第22話 悪夢





悪魔とは、神と対照的な悪しき存在を意味する。

一説によればかつて神に仕えた天使が罪を犯し、神に罰を与えられ、天から追放された姿とも言われている。



「汝、我【傲慢の悪魔】に何を願う? 」


角、翼、尻尾、蹄、黒い影のような歪で恐ろしい姿として悪魔の姿は想像されているが、目の前の悪魔はそのような恐ろしい姿はしていなかった。

六つの大きな翼を背にし、瞳は無数の宝石を散りばめたような輝きがある。

神々しく佇む姿は悪魔ではなく、神ではないかと錯覚するほどだった。

藍は悪魔を只見つめることしか出来なかった。

声を発することも許されないのではないかと、そう思ってしまった。

イザベラは臆することなく、悪魔に歩みを進めた。


「素晴らしい……やっぱり私は運が良いんだわ。

こんな悪魔を呼べたんだから……!

これであの人に認めてもらえる。

いいえ、そうじゃないわ。あの人が私だけのモノになってくれる……」


イザベラは自身の服に手をかけていく。

そして赤子のようなすべてをさらけ出した姿になると、悪魔に両手を広げた。


「……悪魔の子を、私にアナタの子供を孕ませて? 」


藍は吐き気を催した。

悪魔と繋がる姿をしたこの女こそ歪な存在であり、ドロドロとした感情の渦が身体の中に入っていく。

えずくがそれを吐き出すことができない。

首に下げているペンダントを握りしめ、目を固く閉じる。

ふつふつと嗚咽が込み上げてくる。


気持ちが悪い。気持ちが悪い。汚い。汚い。

なんだあの汚れた生物は。

どうして、この女は自らを蔑む行為を自らするのか。

イザベラと一瞬目が合った気がした。

その瞳は憎しみが潜んでいた。


かあ様、そんなにリセが許せないですか。

とお様がずっと大切にしてたのはねえ様でもねえ様を産んだ女性でもないのはかあ様も気づいていた。

本当にとお様が大切に想っていたのはメアリーおば様だけだったから。

メアリーおば様が亡くなっても瓜二つのリセが残ってしまった。

だからずっとかあ様は苦しんでいた。

だからリセを連れ出して、こんなモノを見せるのですか。

リセがいなくなれば、かあ様は幸せになってくれますか。


〖大丈夫だ。落ち着いて息をしろ。呑みこまれるな〗


栗鼠の姿をしたユヅルは小さな手を藍の頬に寄せた。

藍はゆっくりと瞼を開いていく。


〖これは只の起こってしまった事柄に過ぎない。

お前がこの少女リセの中に呑み込まれれば戻って来れなくなる。

だから落ち着け〗


「………少し落ち着いてきました。

感謝します」


藍はふうと、息を整えると目の前の光景を眺める。



「貴方は、先程これは只の起こってしまった事柄に過ぎないと言いましたね。

まるで、こうなることが分かっていたかのように受け止められますが合ってますか? 」


藍の問いに、少し間をおくとユヅルはこくりと頷いた。


〖……あぁ、僕がこれを見たのは3回目だ。

1度目はウォッカに向かう道中に怠惰の悪魔の能力にかかった時、あの時はそこまで深くは堕ちてはなかったから暴食マリアの悪魔を呼んだ反動で戻ることが出来た。

2度目は此処に来てからだ。途中で進むことが出来なくて引き戻されたがな〗


「……この光景を三回も見て凄い精神力していますね。

蔑んではいません感心しています。

では、この先の結果はもう分かっているということですか……? 」


〖……もう大丈夫みたいだな。

とりあえず黙ってればもう結末は解る〗


悪魔はイザベラから離れると、イザベラのお腹は膨れ上がっていた。

イザベラは嬉しそうにお腹を擦る。



「ふふっ……やっと母親になれる。

この子がいればあの人を……ふふふっ、はははははははははははははっ」



パンっと風船が弾けるような音がすると、ベタっと全身に液体が降りかかった。


「あ……っ、かあ様? 」


イザベラは地面にバタッと勢いよく倒れる。

大きかった腹は大きな穴が空き、周りは血だまりが出来ている。

リセは立ち上がると、イザベラにゆっくりと近付く。

笑みを浮かべた唇からはとても綺麗な赤色の一本線が地面に向かって続いていた。

微かに声がし、リセは朱殷に染まったイザベラの腹に目線を移した。


「汝、我、【傲慢の悪魔】に何を願う」


悪魔はリセを指さす。

その悪魔の言葉にふと、リセは気づいたことがあった。

悪魔は最初からずっとリセに問いを投げかけていたことを。


「……本当に可哀想な人」


リセはイザベラの腹に空いた穴に手を伸ばすと、血で染まった赤子を抱えあげた。

