第9話~祝賀会~

「みんな無くなっちゃいましたね」

 城壁だけを残し草木も生えない荒れ地となった地面だけがむき出しのままのダビの跡地に黄昏の金色の夕日が差し込む。

 そこにボロボロの法衣を着たミイラと化した少女のパフェがたたずみぽつりと呟く。

「私以外」

 パフェは太陽の光に焼かれてボロボロと細かく崩れていく身体で、ミルの前にひざまずきこうべを垂れる。

「最後のお仕事をお願いします」

「———はい」

 パフェの最後のお願いにミルは固くまじめな顔で答える。

 ミルは両手で持った杖をパフェと自らの間の地面につきたてる。

 すると杖の石突き部分から二つの光が地面を走り始める。

 それ等は曲線や直線の軌跡を残しながら杖を中心に大きな魔法陣を描く。

「神よ。貴方様より授かりしこのギフトをもって、この哀れな魂の汚れを祓います。どうかこの者の魂の先行きに幸あらんことを。祝福あらんことを――――


 ディヴァイン・クリアランス」


 法陣の輝きがドンドン強くなっていき、日が暮れ始めた空を照らす。

 その光は天まで昇り、1人の魂を導く。

 天に昇ったのは年相応に可愛らしい少女の姿だった。

 キラキラと光る魂の残滓を一同それぞれの思いを胸に秘め見送った。

 振り返ったミルはダンテ達を見て笑顔で告げる。

「ミッション、コンプリートですね」



「かんぱーーーーーーーーい!」

 掲げられたジョッキが盛大に打ち鳴らされて、注がれたエールがあふれ飛び散る。

 しかしそんなのに顔をしかめるものは誰1人おらず、皆満面の笑顔で宴会の開始を喜んだ。

「いやーダンナ。本当に4人でダビを攻略しちまうとはな。しかも1日で」

 ローゴの町の町長がすでに赤い顔でダンテの首に腕を回してほめたたえる。

 宴会の会場は町の中心の広場である。

 即席の宴会場は町中から大きいなテーブルが集められ、ギルドにある酒場の料理長をはじめ町の腕自慢達が料理をドンドン用意する。

 酒もジャンジャン出されてきた。

 これ等の支払いはエイラが出すとのことで皆遠慮なく町中の在庫を引っぱり出せという勢いで宴会を盛り上げる。

 主賓はと言うとダンテ、クゥ、ミル、レーヴァテインのダビ攻略に参加した4人であり、ホスト役のエイラとその従者たちに主賓席でもてなされていた。

 その席にはいろんな人が入れ代わり立ち代わりお礼や祝いなどを言いにやって来る。

 そんな中でダンテが。

「MVPはミルだ~~~~~~~~~~!」

 と叫んだものだからミルはみんなから持ち上げられてもてはやされる。その為ミルは少し困ってしまった。

 だが、ダンテに物理的に持ち上げられてお姫様抱っこされたことにはご満悦だった。

 と言うか、ミルも少し酔ている。その気分のいいミルは思う。

 あぁ、偉大な神よ。T字教団の戒律に飲酒を禁じることなくお許しくださってありがとうございます。と、どんどん酒を飲んでいく。

 そんな中。

「ちょっとオジ様、何やってるんですか!」

 と、エイラの叫びが響き、皆の視線がエイラに集まる。

「何って、ミルをお姫様抱っこしてるんだが?」

「それじゃありません。いえ、そっちにも一言言いたいですが、それよりもクゥちゃん。クゥちゃんに何飲ませてるんですか!」

「何って、ジャックの家の天才スパルタ酒造の夜鳴きエールだぞ」

「何ですか、その天理スタミナラーメンの夜鳴きラーメンみたいな名前のお酒は」

「ヒット商品だぞ」

「そんなことどうでもいいですわ」

「まぁまぁ、お前も飲んでみろ」

 そう言って強引にエイラにジョッキを持たせたダンテは―――


「エイラのカッコいいとこ見てみたい~~~♪」


「え?え?なんですそれ」

 戸惑うエイラに対してダンテは手を叩いて。

「そ~~れ、イッキ、イッキ、イッキ」

 その音頭がダンテから他の皆にも伝播して。

「イッキ、イッキ、イッキ、イッキ、イッキ、イッキ」

 周りにいる大勢でイッキとはやし立てるようにコールされた。

