第3夜「夜22時30分パチンコ屋にて。人間交差点。」
仕事が終わった。俺はなんとなく手持ち無沙汰というかふわふわした気持ちで車に乗る。
明日は遅番だ。今夜は少し遅く帰っても誰にも文句は言われない。
正直な所29歳のフリーターである俺。
家に帰っても特に何も無いさみしい人間だ。
なんて冷めて行く心を繋ぎ止めるように加熱式たばこのスイッチをいれある場所に向かう。
パチンコ屋だ。
何を隠そう俺はギャンブルが好きだ。
と言っても少ないお小遣いでどうにか遊んでいる。
ギャンブルって敬遠されがちというか良いイメージが世間的には無い
だけどギャンブルなんて辞めなよなんて言うやつに限ってクラブでバカみたいに酒飲んだり、風俗に行ったり、車に金かけたり、、
俺がギャンブルに使う金より遥かに多い金額をそれらに使う。それくせ人の趣味に文句をつける非常に希薄なやつが多い。
おっと愚痴とギャンブルについてはまた別の機会に。
仕事終わりにパチンコ屋へ行くと大体時刻は20時30分頃になる。
今年は関東でも2回目の大雪。もう夜空からは粒の大きな雪が頭上にフラフラ降りて来ている。
俺は駐車場側の大きな入口から店内に入る。
入ってすぐ左手の1円パチンココーナーに向かう。フリーターの俺には4円パチンコを打つ金など無い。
夜20時半を回った中途半端な田舎のパチンコ屋には様々な人間が居る。
まず毎回必ずいる年配の夫婦。旦那は10回、姿を見かけたら9回は大工の源さんの甘デジを打ってる。
今日はまだ20時半なのに打ちながら寝てる。
負けてるのかな。
野生の王国を打ってるのは頭が薄くなったいつも閉店までいる小太りのおじさん。
その奥ではウルトラマンセブンを打ってる作業着の人。この人は少し打つとその後はずっと店内を歩き回る。何が楽しいんだろうか。帰りたくないのかな。
海物語コーナーに行ってみる。大海ブラックを一心不乱に打つおばあさんにチラ見された。
甘デジには見知らぬ若い男の子に年配の男性。つまらなそうな顔をしている。
次にミドルコーナー。エヴァンゲリオンを無表情で打つ作業着の男性に北斗無双には金髪のニッカを履いた若い男の子。
その奥のユニコーンを俺と同い年くらいのジャージの人が打っていて。横には主婦っぽいおばさんがリングを打ってる。
今日もパチンカスだらけだなぁと
一通りのパトロールを終えて海物語の甘デジに座った。甘デジっていうのは大当たり確率99分の1で玉はあまり出ない代わりに当たりやすい。
バイト帰りにはピッタリな台だ。1000円をサンドに入れながら心の中でまた帰って来てくださいと呟く儀式をして玉貸を押して打ち始める。
ヘソに玉が入り画面が音楽と共に動き出し非現実に足を踏み入れる。
画面を見つめながら考えていた。
ああ…明日バイト行きたくないなあ。
そういえば今月カードの支払い多いなあ。。
次の仕事どうしようかなあ。。。
今日、更新の面談があり社会保険に入れられないから9月の更新で契約時間を減らすと言われた。
国の法律が変わり条件が厳しくなった為だ。
いっそこのままパチンコ打ちながら死ねたら良いのに。
そんな真っ暗な気持ちで次の1000円をいれようとした時。
ドンッ
と音がして横を見ると魚群が外れて不機嫌そうにボタンを叩く40代くらいの男性がいた。背はあまり大きくなくドカジャンを着ている。
この人は普段どんな生活をしているんだろうってふと気になった。
結婚指輪をしている。奥さんはパチンコ打って帰って文句言わないんだろうか。
気になりだすとなんだか急に止まらない。
あのいつもいる金髪の男の子は友達や彼女は居ないんだろうか。
あのいつも打ちながら寝ている年配夫婦の旦那、パチンコ打つお金はどこから出ているんだろうか。
いつだかテレビで見たドキュメンタリー。
「震災とパチンコ」
みたいなテーマで被災した町でパチンコを打つ人達にスポットを当て取材していた。
おじいさんがパチンコを打ってる時は音と光で嫌な事を全部忘れられるって言ってたシーンと
おばさんが5000円を握り締めこれでお米が買えるよって言いながらサンドにお金を入れるシーンを強烈に覚えてる。
NHKだった気がする。気になる人は探してみて。
そうなんだよね。みんな日常から離れたくてここに来る。
仕事を頑張っている人。働いてない人。主婦。年金暮らし。フリーターの俺。
おそらくみんな日常の自分から離れたくて忘れたくなるとここに来る。
大連チャンで嬉しそうな人。
負けて辛そうな人。
閉店間際に1発台で逆転を信じて取り返そうとしている人。
どんな「モブキャラ」もここでは大連チャンして勝てばたちまち「主役」になり
毎日、顔を見ても一言も言葉も交わさないまま
色々な「人生」を抱えた人達がすれ違う。
人は現実に居座り続けると時にどうしようも無く疲れる。だから非現実に逃げ場を求める。好きな歌手のライブを見に行ったり。ひたすら映画を見たり。恋人とSEXしたり。風俗に行ったり。なんでも良い。
その方法がたまたまパチンコだったのが今、席に座り画面を眺めるこの人達なのだ。
そんな事を考えていると気づけば時計は22時15分を指して閉店が近づく。
どうにか現実を忘却してやろうと奮闘する俺を尻目に
充電を終えた人達がまた1人、また1人と出口から「現実世界」に帰って行く。
その時に
パン!
と音がして振り返った。
そこには70代くらいの羽根モノに張り付きいつも怒っているじいさんが盤面に玉を投げて文句を垂れていた。
「久しぶりに見たなレアキャラ」
と思わず呟いて。怒るなら帰れよ。うるせえな。
とイライラしたと同時にうるさいパチンコ屋で他人の雑音が気になるくらいには自分も怒っている事に気づき帰る事にした。
出口改め「現実世界」の「入口」を通り外に出ると外は真っ白になっていて刺すような冷気が襲って来た。
財布を見ると4000円が無くなっていた。
今日も明日もパチンコ台は回り続ける。
パチンカスの思いを乗せて。
夜22時30分パチンコ屋にて。
人間交差点。
……
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