赤子は泣き叫ばず、じっとリセを見るとゆっくりと眠りにつくように瞼を閉じた。



「……私にこの子と一緒に生きる力をください」


「汝、我、その願い聞き入れた。対価は……」


魔法陣が再び現れ悪魔は姿を消した。

リセはイザベラが脱ぎ捨てた服を手に取り、赤子を包めるくらいの大きさに破いた。

林の中からガサガサと音がし、幾つもの光輝いた目がリセの方を見ていた。

リセは赤子を抱きかかえると、ゆっくりとその場を離れる。

村の方に続く道に体の方向を向けると、後ろで林から出てきた狼たちがイザベラの死体に近付いていく音がした。

まるで狼たちはリセ達が遠のいていくのを待っていたかのように思えた。

リセは振り返えず、赤子をぎゅっと強く抱きしめると歩みを進めた。






村の入口から歩いてくるリセに気づき、女性はリセに笑顔を向けた。

リセも女性に会釈する。


「こんにちは、今日は天気がとても良いわね」


「そうですね、最近は具合はどうですか? 」


「貴女のお陰で娘なんてもう友達と近くの広場で走り回って遊んでるわ。

本当に子どもはいつも元気で羨ましいわ」


口元に手を添えて笑う魔女は、子供達がいるであろう広場の方に視線を向けた。

リセも同じようにそちらの方向を見る。


「あぁ、そういえば町の方で沢山小魚を頂いて……よろしければ頂いてくれませんか? 」


「あら、ありがとう。

まぁ綺麗なお魚ね」


魔女はリセの持つ小魚が入るカゴを見ると、嬉しそうにほほ笑んだ。

すると少しリセの周りを見回した後、控えめな声で言葉を溢した。


「……今日は貴女一人なのね。

正直その方が私達も安心なのだけど……あ、ごめんなさいね別に悪気はないのよ」


「……いいえ、最近一緒に出歩いてくれないんです。

思春期というんですかね」


「そう。

あ、そうだ隣の奥さんに聞いたのだけど町の方に素敵な人ができたって聞いたわよ!どんな方なの? 」


「優しくて物知りな青年です。

……先日、交際を申し込まれました」


「あらあら、素敵ね。

貴女には幸せになってほしいのよ。

この村にとって貴女も娘みたいな存在だと思っているから」


「ありがとうございます。

あ、それでは私はお暇いたします」


「えぇ、今度は私の家でお茶しましょう。

娘も会いたがっているし」


リセは会釈すると、村を出て歩き出した。

木々の間から微かに太陽の光が漏れ出し、キラキラと反射した。

ふうとため息をつくと、リセは扉のドアノブに手をかけ、開いた。

扉の先には床や机にも本がやまずみになっており、分厚い本から視線をあげた少年と目が合った。



「おかえりなさい、姉さん」


「ただいま、ユヅル。

……やっぱり慣れないですねこの呼び方」


はぁーと深い溜息をつくと、テーブルに小魚が入ったカゴを雑に置いた。

少年は本に視線を戻すと、ページをめくりはじめた。


「……姉さんの姿でそんな乱暴な行動やめてくれよ。

特に家の外では」


「……貴方に言われなくても分かっていますよ。

それにしてもまさかあの時の赤ん坊が貴方だったなんて。びっくりですよ」


「僕もまさか栗鼠の姿から赤子の姿になるなんてびっくりしたよ。

でも本来の身体に戻って安心したけれどね」


「よかったですね。

正直栗鼠の姿似合っていましたよ。

とても可愛らしくて。

あ、これ嫌味と受け取って頂いて構いませんよ? 」


藍はにっこりと笑うと、ユヅルは不機嫌そうに眉を寄せた。


「……言葉遣いもボロが出ないように気をつけてね」


コンコンと玄関の扉がノックされる音がし、藍は急いで扉を開けた。

ユヅルも扉の方を見る。

長めのケープを羽織った女性が扉の前に立っており、その顔にユヅルは驚いたように座っていた椅子から立ち上がる。


「……久しぶりね、リセ。

十年ぶりかしら、貴女がここに住んでいるって聞いて」


女性は涙を浮かべ、嬉しそうにほほ笑んだ。

アルカラの強欲の悪魔シキ、怠惰の悪魔ニアが関わっており、またリリィと東雲が幼い頃にいた施設の関係者としてノアの箱舟にとっての最も酷い惨劇として資料に載っていた人物。


「Mrs.リオ……? 」


「あら、その子は?

はじめまして私はリセの姉のリオと申します」


リオはユヅルに気が付くと、軽く会釈をした。

藍は顔をしかめると自身の頭に手を添えた。



「……頭、痛い」


ズキンズキンと痛みが広がると、藍は視界が歪んだ気がした。






ギィと扉が開く音がし、東雲達は音のした方に視線を向けた。

そこには消えかけた扉と、ラヴィが倒れていた。


「ラヴィさん……?

