デス・デス〜告白されたら死ぬ世界で俺は生き抜きたい〜
猫山華奈叶
プロローグ
テイク0 神との出会い
白い世界が広がる見た事のない空間で目を覚ました
見入っていると、白い長い髭を生やした見た感じ若くない老人が、茶色の杖を持って上から雲にらしきものに乗って降りて来た。只ならぬ雰囲気は何となくだが出ているのを嗣は感じ取る。
「この世界を気に入ってくれたようじゃな」
「ここは? あなたは?」
「うむ。気になるよのう。ここはな、天界じゃ。そしてわしは神じゃ」
「天界? 神?」
あまりピンとこない。なんせ神を名乗る老人の言ってる事が滅茶苦茶なのだ。
嗣は神がいる天界へと一瞬だけ意識のみを飛ばされた。しかし神によって用意された体で、身動きが取れる。嗣が天界でのみ使える専用の体を手に入れた。
ちなみに嗣は正真正銘の男である。名前から女性と間違える事も度々あったが。
「どうだ。わしと結婚しないか」
「はい?」
神を名乗る者らしからぬ発言である。が、その前にもう一度言おう。嗣は男だ。現実世界での見た目が女性っぽいという訳では決してない。寧ろ運動もしっかり行う筋力も優れたしっかり者の男性である。
勉強も運動も文武両道にこなせて女性にもよくモテる方だ。女性要素があるとするならば本当に名前の部分だけである。
そもそも神は色々と説明をすっ飛ばしている。この神様、完全なるポンコツ。いや、ポンコツで済まされない馬鹿にも程がある欠陥神であった。
嗣は自分の体に違和感を覚えた。そして気付く。自分の体が女性のものである事に。日頃の自分ではあり得ない、胸部がポヨンポヨン弾む。
完全にこいつ、勘違いしてやがる。狂ってる。ただそう思う。
神は嗣の名前を聞いた。それだけで可愛い女性であると勝手な解釈をし、人間である嗣を天界へと呼び出したのだ。神として最低の最低である。
所謂職権乱用ってやつだ。
是非ともこんな神の真似はどうか真似しないで欲しい。
「どういうことですか?」
当然の如く嗣には理解できなかった。いや、思い当たる節がある。まさか。
「うむ。お主はいいお嫁になる。その前にワシと――」
「――俺、男です」
「は?」
神の顔が完全にアホ面になった。それは馬鹿らしく神なのかと疑いたくなるレベルだ。
「男です」
「え? 男?」
二人は顔を見合わせた。僅かばかり沈黙が空気を支配する。
「はい、男」
だから何度もそう言ってんだろ、自然と嗣の顔が強張っていってしまう。
神のくせしてこいつ理解力ないのか。神にイラつきさえ覚えてくる。何だ、このクソ神は。
「お、男?」
神は信じられないのか何度も確認を取った。マジでしつこい。
(いや、ダメだ。抑えろ、俺)
眉間に皺が寄っているのを気付き、何とか表情を緩ませ笑顔を無理やり作る。そうでもしなければ神が機嫌を損ねてしまう。
「え、はい」
神の逆鱗に触れてはならぬ。馬鹿だからと言っても神は神らしいのだ。何されるか分からないから、内心でいくら馬鹿にしても表向きには丁寧に答えるのが賢い対応だろう。
「貴様! よくもわしを騙したなああああ」
気遣った意味もなく神が突如として奇声を発しやがった。高くうるさい声が脳で反響する。我慢ならず嗣は耳を塞ぐ。
「だ、騙していたなんて滅相もございませんよ」
「貴様は、貴様はそうだ。貴様は女に告白されて死ぬが良いわ。その名も!」
神は一度目を閉じ、そして目を瞠った。
「ずばり告白死亡の刑じゃああ!」
考えたのか分からないけど、そのままだ。ダサい。ネーミングセンスなしだ。
「何ですか? それは」
「貴様が現実世界に戻った時、貴様は女性からモテまくる」
良い事をありがとう。寧ろありがとう。なのだがな。この好条件……ハーレムだ。
嗣は素直に喜んだ。今までより更に女性からモテるという事だ。それは男としての夢である。誰しもが望むような展開ッ! 生きていて正解だっ。あのクズ神でイラついた事もあったが、全て水に流せる。嗣は今か今かとその時を待ち待ちわびる。
「女性全員にお前を好きになる薬を掛けておいた。くく、見てろよ」
「ありがとうございます!」
嗣は感謝の言葉を述べ、お別れするつもりであった。
「貴様がこの聖なる天界に来た事が許せぬ。とっとと消えろ!」
あんたが呼び出したんだよ。何言ってんだ。このクソジジイは。本当に神なのかが疑わしい。よくそんなんで神が続けられるな。
でもまあ。
「はい。ではばいばーい」
「お、おのれえええ~、神に向かってバイバイとは何事だ! 覚えてろ!!」
自分は精一杯楽しんできますと嗣はそう意気込んだ。
嗣の意識は地上へと戻された。体も元の男のがっちりとした体へと戻されているのを直接視認した。正直嗣も女性の体でいるのも悪くなかったと考えていた。こっそりと現実に戻される前にと、女性の女性な部分を色々と触りすらもした。鼻の下を伸ばして天界での短い時間を満喫したのだった。
しかし、これから始まるのは告白地獄であった。もうじき授業中の教室で、嗣は目を覚ます。そこで嗣はすぐに知る事になる。
自分の周りに敵しかいないと。そして神様が神でない事も後に知る。
嗣はあまり難しく考えていなかった。甘い考えでこの試練に挑んではいけなかったのだ。
この後大泣きする事になるのだが、甘い考えの嗣はそんな事になろうとはこの時、一ミリも考えていないのであった。
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