 エイラは戸惑いながら周りを見渡したらみんなが手を叩いて催促してくる。

 助けを求めて従者のマルタを見れば。

「イッキ、イッキ、イッキ」

 と、皆と一緒になって手を叩いていた。

 エイラがダンテに視線を戻すと―――

 ニヤニヤといじわるそうに笑っていた。

「くっ」

 それを見たエイラは悔し気に唇を噛んで。

「いきますわよ~~~~~!」

 叫ぶと腰に手を当てて背筋を伸ばして一気にジョッキをあおり出した。

 その豪快な飲みっぷりに観衆から「オオオオオオオ~~~」と歓声が上がった。

「————っぷはぁぁぁぁ!どうですか!」

 エールを一気に飲み干して前かがみになったエイラはグイッと口元を手の甲で拭いダンテに啖呵を切った。


 ちなみにそれを見ていた酒場「クレイジー」の料理長は。

「地球だとアルハラで捕まるぞ。それ」

 そう呟いていた。

 そう、これは異世界だからこそであって地球では犯罪です。

 飲酒はモラルをもって法律に従って楽しみましょう。

 ダメ!飲酒運転。アルハラ。


「で!それはそうとクゥちゃんはまだ子供なんですよ。お酒を飲ませたらダメっでしょうが!」

「はぁ~~~~。うるさいなぁ。そんなんだから小姑ヒロインなんて呼ばれるんだぞ」

「誰ですかそんなこと言うのはぁぁぁぁぁぁぁ!」

 とエイラの何時もの1発芸が振舞われ、皆から拍手が上がる。

「誰って、この世界を生み出した神様」

「創造神ンンンンンンンンンン!」

 そこからは猛烈なヘッドバンキングに移るエイラ。進化した1発芸に観衆から再び喝采が上がる。

「ねぇミルママ、神様バカにされてるけどいいの?」

「大丈夫ですよ。創造神とボクの信仰してるTの神は別神べつじんですし」

 濃い味付けの肉料理が好きなクゥはスッキリとキレのあるラガーの方を気に入り、肉の油こっさをラガーでグビグビ行きながらミルに訊ねる。

 対するミルは野菜や「クレイジー」の料理長自慢のだし巻き卵が気に入りそれに合う芳醇な香りのエールを飲んでいた。

「ねぇ、ミルママ」

 クゥは座った目でエイラのヘッドバンキングを眺めながら訪ねた。

「Tの神ってなんの神様?」

「Tの神は勝利と成功の神様です」

「それって全能の戦神?」

 クゥの質問にジョッキを傾けながらミルは否定の言葉を口にする。

「いいえ。Tの神は神すら未知の未来に挑戦するるものへ祝福を与える開拓の神です」

 その言葉を聞いてクゥはジョッキに口を付けながら目を見開く。

「Tの神は神が敷いた運命の道に沿って歩くだけの人生ではないと信じて、神すら超えんとするすべての挑戦者に加護を与えます」

 クゥはそれを聞いて顔を伏せ紡ぐ。

「なるほどね。だからワタシにも加護があったんだ――――」

「そうです。神はただ漫然と従う人類よりも己を超えんとする挑戦者こそを望んでおいでなのです」

 そう言って立ち上がったミルは声高にそう語りながらエールをあおる。

「ミ……ミルママ、酔ってる?」

「酔ってません。酔てるやつが酔ってるというのです!」

 普通逆である。

「ハハハハ……」

 クゥは乾いた笑みを浮かべながらラガーを口に運ぶのだった。


「オジ様は酔っていますね」

「いやお前の方が酔ってねーか?」

 ダンテは上体がふらふらと揺れて安定しないエイラにもっともなことを返す。

「酔ってないですわ」

「素面でそれってやばくねぇかぁ」

 ちなみに酔ってないというやつが酔っている者だ。

「そんなことよりクゥちゃんは子供ですわ。お酒を飲ませるのはいけないことですわ」

「今更だな。いいかエイラ。アフタヌーン王国の法律はベルカ帝国では通用しない」

 いろんな細かいところはあるが奴隷制なんかが顕著なところだ。

「知っていますわ。それがどうしたのですか」

「いいか、アフタヌーン王国では15歳から飲酒ができるが、ベルカ帝国では20歳にならないと飲酒できない。そういう法律だ」

「ええ、そうですわね」