大丈夫ですか!? 」


チガネはラヴィに近付くと、うつ伏せに倒れているラヴィを抱き起した。


「……ありがとう、大丈夫だよ」


ラヴィはそう言うと、チガネの手を貸してもらいながら雨宮の側に近付いた。


「よお、ラヴィ。

ボロボロじゃないか……」


「雨宮もね。

あとどのくらい保ってられそう? 」


「さぁな。正直わからないよ」


ラヴィは自身の被り物に手をかけると、脱ぎ捨てた。

ラヴィの身体はゆっくりと少年の姿から20代くらいの姿に変わっていく。

瞳は澄み切ったような綺麗な紅い色をしていた。



「あんたのその姿、久しぶりに見ましたわ」


八百はそう呟くが、ラヴィは何も答えず雨宮の心臓があった場所に手をあてた。

するとラヴィの手の平から血が渦を巻きながら出てくると、心臓の形になった。

それはゆっくりと脈打っていく。


「……これが持つのはもって数時間だと思う。

ごめん……雨宮」


「悪いなラヴィ。

それに俺はあれから十分長く生かしてもらった。

だからお前が辛い顔するようなことじゃないだろう? 」


雨宮はポンポンとラヴィの頭を撫でた。

朽ちていた箇所は進行が止まっているだけでいつまた始まるかわからない状態だった。

ラヴィは立ち上がり振り返ると、八百の方を見た。


「……八百はきっと俺のこと恨んでるでしょう」


「へぇ、そう思うってことはあいつの気持ちも知っててそのままにしてたってことですか。

そうですね正直あの時から俺はアンタのことは苦手ですけど、恨んではないです」


八百の返答にラヴィは表情を変えず、チガネの方に視線を向けた。


「……今のここの状況は?」


「はい、大半の隊員達が操られていた反動で動けない状態になってます。

上層部の方は私が行ったときにはまだ息をしている方や意識が戻った方が数名居ましたので、その場を動かないようにしてもらってます。

只、ノアの箱舟の館内にいない方との通信は途絶えたままです。

……少し前に七瀬さんがその方達のところへ出かけたことがありました」


チガネは唇を噛むと、下を向いた。

ラヴィは視線を斜め下に向け、ぽつりと呟いた。


「……きっと生きてはいないだろうね。

夕凪達がウォッカに行ったときに回収してきた本は? 」


「七瀬が持っていったよ。

一応あっちの施設にあった方も回収してたんだが突然真っ白になった。

何か特殊な魔術でも仕込まれてたんだろうな。

……それで多分あれはジュライが肌身離さず持ってたものだと思うよ」


雨宮はそう言うと、深い溜息をついた。


「やっぱりジュライさんのか……。

だから俺のこともエリーゼのことも書いてあったんだな」


ラヴィは考えるように腕を組んだ。

東雲はじっとラヴィを見ていた。

その視線に気づいたのか八百は東雲の耳元に顔を近づけた。


「どうした真緒、ラヴィの素顔見るの初めてだもんな。

それに一人称なんてになってるし」


「それもありますけど。

……俺がびっくりしたのはやけに冷静だなと思ったんです。

七瀬さんが寝返っていたのに」


「……真緒の思っている通りラヴィ・アンダーグレイは本来ああいう人なんだよ。

あいつもなんであんなのが好きなんだか……はぁ」


