詩集、パンジー

半月 工未

 花屋の店先で私は一人、雨宿りを始めた。細い手触りの雨は喉を潤すための優しい霧のようだった。傘代わりにしていた鞄に数滴付いた雨粒を手で払えば、極小の粒子が宙に弾けて霧散した。

 店の軒先にはプランターや植木鉢が並べられていて、それが雨除けのちょうど真下に、私と同じように雨宿りをする格好で一列に並んでいる。あそこの地面にいまだまるい模様が残っているのは、元々あそこに置いてあった底がまるい植木鉢を、店員が雲行きを見て雨が当たらないこの軒先へ避難させたに違いない。雨によって少しずつ消えていくその晴れ模様を見ながら、そんなことを考えていた。


 ふと私は、雨脚が激しくなりだしたことに気が付いた。

 頭上の雨除けが緊張感を緩め、そこから水滴がこぼれ落ちる。止め処なく溢れるその様子は壊れた蛇口に似ていた。今もなお滔々と排水溝に吸い込まれていく。そうして雨除けから零れる雨粒は次第に実際に降る雨の強さに近づいていき、遂には同じになった。むしろ、はるか上空から降り注いで地面で弾けた音よりも、頭上の雨除けから零れ落ちて地面で壊れる音のほうが、鼓膜を重く揺らす気さえした。

 その重たい雨粒が、プランターの花に強く打ち付けているのを私は発見する。大きく咲いた花だった。

 大きく咲いたが為に、大きな体全身に滝を浴びることを強いられてしまった哀れな花だった。私はそれを見ている。

 私に重ねて見ている。

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