第14話 少年は導かれて...
目の前に現れた小道から涼しい風が流れてくる。
…!!!??
目を見開いたままの宏樹は、しばらくその場から動くことができなかった。
決して恐ろしくて固まってしまったわけでも、怪現象にびっくりしたわけでもない。
後ろを振り返ったらついさっきそこにあったはずの焼けた廃屋群が消え去っているのだから、普通ならパニックになってもおかしくないが、ここまで誰も体験したことのないような恐怖を味わった宏樹は、今更こんなことで驚いたりはしない。
じゃあなぜ固まっているのか?
「絶対に何かある…!間違いないぞ…!」
そう、宏樹はただ歓喜していたのである。
全てのきっかけとなった写真箱、そしてそれに書かれてあった集落跡の名、その集落跡の中に突如として現れた謎の小道。
これらを並べてみればそこになんらかの因果があることはもはや一目瞭然であり、この道の先に自分がずっと追い求めていた手がかりを握る人物が居ると思えて仕方なかった。
...よぉぉっしゃ!!!
宏樹は興奮のあまり誰もいない森の中で、一人ガッツポーズをした。
『幻覚だと思われても仕方ないような非現実的な体験が、もしかしたら幻覚などではないなのではないか?』
という、誰からも信じてもらえないような疑問が、本当に当たっているかもしれないのだ。
自分を信じてよかったと思う気持ちが湧き出して止まらなかった。
…ようやく進展する…!!!
宏樹はそう確信しながら落としたスマホを拾い上げ、大きく深呼吸をして気持ちをリセットした。
…よぉし…!行くか…!
宏樹にとってこの発見は大きな転換点となることは間違いなかった。
宏樹は意を決してその竹藪へと歩みを進めた。
「うわ!マジで竹だ!」
辺りに無数に生えている竹は決して幻などではなく、触れてみてわかるしっかりと質量を持った物体だった。
…こんなことあり得るんだな………
そう呟きながら宏樹はゆっくりと竹藪の中を進んでいった。
小道を歩いていてまず思ったのが、枯れ葉や雑草が一切見当たらないという点だ。
「これはもしかするぞ…」
この場所は、10mはあろうかという竹が無数に生えまくっている竹藪の中。
誰かが管理していないとあの集落跡のように、地面にはたくさんの雑草が生い茂り、枯れた笹の葉で埋め尽くされてしまうはずだ…。
だというのに地面は柔らかい土で覆われており、竹以外どこにも見当たらなかった。
「いや、どっちだろう?まだわかんないな…」
そうは言っても、この道の先に人がいると断定できたわけではない。
この場所は集落跡を歩いていた時に迷い込んだ、いわば“異世界のような場所“と言っても過言ではない。
常識では考えられない“なんらかの力”が働いて、雑草や落ち葉が全く見当たらないという可能性も十分ある。
そしてその疑いを最も有力だと思わせる要因は、今までの経験の中にあった。
「これってあの時と同じなんじゃないか?」
それは宏樹がいつもの街中で戦車に襲われた時のこと。
普段なら多くの人が歩いているはずの場所から、ピタッと人の姿だけが消えてしまう不可解な現象が起こっていた。
同一のものだと信じたくはないが、もしここが宏樹が今まで戦車と遭遇したあの“異世界のような場所”と同じである場合、ここに人が住んでいる可能性はかなり低いことになる。
あんな大通りにすら人がいなかったのだから、こんな山奥に人がいるとは考えられない。
…でも、いなかったら本当に詰むぞ………
と色々よくない思考を巡らせていたが、どうやらそれは杞憂だったようで宏樹はとあるものを見つけて心躍った。
「灯りある!絶対いるわこれ…確定でしょ!」
確定という単語に思わず力が入る。宏樹が見つけたのは明かりの灯った灯籠だった。
明かりが点いている灯籠があるということは、この小道を誰かが使っているという紛れもない証拠。
「にしても変わった形してるなぁ……」
灯籠とは言っても和風というわけではなく、和と洋が入り混じった独特なデザインをしており、光源にも電気が使われていた。
…でもけっこう綺麗だよな…
よく手入れされているのか苔のひとつも生えておらず、これらからもこの小道をよく人が通ることが伺えた。
宏樹は灯籠の明かりに照らされながら、竹藪の中をずんずん進んでいった。
そして、おおよそ300mほど歩いた所あたりで、ようやく竹藪を抜けると大きな建造物の前に出た。
「でっけぇ〜…山の中だよなここ…?」
さっきの集落跡の廃屋とは打って変わって、左右の長さは100m以上。高さは8階建てのマンションよりやや低いくらいだろうか?
