第10話 刀身
「我らが偉大なる守護者の復活にカンパイ!」
「「「カンパーイ!!!」」」
領主が掲げた盃に合わせて、広場に集まった者達が手に持った物を高々と掲げる。全員に行き渡る酒にテーブルに並べられている料理の数々。突然の宴にこれだけの量の食料を消費できることに、この街の生活水準の高さが窺えた。
「いや、本当によかったですよ」
先ほどまで演説をしていた、この街の領主がやってきた。人間の中ではそれなりに歳を食っているようだが、特徴的な短足のせいでパッと見は子供のようにも見える。まさか領主がドワーフとは思わなかった。これだけ高度な街を作っているのだから、領主は三つに分けられる人族の中で、もっとも賢いと言われるエルフだと思っていた。
「節約命な貴方がこんな宴を許すなんて、そんなに私の復活が嬉しかったのかしら」
「それはそうでしょう。この街が出来て以降、数多の危機を救った守護者の復活です。ここでケチるほど私はセコくありませんよ。何より、貴方がいれば今日の浪費など余裕で取り戻せますからね」
「ま~た私をこき使うつもりかな、このおチビ君は」
マリ母は領主の頭を気安く小突いた。随分と親しい関係のようだが、こいつがマリの父親か? ……いや、そんな感じではなさそうだ。
「今の私は領主ですよ。おチビ君は止めていただきたい」
「それを言うなら私だって今は母親よ。あんまこき使わないでよね。ねぇ、マリちゃん」
マリが抱っこされ、その手に握られている俺様はブランブランと情けなく揺れる。
「あの、さっきから気になっていたのですが、マリが持っているその剣はなんなのですか? 随分と立派なモノのようですが」
「ふっふっふ。聞いて驚きなさい。この剣はーーあっ!? マリちゃん? どこ行くのかな?」
「お話飽きた。遊んでくる」
母親の手からスルリと抜けたマリはそのまま人混みに飛び込んだ。俺様という抜き身の剣を持った子供に、周囲の大人たちはギョッとして道を開ける。
「マリちゃ~ん、剥き出しの刃は危ないから、間違えて切っちゃったらちゃんとごめんなさいするのよ」
「いや、人を切らないよう注意してくださいよ」
子育ての仕方は集団によって異なるが、マリ母はどうやらかなりの放任主義のようだ。大きな集団になると法と呼ばれる独自の決まりごとが幾つも作られる傾向があるが、この街はそのあたりどうなっているのだろうか?
ん? 何やら視線が……。
マリが俺様をじっと見つめていた。
「小さくなって」
いきなりどうした。あっ、先ほど俺様が巨大化するのを見たからか。確かに大きくなれるなら小さくなれても不思議ではないな
だが外観の質量を弄るのはマナを大量に消費する。小さくなれば持ち運びには便利だろうが、そんな日常のちょっとした利便性のために貴重なマナを消費するつもりはない。
そんな俺様の思考を読んだかのように、大量のマナが送られてきた。
「小さくなって」
この年でこれほどのマナを練れるとは……。
今までのちょっとした動きである程度予想はできていたが、もはや間違いないだろう。この娘は天才だ。それもこの魔神である俺様が認めるレベルの。マリと居るだけで大量のマナが容易く手に入るだろう。その為なら少々の我儘くらい聞いてやるとするか。
そんなこんなで俺様は等身をナイフほども小さくしてやった。
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