八百はそう言いながら、扉が消えた場所を見ていた。





紅茶が入ったティーカップを一口飲むと、リオはカップを置いた。


「本当に久しぶりね。

貴女があの人と出ていってしまってからずっと貴女のことだけ心配だったの」


リオは悲しげに眉を寄せた。

ユヅルは黙って向かい合う二人の様子を見ていた。

言われて見れば顔のパーツは所々似ている気がした。

しかしパッと見では姉妹と言われなくては分からない程だった。



「……とう様も最後までリセのこと心配していたのよ」


「とう様は亡くなったのね。ねえ様」


「えぇ、2年前に。流行り病でね……」


「そう……」



それから沈黙が続き、外の小鳥の声が部屋に響いた。

するとリオはまた口を開き始めた。



「私ね、あれから一人の男性と結婚したのだけれど、あまり上手くいかなくて……愛想つかされてしまったのよ。

今はあの人がとう様に抱いていた気持ちわかる気がしてきたわ。

可笑しいわよね、あんなに嫌ってきたのに……」


「ねえ様、かあ様のことは聞かないのね。

まるでかあ様が居ないことを知ってるみたい」


リオは冷めてしまった紅茶を飲み干すと、ふふっと笑った。


「ええ、悪魔と契約して死んだのでしょう。

とう様が亡くなる前に聞いたわ。

元々はあの人の血筋では魔女の一族が混じってたらしいけど、薄れていたんでしょうね。

だから悪魔を呼べても契る資格がなくて体が滅んだんでしょうね。

……悪魔祓いを家業にしているとね、風の噂の様に聞いてしまうんですって。

私が子宝に恵まれなかった理由もね」


リオは自身のお腹を触った。

リセはその様子に何か気づいたのか、眉を下げた。


「……あのときかあ様は呼んだ悪魔が言ってた。

私だけの代償では足りないって。

……私がねえ様に謝りに行けばよかったのに。

ごめんなさい」


「ううん、リセのせいじゃないわ。

それにこれは悪魔達と関わりすぎた私達一族の末路なの。

……とう様の代わりに貴女にこれを渡しに来たの」


リオはそう言うと、一冊の本をテーブルの上に置いた。


「謝るのは私の方よ。

私は一族の重荷を貴女にも背負わせるのだから。

私はこれからある施設の管理をすることになったの。

表向きはただの孤児院だけれど力を制御できない化物の子供を監視する施設よ」


「なんでねえ様がそんなところに? 」


「とう様のおじい様の兄夫婦が管理していたらしいわ。

とう様が亡くなった後に知人のエンフィールドさんに聞いたの。

でも勘違いしないで私は子供達を監視するつもりはないわ。

普通の子供として教養や心を育てていくつもりだから」


「……エンフィールド」


ユヅルはリオのその様子を見て悟った。

彼女はあの施設に出ていた子供たちの末路を知らされていないまま死んでしまったのだ、と。

そして知人と名乗ったのは強欲の悪魔シキ・ヴァイスハイト。

間違いなくアルカラが接触したのだろうと考えられた。

それは藍も同じなのか言葉一つ一つを絞りだす声色で分かった。


「ここからはとう様が先代から言われ続けた遺言よ。【この本を狙っていつの日か何者か訪れる。決して渡してはいけない秘密が記されている。命燃え朽ちるときまでこれを渡してはいけない】…言っている意味分からないわよね。