 この間、2人は普通に話してるように見えるが2人共グイグイ飲んでいる。

「そしてエイラ。クゥはドラゴンだ。人間の姿をしていてもドラゴンなんだ。そして、アフタヌーン王国にはドラゴンを縛る法律は存在しない。もちろん飲酒についてもだ」

「なっ、そんなの詭弁ですわ。それなら飲んではいけないと――――」

 エイラがダンテの言い分に異議を申し立てようとするも。

「同じく法律に無いドワーフは生まれた時から飲んでいる」

「そ、そうでしたわー。でも私はクゥちゃんの―――」

「クゥ、お酒は美味しいか?」

 エイラがクゥを引き合いに出そうとするとすかさずダンテがクゥに訊ねた。

「うん、シュワシュワ美味しいーーー」

「ほら見ろ。第1、ここには酒を飲んでる人間の子供は何処にもいない」

「それはここには都会であぶれて田舎に引っ越してきた大人ばかりで子供がいないだけでしょう。私は断固として――――」

「エイラ!そこで小言を言うから小姑ヒロインなんて呼ばれるんだぞ」

「がーーーーーーーーん」

 よよよ。とショックを受けたエイラが背後のマルタに寄りかかり泣き出した。

「オジ様に怒られたーーーーーー!」

 泣き上戸であった。

「おーよちよち。姫様は何も悪くないでちゅよ」

 となだめるマルタ。

 しかしマルタの頬も高揚して何時も無表情なのに今は怪しき喜悦の色を瞳に浮かべている。つまりこっちも酔っていた。

「がははははは。酔ってねぇ奴はいねぇがーーーーーーー」

 ダンテがなまはげみたいなことを言って酒をあおる。

 その横に真顔のレーヴァテインがいる。

「ワシは酔ってなどいないのだな」

 と、ポンシュと呼ばれる透明のお酒をちびちびやっていた。

「ハイ。酔ってるやつに限って酔ってないという。論破ーー」

「…………」

「がははははは」

 豪快に笑うダンテに背中をバンバン叩かれながらも一切表情を変えないレーヴァテインが静かに酒を飲む。

 こうして宴会は大盛り上がりだった。



 そして翌日には――――

「あ”~~~~~~、頭が痛いですわ~~~~~」

「う~~~~~~ん頭がガンガンするよ~~~~~~」

「…………ぅぷ」

 と、二日酔いでつぶれる一同の死屍累々たる惨状があった。

 ダビ再開発のための会議のために集った議事堂ではあるが一同机に突っ伏して会話などできる状態ではなかったが、その中で真顔のレーヴァテインが言う。

「…………ワシは断じて二日酔いではないのだな」

「わっ!」

「ぐおおおおおおおおお!何をすのだなダンテ。くぅっ、頭がガンガンするのだな」

「それが二日酔いだ」

「あああぁぁぁぁぁ~~~~」

「おおおおう」

 流れ弾でうめく皆の中でミルが口を押えて飛び出して行った。まさに地獄絵図である。

「何でオジ様だけ平気なんですか~~~~」

 エイラが代表してダンテに問うた。

「俺か?俺はほら……、もっときついのに長年侵されてきたからな。肝臓が強いんだ」

「アバドンの毒肝ですか。食べれば二日酔いにならずに済みますか?」

「いや、普通食ったら死ぬから」

「ううぅ~~~、オジ様だけずるい~~~~」


「おお~い!旦那、朗報だぞ!」


 皆がうめく中大声をあげて部屋に入って来る者がいた。

 ギヌロン!

 途端にその者に本気の殺意がこもったダンテ以外の皆からの視線が集中した。

「ゥ……うおう。何?俺何かしたか?」

「気にすんな。皆二日酔いで殺気だってるだけだから」

 とダンテは部屋に入って来たドワーフのおっちゃんにフォローを入れる。

「しかしおっちゃん酒に弱いくせに二日酔いにはならんよな」

「おら、すぐに酔いつぶれちまうから二日酔いになるほど飲めねえんだ」

「なるほど、そういうことか」

 ハハハハハハ。

 二日酔いになっていない男二人の笑い声が頭に響くせいで二日酔いになった者たちからゴゴゴゴゴと殺気が目に見えそうなぐらいに立ち昇ったので、2人も本題に入ることにした。

