0-6 事が収まった...?

少し歩いたところでタウロは立ち止まった。


もう四足歩行にも慣れてきた。...いや、さっきより短い距離だったからあまり疲労を感じなかっただけだ。

歩いているあいだ、俺は周りにじろじろ見られていた。

てっきりタウロが見られているものだと思っていたが、そのタウロに「妙な歩き方なんだな」と言われて真相に気がついた。

(おしゃれだろ、これからはこの歩き方がトレンドなんだぜ)とドヤ顔をしておいたが、例の如く言葉が「ふんっ」とか「くはーっ」とかしか出せないため、伝わっていない。


目の前には、真ん中に大きな穴が空いた樹木が立っていた。

その穴の上部には家の外と中を区別するためのがかかっている。


...我々の世界には住処の入り口にのれんをかける獣がいただろうか?

この後に及んで文明レベルの高さに感心してしまう。


俺は目の前の大穴空きの木をじーっと見つめると、例の解説文が出た。


この木は〈ガランジュ〉という名前で、オオカミたちが穴をほったわけじゃなく、元から中身が空洞の樹木とのこと。

不思議な木もあるもんだ。いや、異世界だしなあ...いや、ゲーム...か?


木の肌を触って感触を確かめる。ザラザラしていて、やっぱり本物としか思えない。


そうやって木に気をとられているうちに、タウロはもう家の中にいた。

慌てて穴を潜るとタウロの他に、ジージョ、サブロ、そしてパーパがいた。


「あっタウロ!あんた遅すぎよ!せっかくパーパがシチューを作ってたのに-」

「おまえらは外で食ってろ。俺はこいつと大事な話がある。」


「へ...」

「いいから早く行け」


ジージョはサブロを連れて、バケツみたいな取手付きの木器を咥えて家の外へ出て行った。


「タウロおかえりい、君もようこそ我が家へ、まあシチューでも食べて—」


「話があるって言っただろ」


一瞬時が止まったかのように空気が張り詰めるのがわかる。


「さっきのはどういうつもりだ...自分でおかしいと思わなかったか?」


少しの間沈黙が流れる。


「お袋のことは、この世にもういないから...どうだっていい。

だけどそれよりも、あれをジージョやサブロが見たらどう思う?


きっとお前を見放すだろうな。


最初は二人のことを考えてのことだったってのはわかる。だがは意味のない行為だ。

俺たちはフォレストオオカミ、人間あいつらとは違うんだからな。


...結局はてめえが、子供のために頑張ってるんだ仕方なく汚れ仕事をやってるんだって、そういう気に浸りたかっただけじゃねえか。お前はこれっぽちも家族のことなんか考えてなかったんだ!違うか!?」


「違う!」

入り口の方からそう言ったのはジージョだった。


「ジージョ、外に出てろって言っただろ!」

「とっくに知ってたよ!全部。でもそれは私たちのためじゃない。タウロのためだったんだよ。」

「はあ...?」


「私見ちゃったんだ。毎晩タウロがこっそり家を抜け出して、お母さんに会に行ってるところ。

それでタウロが泣いてたの。」


ジージョが話している間、タウロは口をぽかんと開けていた。


「毎晩後をつけてたら、そのうちサブロもついてきて、最後にはパーパも一緒に見にきてた。

だからね、タウロを勇気づけるにはどうしたらいいかって私たちで考えてたの。

だからパーパが群れの女の人みんなに振られちゃったのも知ってる。」


「そういうことじゃなくてっ...はあ。

まず俺のためにしてくれてたんならありがとう。でもそれじゃあ解決しないだろうが。

むしろ俺を怒らせちまってるだろ」


そうするとパーパが口を開いた。

「ちょっと前に解けたんだ...300年前から代々族長が管理してきた、禁じられた巻物の紐が。


獣と人交わりし時、失われし姿この世に再び現れるであろう

-巻物の一節にはそう書かれていた。」


そしてパーパは俺の方をちらりと見て言った。


「我々フォレストオオカミの中では300年以上前から、

食べられる物は食べる者の命となり、食べるものと食べられるものの存在はそうして常に『交わっていく』ものだと言い伝えられている。」


「人間の肉を食べることで

もしかしたらマミアを生き返らせることができるかもしれない!草にもすがる思いだった。」

パーパは苦い顔をして言う。

そしてすまなかったと頭を床に擦り付けた。


俺もタウロも唖然としている。

パーパが人間に子供を産ませようとしているというのは勘違いだった。


...と言っても、マミアを生きかえらせるために人間を1人犠牲にするという意味では、同じだと思うが。


「じゃあそれでお袋が生き返ったとして、どの面下げて話すつもりだったんだよ。

人間の肉を食べたらあなたが生き返りましたってか。それでお袋が喜んでると思ってるのか?

いかれてるよこの家族は。俺以外。

てか結局そんなの迷信じゃねえか。やっぱ頭おかしくなってんじゃねえか。」


そういうタウロだった。

でもどこか笑っている様子なのが伝わった。


「もう二度とあんなことするんじゃねえぞ。」


そのあとでサブロにも「今朝ぶってごめんな」と謝っていた。サブロ曰く、タウロを元気付けるために笑顔でいるようにしていたらしい。しかしそれがタウロの癪に障った、というのが真相だった。


俺はガランジュを見て「すごいなー」と思っていただけなのに、どうやら勝手に事がうまく収まってしまったようだ。

いやあ、これで全部丸く収まって良かった、良かった...良かった?


何か忘れていることが、引っかかっていることがある気がするが、気のせいだと思う。

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