綾目視点ver続き 2

 メンバーと20分ほど雑談したところで、振り付けの確認を行う。


「んじゃ、そろそろやりますか」

「そうだねぇ〜」

「そうですね」

「うむ、そうだな。そろそろやろうか」

「やるか〜」


 今回は私が主役とのことなのでセンターを務めさせてもらう。


 正直な話センターは苦手だ。


 センターは当然一番注目されるし、振り付けも普段の位置と比べて多い。

 体力と精神力を兼ね備えている人ならいいけど、私にはない。

 だから、私は完璧にそれらをこなせるのか不安でしょうがない。


しかし、今回は私が主役なんだ。

 主役がこんなんじゃ示しがつかない。

 

「よし、頑張るぞ〜!」



 振り付けを確認し終わり、数分経ったところで私たちはタクシーでライブ会場に向かっていた。

 タクシーは2台。一台に3人、もう一台には二人で乗車することにした。


 私は二人の方で、静奈先輩と同じタクシーだ。


「ライブ前に話す内容じゃないけどさ、衛星の件大丈夫なの?今日のライブにも来てるんじゃない?」


 衛星とはストーカーのことである。


「大丈夫だと思いますよ。静奈先輩。最近は手紙も来ませんし、私に飽きたんだと思います」

「そうかな?私は逆に怖いけどな。ライブ前に何も起きないって」

「考え過ぎですよ」

「そうだといいけど…てか、ごめん。ライブ前に不安を煽るようなこと言っちゃってさ」

「大丈夫ですよ。逆に静奈先輩のその気持ちで、よりやる気になりました!」

「そっか。ならよかったよ」


 嘘の衛星で先輩に気を遣わせてしまった。

 いつか本当のことを言わないといけない。


 そんなことを思ってるうちにライブ会場に着いた。


「ん、着いたね。行こっか」

「はい」


 静奈先輩と一緒に降り、会場に入る。


 会場に入った後は衣装に着替え、本番さながらのリハーサルを行い、何の問題もなかったのでそのまま1時間の休憩に入った。


「軽食でも買いに行く?」

「いいねぇ。いこいこ」

「メイチキが食べたいので行きます」

「メイチキか〜。この辺あったっけ?」

「ちょっと遠めですけどありますよ」

「なら、私と雪代と美琴でそこ行こっか」

「了解です」

「えぇ、何で私も〜」

「いいじゃん、最近体重が気になる〜とか言ってたんだから歩こ?」

「うっ。そ、そうだね。行くよ」

「よろしい。じゃあ綾目と遥はフレンドマートに行ってきてよ」

「わかりました」

「うむ、わかったぞ」


 遥さんとフレンドマートに向かう。


「綾目ちゃん」

「どうしました?」

「いやまぁ、大したことじゃないんだけどさ。困ったことがあったらいつでも相談してね」


 多分衛星のことだろう。


 静奈先輩だけではなく遥さんにも心配をかけさせてしまっている。申し訳ない。


「ありがとうございます。でも、今は大丈夫だと思います」

「そっか。それならいいんだ」


 そんな会話を交わしているとフレンドマートに着いた。

 フレンドマートに着くなり遥さんはスイーツコーナーに直行した。


「おぉ、新作のスイーツだ」


 遥さんは一昨日発売されたプリンケーキをキラキラとした目で見ている。


「毎回出るコンビニの新作スイーツはいつも楽しみにしてるんだ。でも、流石にこの量をライブ前に食べるのは…」

「二つ買ってメンバーで分ければ良いんじゃないでしょうか?」

「確かに。じゃあ二つ買うおっか」


 嬉しそうにプリンケーキを手に取り、カゴに入れる遥さんは少し子供っぽかった。

 同性の私ですら少しキュンときた。


 その後もスイーツやら飲み物やらおにぎりやらを買ってコンビニを出た。


「たくさん買ったね。綾目ちゃん」

「そうですね。コンビニは美味しそうなものが、たくさんあって困っちゃいますね」

「そうだね」


 大量の荷物を持ってライブ会場に戻った。


「おー、お帰り。遅かったね」

「ただいま。少し買うものを悩んでいてね」

「そっか。じゃあみんな揃ったしそろそろ共有しよっか」


買ったものを机の上に取り出す。


「おー!プリンケーキだ!これ楽しみにしてたんだよね〜♪」

「そりゃあ、よかったな。美琴」


30分ほど談笑した後、私たちはライブの準備に入った。


「ふぅ…緊張するね。綾目ちゃん」


 衣装に着替えていると美琴が話しかけてきた。


「センターは大変だろうけど、臆せず頑張ってね!」

「ありがとう。頑張るね」

「綾目〜」


後ろから声がしたので振り返る。

静奈先輩だ。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。いつも通りにやればいいだけだから」

「はい、いつも通りにやってみせます」

「うん、その意気だ」


 緊張していることはどうやら静奈先輩には見抜かれていたらしい。

流石は静奈先輩だ。


「綾目」


 後ろから遥さんに声をかけられた。


「今回の主役は綾目なんだから思う存分に輝いてくれ」

「はい!」

「私たちも綾目が輝けるようにサポートするからね」

「ありがとう」


「綾目様」

「ん、どうしたの?」

「今日の百合営業いつもより激しくしましょうね」

「なんで?!」

「百合営業はほら、ファンが喜んでくれますし、一番輝かせやすいですし」

「そ、そうなの?」

「そうなんですよ」

「そうなんだ…ちなみに、激しくってなにするの?」

「そうですね…綾目様のラインはどれぐらいですか?」

「うーん、キスぐらいまで、かな」

「く、唇にですか?!」

「ほっぺ。ほっぺにね」

「ほっぺですか…まぁ全然嬉しいですけど」


ファーストキスはみっくんがいいから雪代にもあげられない。ごめんね。


「今日の百合営業で綾目様を輝かせてみせますね!」





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る