紳士と水差し

私が独りで居れば居るほど

 狭い部屋が広くなる

私が悲しめば悲しむほど

 育つ花があるのだろう


着慣れたスーツ 磨かれた靴

歩いた街路に雨が降り出す

傘も持たず項垂うなだれている

花を見ている 


そっとしておいておくれ 

私なりの愛の形なのだ

言葉すら掛けないでおくれ 

それは私の役目だから


君が私を知れば知るほど

 広い部屋が狭くなる

君が悲しめば悲しむほど

 私も涙を流す


傘を持たぬ花を見ている


そっとしておいておくよ 

差し出したハンカチだけでいい

言葉すら掛けないでおくよ

汚れてしまった悲しみは私が洗い流していく

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