 少年が形状を変えた俺様を物欲しげな目で見てくる。しかしゴッドとは。なかなか慧眼ではないか。


「これは魔剣ちゃん」

「魔剣? いや、違う。それはゴッドソード。そしてゴッドソードは俺の剣なんだ」

「魔剣ちゃんは私の」

「なら勝った方。勝った方のでどうかな?」


 いや、それではマリになんの利益もなかろうに。まぁ所詮は子供の言うことか。


「やっ」

「そうか……そうだよね。なら仕方ない」


 少年はまるで仕事に疲れた中年のようなため息を吐くとーー


「勝者が正義だ!」


 ヒャッハー! と奇妙な雄叫びを上げながらマリへと切り掛かってきた。


「ふざけんな!」

「正体表したね」

「マリ様を守るのよ!」


 空想好きとのことだったが、いきなり賊もどきにキャラチェンジしたな。そんな少年からマリを守ろうと、周囲にいた少年少女がアルタ少年へと立ち向かう。


 アルタ少年の目がマナの輝きで一瞬キラリと光った。


「滅殺! 演舞斬り!!」

「「「うぁああああああ!!」」」


 半円を描きながら振るわれる木刀が少年少女を吹き飛ばす。硬い地面に叩きつけられるのは大人でも結構危ないのだが、どの子もしっかりと受け身が取れており、教育レベルの高さを窺わせた。


「マリ様、覚悟!! とうっ!」


 ジャンプする少年。マナがちゃんと練れており、子供にしては中々の跳躍力だ。もっとも、魔神であるこの俺様が天才と認めたマリとは比べるべくもないが。


「えい」

「んなっ!?」


 地面に着地する少年。その手に握られていたはずの木刀がない。


 マリが振り下ろされる少年の剣に対して、下から木刀を振るってアルタ少年の木刀の柄の底を打ち、武器を弾き飛ばしたのだ。だから振り下ろされたはずの少年の手は着地した時には万歳するかのように上を向いていた。


 クルクルと回転しながら落ちてきたダークソードを、マリはろくに確認もせずにキャッチする。


「「「すげ~~~!!」」」


 大人も子供もマリの技量にただただ驚く。ただ一人、負けん気を燃やす少年を除いて。


「ま、まだだ! まだ勝負はーー」

「えい!」

「ぐほぉ!?」


 アルタ少年の脳天に振り下ろされるセイントソード。額に一筋の血が流れたかと思えば、少年はそのまま白目を剥いて気絶した。


「「「容赦ね~!!」」」


 周囲から集まる畏怖と尊敬など意に介した様子もなく、マリは木刀を放り投げると、もうここに用はないとばかりにその場を後にした。

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