でもこれを渡されて気づいた。

これが狙われるのは遠くない未来だって。

……そしてもう私は目をつけられてしまったって。

この本は貴女に渡しておくわ。

私は模写したものを本物として所持する様にする。

少しでも長くこの本の存在をその何者かに暴かれないように。

そろそろ私は帰るわね、貴女に会えてよかったわ」


「ねえ様、私も会えてよかった。

……さようなら」


「ええ、さようならリセ。ありがとう」


リオはそう言うと、椅子から立ち上がり扉を開き、外へ出ていく。

そして振り向き、ユヅルの方に視線を向けた。


「この子を守ってくださいね」


「……っ、お前」



リオはにこりと笑うと、扉はパタンと閉まった。

ユヅルは急いで扉を開こうとすると、服の裾をグイっと引っ張られ振り向いた。

藍は苦しそうに頭を抱え、屈んでいた。ユヅルの裾を掴む手は震えている。


「大丈夫か? 」


ユヅルはしゃがむと、藍の顔を覗き込む。


「頭が痛いんです……。

ずっと何か忘れている?

違う……頭の中に入ってくる。

女の子?

火、黒い影……」


「……」


「……あの日悪魔に捧げたのは命が生まれるはずだった器官なのに。

私はどうして存在しているんでしょうか……? 」


「やっぱりお前、姉さんの……」


「違う。

……悪魔はあのときなんて言った? 」


ユヅルは藍を抱きしめた。藍は驚いたように目を見開く。


「……あのとき姉さんは悪魔に子宮を捧げると言った。

それが女性の一番の幸福だと姉さんは思っていたから。

けれど悪魔はそれだけじゃ足りないって言ったよな」


藍はこくりと頷く。


「……悪魔はすべて欲しいと言いました。

髪も瞳も鼻も唇も爪も心臓も。

心も君のすべてが欲しいって。

……どうしてですか?

エリーゼ様の瞳を持っていたからですか? 」


「違うよ。

姉さんが持っていた瞳を欲しかったんじゃない。

悪魔は姉さん自身を本当に欲しがったんだ。

だから住む場所も着る服も食べるモノも人も。

生きる為すべて分け与えたんだ」


「そしたらどうしてあの時、助けてくれなかったんですか?

おかあさんを……」


ドンドンと扉を叩く音がし、パチパチと木々が燃える音がする。


「ここに町に災いを起こした魔女が住んでると聞いた!!

証言はお前が騙した男に聞いている! 」


男達はズカズカと部屋の中に入ってくると、ユヅルが見えていないのかユヅルを通り越してリセの手頸を掴み引きずるように外へと連れていく。

ユヅルは立ちあがると、部屋のクローゼットを開いた。

すると一人の女の子震えながらユヅルを見上げる。


「姉さんは悪魔にお前の命を助けてくれと言ったんだ。

……あのときの僕はお前の存在を知らないまま暴走してしまった。

そしてお前に言われた通り姉さんを事実的に殺してしまったんだ。

これを知る為にお前は僕を【藍】の中に誘いこんだんだろう? 【朱】」


少女は少し寂しそうに、けれども安心したような顔で笑った。


「そうですねきっかけを作ったのは【朱】ですが、それを知ろうと進み始めたのは【藍】です。

……ありがとうユヅル。この子を今度こそ守ってくださいね」


ユヅルは少女を抱きかかえると、外へと飛び出した。

そこには全身火炙りにされた人々と姉の亡骸を抱え、泣き叫ぶユヅルの姿があった。

ユヅルの傍らには狂ったように笑う悪魔が居た。

半身は人の姿だがもう半身は頭に二つの角が生えており、大きな羽虫の様な翼が生えていた。


「ああ、いつ見ても本当に悪夢のようだな……」


ユヅルはぽつりとそうつぶやき、歩みを森の方へと向けた。

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