21話:缶蹴り
「暇だしさ、缶蹴りでもしないか?」
「一人でやってろ」
暑さで頭が壊れた様子の
今日は朝から学校の近くの神社の掃除があったのだ。少し前に
参加する気は一欠片もなかったが、生徒会補佐として強制的に駆り出されてしまったのだ。
俺達の他にも三組のメンバーが参加していたけど、
三時間ほどの作業が終わり、地域の住民や他の生徒は既に解散していたが、
「……缶蹴り。正気の沙汰とは思えない……命にかかわる」
体力がない
「僕は賛成かな。せっかく集まってるのだから遊びたいかも」
「わ、私も遊びたいです……!」
体力が有り余っている様子の
そういえばゴミ拾いの最中に
「じゃあ俺もやっぱり参加するわ」
「
「……参加する。のけ者は気分が悪い……くっ、これが民主主義か」
意を決した様子の
「よし、じゃあジャンケンでオニを決めようぜ」
一気飲みして少し顔色が悪い
「あ、僕がオニだね。一分数えるよ」
両手で目を隠した
「あ、あのう……
「ん、なんですか?」
まだオニは動き出していない。恐らく他の二人もどこかに身を潜め終わっただろう。もうすぐオニが俺らを探しに来るが
俺の返答に対して非常に申し訳なさそうな表情で、口をモゴモゴと動かしながら、しかし目は真っ直ぐに俺の方を見ながら「缶蹴りのルールを教えて欲しくて……」と言った。
驚きで声が出そうになったが我慢する。表情にも出さないように意識して聞こえてきた言葉を脳内で反復する。缶蹴りのルールを教えて欲しくて、だと?
「……
「お恥ずかしながら……あまり外で遊んだ経験がないものでして……」
そう話していると
それにしても缶蹴りのルールを知らないとは思わなかった。始まる前に聞いて欲しかったが、
マジで可愛いな、この人。
「えーと……オニは俺達全員を捕まえたら勝ちで、オニは俺らを見つけたら名前を呼んで缶を踏んで三秒数えるんです。そしたら名前を呼ばれた人は捕まったことになります」
「ふむふむ……」
「まだ捕まっていない人が缶を蹴り飛ばしたら、その時点で捕まっている全員が解放されます」
「なるほど、だから缶蹴りという名前なのですね」
流石は頭がいいだけあって理解が早い。ルールの説明としてはこれで十分だろう。後は遊びながら覚えるしかない。といっても難しい内容ではないし慣れるのに時間はかからないか。
「
「……む、無念……」
近くで二人の声が聞こえてきた。
あっという間に
「……わ、私はもう……缶を蹴ってくれても逃げられない……ここに置いていけ……」
いや、缶の近くで息も絶え絶えといった様子で座っている
「
という気持ちは置いておいて見つかる前に逃げなければいけない。足音を立てないように別の影に隠れながら
「
カコン! と景気がいい音が鳴り響く。ここからじゃ見えないが
「あーやられちゃった。もう少し頑張りたかったなー」
これで
缶蹴りで遊んだことがある人なら共感してくれると思うが、缶蹴りは人数が多ければ多いほど全員捕まることが難しくオニの負担が大きい。なので数分後に俺が缶を蹴った時に、オニを交代しようと提案してみた。
快諾されたので今度は
「……よーし時間だ。
なんとなくだけど
そう考えると恐らくは俺から見て左側の細長い木の影が怪しい。といっても確証はないが、他三人の場所もまだ分からないので近づいてみる。一直線に向かうのではなく周囲を見渡してフェイントをかけながらだ。
「この辺だろ
目星をつけた木のすぐ近くまで歩き、素早く動いて裏に回る。残念ながら俺の予想は外れてそこには誰も隠れていなかった。
「残念だったな
「はぁ!?」
と思ったら近くの木の影から
といってもまだ誰も捕まえていないので解放されることはない。なので蹴った意味はないと言えばそうなのだが、実際にはある。
とても悔しいのだ。
「クソ……予想はほぼ当たっていたのによ……」
「くくく、まだまだ甘いな
奥歯を噛み締めて屈辱に耐え再び一分を数える。今度こそ見つけてやるぞ。
ん……待てよ。場所を探さなくても、アイツを俺の視界に入れれば問題ないんだよな。よし閃いた。数え終わって動けるようになった俺は、不意に道路に向かって指をさした。
「あっ綺麗なお姉さんだ!」
「なにぃ! どこだよ!?」
俺がそう叫ぶと
「騙したなチクショォォ!!」
「うるせぇバァーカ、発情猿!」
その後は
かなり疲れたが楽しい時間だった。有意義な土曜日だな、帰ったら昼寝しよう。なんて思いながら
「初めての缶蹴りでしたけど、楽しめましたか?」
「…………はい」
「あれ、どうしました?」
「………………いえ、別に」
「……なんか怒ってます?」
「………………特には」
「…………が、いいんですか」
「え、なんて言いました?」
いつもは透き通る聞き取りやすい声で喋る
「あの、
「綺麗な女の子がいると嬉しいのですか!」
初めて聞いた
別に俺は綺麗な女の人だろうが男の人だろうが特に興味はないし、
女の子は本当、こういう嫉妬深いところが……違う
「えっあっ……あの、土下座までされると申し訳なくなるのですが……その、私の前で……そんな……」
「いや、でも本当申し訳ない……なんでも一つ言うことを聞きますから……」
俺達は見た目と実際の性別が異なるカップル。俺が女の子に興味を持っているように認識されたのなら
「……なんでもですか。で、でしたら……あぁ、どうしても無理なら教えて欲しいのですけど……」
「とても嫌な予感がしますけど、とりあえず聞きましょうか……」
先程とはうってかわり目を爛々と輝かせている
「本当に……本当に嫌なら教えて欲しいのですけど……女の子の格好をしてくれませんか?」
うん、女の子の格好……えっ女の子の格好!?
マジか嘘だろ、想像の斜め上すぎる。でもそれで許して貰えるなら安いか。いや安くないな。え、え、どうしよう。
「ダメ……でしょうか?」
期待と申し訳なさが半分ずつ感じられる態度の
「……いいですよ」
数秒の間に考えを巡らせたが、
END
―――
・おまけ
夏バテを起こしていた
「いやぁ皆も夏バテは気をつけてね! マジ今年も暑すぎるからさぁ水分は定期的に飲むんだよ!絶対ね!」
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