テイク6 闘争と逃走
死因が大勢女性から受けた告白。どこのギャグアニメだろうか。
死んだ後は相変わらず真っ暗な部屋にいる。
『くくく、あははははは。とても慌てておったの~』
「くっ、何で……? 俺の計画が! クソが!」
『ゲームに対して暴言が出るようになってきたの~。そんなお前に教えてあげよう』
ついには嗣は意識していなくても暴言が出るようになっていた。これは『生』の欲求が強くなっているからである。
神曰く、時間が戻っている訳ではないらしい。死んだ場所からの再開だという事だった。その代わりとても時間の進みは遅いらしい。
六回やって、神とも喋っていたのに、五分しか進んでいないのはそう言った理由だったようだ。現実世界では即死しかしていないから体感速度と同じくらいである。
「なるほど…………待て。死、じゃん?」
休憩時間ということはテイク5のように生徒全員が自由に動けるし、自由に話せるということだ。授業中でも地獄だったのに、かなりまずいことになった、と嗣はぞっと身体を身震いさせた。
『その通り。くくく、ボーナスタイムだろう?』
「何がボーナスタイ―ムじゃ! 死ね!」
『え?』
「あ…………あーし、死ねないな~。死にたーくなーいな~」
失言に気付き、嗣は急いで言葉を取り繕う。
『くくく、ざまあみろ』
「あー、こわいなーやだなー」
『アヒャヒャヒャ』
鈍くポンコツな神は気付いていないようだった。
何とか誤魔化しがきいたので、ほっと胸を撫で下ろす。完全棒読みになっているのは嗣が、演技が苦手のせいだ。特に神が気にした様子もないので、大丈夫だろう。
『そうじゃろ~、そうじゃろ~』
神はうんうん、と二度頷いて何故か満足げだ。機嫌が戻ったのなら、嗣にとってはラッキーであった。それによって内容が緩くなることもゼロではない。
「神様~、何かヒントを~」
『それは自分で考えるんじゃな』
(チッ。クソ神。死ね。さっさと老衰しとけ! このクソ神っ!)
ねだる行為は全く意味がなかったようだ。嗣も元々期待はしていない。でも一割くらいはと思っていたが……残念だ。
ヒントも貰えないのなら割り切って自分の力でクリアするしかなくなった。激ムズ難易度のゲームを攻略サイト、攻略本なしでクリアさせるのと同じようにすれば良いだけなのだから。
正直糸口すら見つかっていないが、時間を掛けてでも攻略して行くべきなのだろう。
「あ、でも走って逃げれる?」
そんなことを不意に思いつく。
今まで一切頭の中になかったが、突如として閃いた。誰でも思いつくような凡人の閃きだが、その発想はさほど悪くない。
休み時間は自分も当然縛りから解放される。良いのか悪いのか正直やってみたい事には分からない部分が不安要素だが、やっても損はない気がする。
いや、それどころかこの走って逃げる作戦はありありだろう。まだ死んでも生き返る条件が生きている間は試す価値があると思える。殺す力を持った大勢を相手にするより絶対に逃げ出す方が賢い生き方だ。
『あ』
「逃げるか……」
というか、授業中でも逃げ出せばよかった事に今更気づく。別に真面目になる必要はなかったのだ。それなら生徒たちは授業に縛られたまま自分だけ簡単に抜け出せたかも知れないのに。
休み時間中となるとその効果は半減する。全員が自由に動けてしまうのはやはり厄介だろう。
可能性を見出すならば、十分間をも耐え抜く。すると生徒たちは諦めて授業に戻っていくだろう。嗣はそれまで逃げ切れたら家でもどこでも行けばいい。
嗣は死なず、生き残れさえすればそれで良い。もう学校なんてどうでも良いのだ。敵しかいない学校に要はなくなった。
「やるしかない」
『頑張ってくれたまえ!』
「何? 生きてて欲しいの?」
『はあ!? 何言ってんじゃ、そんな訳なかろう。さっさと死に晒してこい!』
「ああ、そうですか。神はツンデレかっ!」
『何言っている? 自分の立場を弁えろ、殺すぞ?』
流石に調子に乗りすぎた嗣だった。神の目はみるみるうちに鋭い目へと変わり、嗣を睨み出す。
何気ない日常を送っていた嗣は高校生活でボケもツッコミも両方をうまく立ち回ってきた。それが影響したのだろう。ここでは出してはいけない悪い癖を出してしまった。
嗣は深々とお辞儀を済ませると、何となく神からパッと視線を逸らす。こうすると別に反省しなくとも何となく反省している感が出てくる。嗣は学校でもなかなかイケメンな方だ。顔立ちも自分で良い方だと自負している。
実際、自負しているだけでなく悲しげな表情を浮かべているだけで、向こうから謝ってくれることもあったくらいだ。
演技など必要ない。嗣の悲しげな表情は同情を呼ぶ。
それは神にも通用した。かといってこれ以上調子に乗るのは宜しくないだろう。
『わ、悪かった……お前の死の姿をまだ見たいのだ。やめられてはわしが困る……』
「困るのか〜、そっかそっか〜。やめちゃおうかな〜」
「生」の欲求が強くなっている嗣にそんな選択はあり得ない。だけど神は鈍く、棒読みの嗣の言うことを信じている様子だ。
『わ、分かった。少しだけだが難易度を易しめにしておく。それが最大限の譲歩だ』
「わーい。ありがとー、神様〜」
『は、早く行ってくれ。もうこれ以上お前と話しとうないわい』
神の最大限のツンデレを背に、時計の音を聞いて嗣は現実世界へと舞い戻る。
———
「っし! やるか」
ペチペチと自分の頬を叩き気合を入れた。
テイク5の時と相も変わらず身体に触れる幾つかの柔らかな感触がある。自分が女性の身体になった時とはまた違った心地よい感触だ。
(あーあ、これを死なない状況で体験したかったな〜)
他の人が体験しても大半以上の男子が嗣と同じ意見を抱くだろう。
嗣は手荒に女子を振り解くと立ち上がり、後の扉目掛けて走った。もうこの教室とはお別れだ。
扉には鍵が掛かっっており、それを開けようとした時、声が飛ぶ。
もうお分かりでしょう? その通り。女子の嗣に対する想いが飛び交う直前だ。
けれど嗣には作戦があった。咄嗟に耳を塞ぎ声を遮断する。
その直後に嗣に対する告白の声がクラスメイトから一斉に飛んだ。
嗣に声は届いていない。嗣も自分に声が届かなければ死なないのではないか、と思っていた。声が本人に来なかったらそれは伝わったことにならない。感謝の言葉も謝罪の言葉も告白の言葉も全て適応する。
「「「「「付き合ってくださーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!」」」」」
それでもやっぱり例外は存在する、してしまう。
——あまりにも無情なこの気狂いな神が生んだ世界。
【バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン】
聞こえなくしてしまえば良いなんて甘い考えだと気付かされたのは嗣が死んだ後だ。
嗣は一瞬で見事に大きな音を発して霧散したのだった。
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