「それでおっちゃん、朗報ってなんだ」

「おう、ダビ攻略の件を同胞の里に伝えておいたらもう来てくれたぜ」

「何?それってすぐに作業に入れるってことか」

「ああ、それで何から用意させるか聞きに来たんだ」

「それなら街道の整備からお願いしたい」

 ダンテはおっちゃんから話を聞いて即そう判断して指示を出す。

 しかし、それに反対する者がいた。———エイラだ。

「オジ様、まずは家を―――」

「かーーー!お前はバカか」

「にょっ」

 二日酔いで机に突っ伏すエイラの頭の上に「バカ」と掘られた岩が落ちてくる幻影が見えた。

 エイラは青い顔をしながら何故バカと言われたのかを問う。

「ど―――どういう意味ですかオジ様」

「いいか、今ダビの跡地に家を建てたとしても、それは田舎のローゴの町から片道3日かかる廃墟の中に有るポツンと一軒家に成るだけだぞ」

 「バカ」と掘られた岩の上に「ポツン」と掘られた岩が追加で降って来た。

ならレーヴァテインにでも資材と人員を運んでもらえば出来る」

「それでしたら砦のワイバーン騎士も使えば―――」

「私用で騎士を勝手に使うな。それよりその家で生活するならダビの廃墟を復興させなきゃならない。その為には整備された道が必要だ。それに加えてエイラ」

「は、はい」

「ダビの再開発は俺達だけの一存だけじゃ出来ない。お前が言っていた旧バカナ伯爵領を自領としてもらう話は進んでんのか」

 その質問にはエイラも顔を引き締めて、引き締めても頭痛で顔を引くつかせながらも、姿勢を正して答える。

「問題ありませんわ。根回しは十分にしていますし、お父様からもダビの件を片付けられるのなら好きにしていいと書簡をもらっています。後は報告と正式な拝領の手続きを行うだけですわ」

「ならばお前はお前の仕事をしろ。こっちはこっちでちゃんとするから」

「オジ様」

「パパー。やる気になってるーーー?」

 やる気に満ちたダンテの顔に感激するエイラにダンテは一つ頷いて返す。そしてクゥの髪をなでてから抱き上げて膝の上に乗せてから言った。

クゥお姫様が勇気をくれたからな。パパやる気十分だ」

 ダンテはそう言ってからクゥに頬ずりをする。

「パパ~、お髭ジョリジョリ~」

「ふむ、髭を剃るところから始めるか」

 その様子を見てエイラは小指を噛んで独り言ちる。

「私がオジ様の勇気に成りたかったですわ。なんか私だけ出番なしじゃありませんか?」

「いや、お前は俺の家を燃やして思いっきり目立ってるぞ」

「完全に悪役令嬢じゃないですか!」

「自業自得だろ」

「このままでは終わりませんわよ」

「完全に悪役だな。それよりもクゥはお礼何がいい~?」

「パパ、お髭ジョリジョリ~~」



 ダンテとクゥはのんびりとローゴの町を歩いていた。

 クゥが産まれてから2週間がたつが、初っ端から家を建てろとそれまで住んでいた家を燃やされて、次の日にはダビ攻略宣言。

 それからダビ攻略にクゥを同行させるための戦闘訓練で実はゆっくりローゴの町を歩くのはこれが初めてになる。

「クゥ、何処か行ってみたいところとかあるか?」

「あるー。本屋さんとか行ってみたいー」

「本屋さんか~。う~ん」

 ダンテは歩きながら空を仰いでうなる。

「クゥが欲しがってるような本が有るか分からないけど、行ってみますか」

「おー。パンツァーフォー、だよ」

「ははは、今頃ミルがくしゃみしてるかもな」


「はくちゅん。うう~、二日酔いに加えて風邪ですか?うぅ、今日はついていないです」


「ほら、ここが本屋だ」

「わ~い。すっごい古本屋感」

 そこはモダンと言っていいのか木と古い紙とインクの匂いが漂ってくるようなたたずまいのお店だった。

 狭い入り口から2人が店内に入ると。

「うわぁ、本がぎゅうぎゅうに詰まってる」

「そうだな。都会の本屋ならもうちょっときちんと並んでいて、綺麗で豪華なんだがな」

「今度そっちにも連れて行って」

「おう。今日はここで我慢してくれ」

「いやいや、これはこれで情緒があっていいよ」

 と、突然すまし顔で言うクゥ。

「おっ、言うねぇ生後2週間」

「ふっふ~ん。ドラゴンの知性舐めないでよね」

「ほ~ん。それはどれくらいなんだ」

「ミルママに5つの言葉と文字を教えてもらってる」

「へ~、すげえな」

 って、すげえなってレベルじゃねぇぞ。俺だって若いころから色々世界を回っていくつかの言語を使える。そして知ったことだが世界を回ったが国や地方でくせが有るくらいで、人類は基本的に同じ言語と文字を扱う。

 違う言葉を使うのは俺が知らないような遠くの国か、人類と共存していない亜人種や魔族なくらいであり、人類は基本1か国語くらいしか使わないし、亜人種も自種族の言葉と人類語の2か国語くらいで十分だ。