今まで宏樹が見てきたどんな建物にも引けを取らないほどに大きい、館のような建造物だった。
…これはいる!絶対人が住んでる…!
そう確信した宏樹はこの建造物への入り口を探すため、ひとまず建物向かって右側へと歩き始めた。
…めちゃめちゃ綺麗だなぁ…
16世紀のヨーロッパのようなアンティークな見た目が特徴的な建造物は、その外観に反して非常に美しい状態が保たれていた。
白を基調とする柱にはヒビはおろかシミのひとつすらついておらず、さっきまでの小道と同じように雑草やゴミはひとつも見当たらなかった。
…まるで世界遺産みたいだな……
こんなに古い建築様式の建物がここまで綺麗に管理されているとなると、もはやなんらかの文化的建造物を観光しているように思えてしまう。
そんな感想を抱きながらずぅ〜っと歩いていると、建物の端にたどり着いた。
そこを左に曲がってみると、こんどは100mくらい先に豪勢な装飾が施されたエントランスがあった。
「やっと見つけたー!開いてるかな?」
そう言いながらエントランスに向かって歩き出した宏樹だったが、すぐにある違和感を覚えた…。
…うわ!なに…??
エントランスまであと30mという所に差し掛かった時、宏樹は何かに気がついてその場に立ち止まった。
「なんか…赤くない…?」
原因は全くわからないが、視界全体に赤いモヤのようなものが突然かかり始めたのだ。
昔のテレビで見たことのある砂嵐みたいなモヤで、視界全体をそれが覆っていた。
「んだよこれ、全然取れないし」
どれだけ目を擦ってもそのモヤは取れることはなく、緑の竹を眺めても白い柱を見つめても僅かに赤みがかって見えた。
そんな中、さらに怪異は続く…。
…なんか寒くなったような…?
辺りに急に肌寒い風が吹き始め、気づいた時には空全体に雲がかっており日光も差さなくなっていた。
山の天気は変わりやすいとはよく聞くし、今までにかいた汗が冷えたから肌寒くなった可能性も0じゃない。
それでも、スマホに書かれている現在の気温は26℃で、さっきまでの暑さと比べてもやっぱりこの気温の下がり方は普通では考えられなかった。
「やばいんじゃないかこれは…どうすればいいんだ?」
宏樹は独り言を喋ってなんとか冷静さを保っていた。
戦車に襲われて撃たれるというような直接的な害が起こっているわけではないが、視界を奪われそうになっている状況も十二分に恐ろしいものだった。
そんな状況の宏樹をさらなる異変が襲う。
「うわ!なに…」
宏樹が瞬きをした瞬間、なぜか一瞬だけ目が開かずその場によろけてしまった。
「いってぇ、なんだよマジ」
ただの目眩だろうと思って、宏樹は再び立ちあがろうとしたが足に力が入らなくなっていた。
あれ…なんで…うごか…ない…!なん……で…………
そして足を動かそうと必死にもがいているうちに、宏樹は強い睡魔に襲われそのまま目を閉じて眠りこけてしまった。
これから数々の苦難が待ち受けているとも知らずに…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます