第4話 統合部族
「それでマリ様、追放者の件ですが、どの辺りで起きた出来事ですか?」
落ち着きを取り戻したメイドが、切れ目の瞳をマリへと向ける。
「近くの川辺。水を汲んだところ」
「貴方たち」
「はい。確認に行って参ります」
部屋にいた男二人がメイドに頭を下げると家を出て行った。どうやらこのロロナとかいうメイドがこの集団の頭のようだ。そしてロロナの態度からして、この少女の身分はロロナよりも上。やはり街の出身なのだろう。少なくともこの小さな部族の人間ではない。
殆どの人間は部族というコミニティーに所属して、部族の仲間と共に拠点を転々とするが、移動しやすい人数に設定してある部族以外にも当然仲間はいる。つまり複数の部族が常に互いを助け合っているのだ。この部族の集まりを統合部族、略して統合と呼び、自分の部族で対処できない時、統合内の仲間に助けを求めるのだ。
マリや他の六人は恐らくは統合の人間としてこの部族を助けに来たのだろう。
「お嬢様、その剣はどうされたのですか?」
俺様の、それはそれは見事な刀身をメイドが怪訝な面持ちで見る。しかし……保護者か。少しだけ嫌な予感がした。せっかく類まれな才能の持ち主に出会ったのだ。呪いを早く解くためにも少女から俺様を取り上げるような展開は止めて欲しいところだ。
「拾った。私の」
「……随分と立派な刀身ですが、見せてもらってもいいでしょうか?」
「見るだけ?」
「見るだけです」
まったくこの魔神様を物のように。いや、今は剣ではあるのだが……。とにかく俺様としてはこの高貴な体をそうホイホイと渡して欲しくはない。頼むぞ、マリ。
「じゃあ、はい」
盛大に溜め息を付きたいが、剣は呼吸をしないものなのである。
まぁ仕方あるまい。剣であれば、このような扱いもやむなしだ。この才能溢れる少女の元にいればマナの獲得は容易。この忌々しい竜神の呪いを解くまでの辛抱だ。
「刀身の割には軽い。これを賊如きが?」
俺様の羽のようなウエイトにメイドが驚いている。どうやら俺様を戦利品だと勘違いしているようだが、そんなことよりも……重量か。誰が俺様の持ち主……いや、持ち主という言い方は好かんな。神である俺様に対するリスペクトが皆無だ。ふむ。巫女、巫女で良いか。
誰が俺様の巫女なのか、ここは一つ、重量を使って知らしめよう。そんなわけでちょっとだけマナを使って剣の重さを上げる。
「なっ!? これは?」
メイドの手から溢れた俺様の切先が床へと突き刺さった。
「何しているの?」
突然俺様を離したメイドを前にマリが不思議そうに小首をかしげる。それから少女は床に刺さった俺様に手を伸ばした。
「お待ちください、マリ様。その剣、何か、何か妙です」
しかしマリは躊躇うことなく俺様を引き抜く。
「……何ともないのですか? 急に重くなったりは?」
「しない」
「もう一度貸していただけますか?」
「…………」
「これで最後ですから。ねっ? お願いします」
マリは最初と違って渋々といった様子で俺様を渡した。ロロナは慎重に俺様を握ると、重くなるのに備えて身構える。ここでお望み通り重量アップしてもいいのだが、それでは何だか面白くない。常に新鮮な驚きを。そんな欲求が魔神である俺様にはあるのだ。
そんなわけで俺様はマナの噴出でロロナの手から飛び立つことにした。つまり今度は下ではなく上に落ちたわけだ。
「なっ!?」
と、天井に突き刺さる俺様を見て、いい感じに驚くメイド。これは無駄なマナの浪費だ。分かっている。分かってはいるのだが、そんな顔されるともう一働きしたくなる。俺様はもう一回マナを噴出して、少女へとダイブした。その際ちょっと勢いが強くなりすぎてヒヤリとしたが、マリは難なく俺様の柄部分をキャッチした。
何という見事な反応か。俺様はますますこの子が気に入った。
「剣が所有者を自ら選ぶ? まさか、レ、レジェンド武具!?」
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