 それを生後2週間で5つも覚えているドラゴンパネェ~。

 てか、教えてるミルもパないな。流石に立場が立場なだけはあるわ。

 と、ダンテが内心舌を巻いていると。

「まぁ、真龍は他種族言語を扱えて当然だから普通だって、レーヴァテインのおじさんは言ってたけど」

 よし、あのバカはいっぺん殴っておくか。と、ダンテが決意しながらも笑顔で告げる。

「いや、クゥは凄いって」

「いやだなぁ。パパ、凄いのはミルママだよ」

「いや確かにミルは凄いけど」

 どんだけ盛るんだ創造神、と思うダンテ。

「おじさんはいくつ使えるんだ?」

「10個って言ってた」

「そうか。ならクゥは15個以上学んで、おじさんにこう言ってやっれ。「オジサンは2千年生きて10個?それで賢者?プギャァァァァァ!」てな。そしたらおじさん大泣きして喜ぶぜ」

「ほんと。じゃぁ頑張る。ところでプギャァァァァァ!って、どういう意味?」

「おじさん凄い!尊敬するって意味意だよ」

「分かった」


その頃、二日酔いで巣に戻っていたレーヴァテインを悪寒が襲う。

「ブルルルル。断じてワシは二日酔いではない。が、この悪寒は風邪なのかだな?」


「それで、いい本はあるか?」

 とダンテは本の山に立ち向かうクゥに訊ねる。

「う~~~ん。やっぱり絵本はないね」

「そうだろうな。この町はクゥ以外の子供は居ないからな」

「そうなの?」

「そっ、ここローゴの町は元々過疎化が進んでた農村の町だったんだがな。10年前のダビの件で伯爵が失墜して、元居た若者は都会に出ていき残ったのは年寄りと他の町のあぶれ者ばかり。この町はそれで隠居者の町と呼ばれるようになった。だからこの町は骨董品や古本ばかりに成っちまった」

「そうなんだ~~~」

「クゥの次に若いのがミルで、次がエイラだな」

「パパってロリコン?」

「誰だ?クゥにそんなこと教えたヤツ」

「エイラママ~~」

「あいつか~~~~」

「パパ、エイラママのこと嫌い~~?」

「嫌いじゃないよ。むしろ好きな方なんだけどな~~~~~」

「なんだけど~」

「イロモノ感がぬぐえない」

「ハハハ~~。あれ?これは」

 ダンテと話しながらも本の山を物色していたクゥは一冊の本を手に取った。

「なんだこれ?俺には読めないな」

 それは色あせた赤い装丁の本だった。

「どうだ。クゥには読めるか?」

「う~~~ん?なんとなく。……たま…………きん、たま~~?」

「アウト~~!」

「あっ。魂の禁書だ」

「どっちにしてもアウト。何その魔導書」

「パパ~。これ、どちらかと言うと聖書ぽい気配を感じるよ」

「聖書?どれどれ」

 ダンテはクゥから本を受け取りパラパラとページをめくっては眉を顰める。

「うむ。やっぱりパパには何書いてあるかさっぱり判らない。が、確かに古代神殿のレリーフや精霊文字に似ているな」

 そう言ってクゥに本を返す。

「たぶん、これは神様やらが信徒に試練を与えるために書かせた書物なんだよ。で、私はこれを解読してみたい。パパ、買ってくれる?」

「うん。危ない物でもなさそうだしいいぞ」

 ということで会計をするために店主の爺さんのところに行く。

「10万リッチじゃ」

「じじぃ。ボッタくってんじゃねぇぞ。さっきの俺らの話盗み聞きしてやがっただろう。ここに100リッチて書いてあんだろうが!」

「チッ。ケチじゃのう。どうせ金持ってんだから使えや。娘へのプレゼントに安モンやらずに気張れよ」

「いいんです~~~~。クゥとはこれからスウィーツ食べに行ったりするんだから」

 と言い、ダンテはテーブルに代金をバンッと叩きつけるように置いて店から出ていく。

「毎度あり~~♪」

 そうしてダンテはクゥを連れて酒場「クレイジー」に向かう。

 あそこの料理長、クマみたいな見た目をしながらパフェというあの女の子と同じ名前の可愛らしいスウィーツを作るのだ。

 その道中でクゥがダンテの服の裾を引っぱった。

「ねぇ、パパ~。さっきの本当に金貨を支払ってよかったの?」

「うぅん。目ざといなクゥ。いいんだよ、あの人には若い頃世話になったからな」

「ふぅん。……ねぇパパ。お願いがあるんだけど」

「おっ、なんだ。クゥからお願いなんて珍しいな。パパ何でも聞いちゃう」

「パパはミルママのこと好き?」

「あぁ、大好きだぞ」

「ならねぇ――――」

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